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マウイ神の力

 ニュージーランドで人気の観光地であるフィヨルドランドに立ち寄ったカイは、マオリ神の友であるトゥテ・ラキファノアと出会う。

 マオリ民族の伝説によると、険しいフィヨルドの地形は、神と崇められていたトゥテ・ラキファノアという巨人が、斧を使って刻んだものだと言い伝えられており、万物に対して思慮深いトゥテ・ラキファノアによって創られた壮大で複雑な地形は、現代においてもなお、独特な生態系を生み育てている。


「昨日沢山雨が降ったみたいで、色々な滝が見えてラッキーだったね」

「うんうん、滝、たっくさんあって綺麗だったぁ」

「あの大きいのは飛沫がすごかったね。レインコートが必要かもって言われたの納得」

「だよな・・あ、モアナじゃん。!」


 心地良い結月達の声が聞こえ、緩やかにカイの視聴覚が目覚め始めると、先ほどまで近くに居たはずのモアナが遠くに見え、彼を迎えるように左右に手を振る壮星が隣に立っている。

『あれ?』

 カイは状況が掴めずに戸惑っていると、周辺の山々の写真を撮っていた結月のスマホにウルタプが映る。

「ウルタプちゃんも帰ってきたよ」

『この会話・・・』

 カイは時間が戻っていることに戸惑うと、眠ってしまっていたのかと右頬を抓ってみる。

『あの巨人は夢だったのか?』


『ああ、教えるの忘れてたわ』

 ウルタプの声が頭に響くとカイは彼女と目を合わせた。

『ウルタプ、お前って奴は、まったく』

『カイ殿、マウイ様は時間を操る力をお持ちでござる』

 モアナの呆れたような声に続いて、落ち着いたフェヌアの呼び掛けがカイの脳裏に届くと、カイは首を左右に振りウルタプ、モアナ、フェヌアの姿を確認した。

『カイが皆から頭がおかしな奴って思われへんようにマウイ様が時間を戻されたんや。お優しいなぁ』

『ウルタプ、マウイ様の能力くらい説明しておけ』

 声は発していなくても、大きく鼻穴を膨らませたモアナは、同時にカイの元に到着したウルタプを睨みつけるが、口を尖らせ即座に明後日を向いた彼女の視線の先に現れたフェヌアにも渋い顔を返される。

 タイミングの良いモアナ達の登場に喜んでいた壮星達だったが、険悪な雰囲気に無言になってしまい、思わず視線をカイに向けると説明を求める表情を浮かべた。


「神様の僕は大変みたいだね。ははは」

「なんだそれ」

 意味不明な返答のカイに消化不良な面持ちを浮かべた壮星達は最初唖然としたものの、すぐに納得したように口角を上げると表情を緩める。

「クルージングはおもろかったか?」

「ウルタプ様っ、そりゃあもう、素晴らしい眺めでした」

 声を掛けてきたウルタプに壮星が即座に応えるとニコリと笑った。

「満足したなら先を急ぐぞ」

「得策でござるな」

 マウイ神の僕達は各々に海族や月族の情報を得たのだろう。彼らの声音に焦りを感じた皆はすぐさま言葉に従うとアリの車に向かって歩き出す。

「どうやって移動しますかな?」

 アリもカイ達の後に続くと、混雑したパーキング場に停める自分の車を眺めた。アリの問いかけに一番後ろを歩いていた僕3人はピタリと足を止めるが、彼等の行動に気付かないカイ達は立ち止まることなくアリの車に向かう。


「このまま海に出てウェストコーストに行くか」

 モアナの提案にフェヌアとウルタプも妙案だと考えるが徐々に遠のいていくカイの背が視覚に入ると、3人同時にハッとする。

「ワナカとテカポに行きたいと申してござったな」

「氷山超えも楽しみにしとったな」

「イルカ達の情報だと海が異常に荒れていると言っていたしな」

 背後に寂しさを感じたカイは振り返ると揃って腕組をする僕達と距離ができていることに気付く。

「おーい、どうしたんだ?」

 カイの大きな声を合図に壮星達の足も止まると全員の視線が僕達に集中する。

「大丈夫や、そのまま車に行き」

 カイ達にそう声を掛けたウルタプが、歩みを進めるとモアナとフェヌアも彼女に続く。

「ウェストコーストに着く前に夜になってまうけど、ここは深い森に囲まれてるし、トゥテ・ラキファノア様のお陰でマナの補充もできた。うちの力で車ごと移動するのも問題ないやろ」

「そうだな。ウルタプの移動がこの中では一番早い。それにワナカであれば自分の力で湖に逃げ込んでもいい」

「車は満杯でござるゆえ、拙者は道中を注視しながら、テカポでそなたらと落ち合うでござる」

 3人は同時にうなずくと歩みを速めカイの背に追いついた。


「ウルタプ様、本当ですか? うれしいですぅ」

 ウルタプがワナカとテカポを探検した後、夜は彼女の小屋で過ごすと告げたため、両手を合わせ、幸せな気持ちを全身で表現する壮星が真っ先に反応した。


 ウルタプの力でアリの車ごとフィヨルドを後にした一行は、ワナカへと向かう。

 クウィーンズタウンから1時間半の距離にあるワナカは、周囲を南アルプス山脈に囲まれ、夏季は湖畔での釣りやウォーターアクティビティに加え、登山にハイキング、冬季にはスキーヤー、スノーボーダーに人気の観光地である。都会的でリゾート化したクウィーンズタウンと異なり、田舎町の雰囲気を残すワナカは、高級から庶民的なレストランと宿泊地があり、ゆったりと休暇を楽しみたい旅行者に人気である。

「うーん」

 車から降りた結月達は湖を眺めながら両腕を天高く上げると思い切り伸びをする。

「気持ちいい」

「クウィーンズタウンもよかったけど、ここワナカは可愛くて好き」

「だなぁ、俺もここの雰囲気ホッとする」

「あっあれだっ!」

 いつも冷静な凛だが興奮気味に声を上げると、湖の真ん中を指さした。

「どうした凛」

 珍しく大声を上げた凛の顔を覗き込んだ壮星と結月だったが、凛の指し示す先に視線を移す。

「何だあれ?」

「すごいね」

 壮星と結月の眼には湖のど真ん中に力強く立つ一本の木が映る。


 この木は、【ワナカツリー(孤独な柳の木)】と呼ばれ湖の底から生えているかのように見える一本の柳の木で、周囲の山々の風景と湖の美しさに溶けこみ、幻想的な姿を醸し出している。市街地から近く湖畔の遊歩道から見つけることができるため、ワナカを訪れる際には行程に取り入れたいフォトスポットである。




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