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フィヨルドランド

 マウイ神が釣り上げたとされる大魚やそれを守る海族、そしてマウイ神の母、月の女神ヒナが困難に直面しているのかもしれないと危惧した一同は、急いでクウィーンズタウンを後にする。北へ進む前に海族等の情報を得る必要性を訴えたモアナに賛同した皆は、タスマン海に通じるフィヨルドランド国立公園に立ち寄ることにした。


 フィヨルドランド国立公園は、南島の南西部に位置するニュージーランド最大の国立公園で世界遺産に登録されている。太古から変わらない貴重なエリアで、10万年もの長い年月の中、氷河によって削られたU字型の深い谷に海水が入り込む景色と、そそり立つ峻厳な山々の姿は、訪れた人々を映画「ロードオブザリング」の世界に紛れこんだ気分にさせる。フィヨルドランド国立公園では、ウォーキングから数日かけてのハイキングができるミルフォードトラックや、初心者から熟練者まで楽しめるカヤックなど、様々なアクティビティを提供してくれる。加えて断崖絶壁から流れ落ちる滝の最も綺麗な水の飛沫を浴び、その雄大さをクルーズ船上で直接肌で感じとれるクルーズツアーはデイツアーと船上で宿泊するオーバーナイトクルーズが用意されている。ミルフォードサウンドクルーズよりもワイルドな体験ができるダウトフル・サウンドクルーズも人気が高い。

 またミルフォードサウンドの玄関口である小さな田舎町テアナウからミルフォードサウンドを結ぶ120kmの美しいドライブコース、ミルフォードロードにある水面に周囲の山々が映り込む美しい湖、ミラー湖やホーマートンネルも外せない観光名所の一つといえる。


 フィヨルドランドに到着した一行は、クルーズに参加するカイ達と、タスマン海まで自分のワカ(カヌー)で海の近況を探りに行くモアナと、森で情報を探るウルタプの3グループに分かれる。カイのガード役として彼等に同行したフェヌアは、船上では終始難しい顔をしておりカイの緊張度を高めた。

 ニュージーランド南島の南西部にはフィヨルドランドを含む4つの国立公園があり、この一帯は【テ・ワヒポウナム】と呼ばれマオリ語で、【翡翠がある場所】を意味する。そのため、カイとマウイ神の僕達が持つポウナムは、フィヨルドランドに近づいた途端、まるでマナを蓄えるように仄かな光を放った。最初驚いたカイであったが、フェヌアから説明を受けたカイは、観光客の目に留まらぬようにそっと、服の下にペンダントを滑り込ませる。すると、通常であれば冷たいポウナムが暖かくカイの緊張を若干和らげてくれたのだ。


「モアナじゃん。おーい!」

 クルーズから下船したカイ達は、興奮やまぬ様子で絶景と出会った野生動物の話に花を咲かせていると、遠くから険しい顔で登場したモアナを壮星が見つけ、大きく手を振った。すると、そんな彼にモアナが軽く右手を上げる。

「ウルタプちゃんも帰ってきたよ」

 自分達が乗っていたクルーズ船とフィヨルドの大自然を再び撮影していた結月のスマートフォンの画面にこれまた難しい顔で現れたウルタプが映る。


「ウルタプ・・・っ! 危ない! 後ろ!」

 モアナとの合流に壮星とともに手を振っていたカイだったが、ウルタプも戻ってきたのを知ると笑顔で振り返った。しかし、ウルタプの背後には5階建てビルのように巨大な怪物がいたため慌ててウルタプに危険を知らせる。

 ウルタプと仲間達の身の危険を案じるカイは、慌てふためいていると、誰かに肩を掴まれた。

「まぁ、普通の人間はビビるよな」

「当然でござる」

 カイの肩に手を置いたモアナはカイの顔を覗き込みながらそう告ると、腕組みをするフェヌアがカイの隣に並び巨人を眺めながら、カイの心情を代弁した。

「あの巨人は安全なのか? 俺の仲間には見えていないのか?」

「あれは・・・」

 フェヌアがカイに巨人の説明をしようとした途端、ウルタプの背後で静かに歩いていた巨人が突如ウルタプを追い越すとカイに向かって突進して来る。

「うおっ・・・」

 怯みそうになったカイだったが、服の下に隠していたポウナムが強く反応すると、カイの顔つきも変わった。

「久しいの、大男よ。まだここに居ったか」

「がはははっ! マウイよ。相変わらずだのぉ」

 言葉を交わした大男はクルリとした目を細め、しゃがみ込むと、愛おしそうに

 カイの中にあるマウイを包み込んだ。

「天も地も海も山も穢れてきておる。今回ばかりはお主を皆が欲しているぞ」

「そのようだな・・・」

 カイの体を抱きしめていた巨人は腕を開放すると、厳しい表情のマウイ神が薄っすらと浮かびあがる。

「儂の助けが必要な時はいつでも呼べ」

「頼もしいな」

「モアナにフェヌアも相変わらず、マウイに忠誠だな。感心、感心、がははは」

 カイの身体と巨人の傍らで跪いていたモアナ達は顔を上げる。

「トゥテ・ラキファノア様もご健在で何よりです」

「マウイ様へ忠義を尽くすことが我等の誇りでござる」

「そうか、そうか、がははは」

 満足そうに大笑いをした巨人は静かに立ち上がると、先ほどまでとは打って変わって難しい面持ちに変わる。

「今回ばかりはお前たちの力が必要だろう。儂の友をどうか守ってくれ」

「はっはぁ」

 真剣な顔でマウイの身を案じる巨人に僕達は深々と頭を下げた。

「先を急ぐのだろ。マウイよ、全てが終わったら、酒でも吞みたいの」

「ああ、そうだな」

 巨人は中腰になると大きな両手の平で、マウイ神を思いながらカイの両頬を包み自身の鼻をカイの鼻に合わせ【ホンギ】を行った。

「童よ、驚かせてスマンかったな」

 マウイ神から解放されたカイは、ハッとすると自分の前に聳え立つ巨人を見上げる。意識の遠くで微かに聞こえていた会話と心に響いた懐かしさから、前に立つ巨人への恐怖心はすっかり消えていたが、カイは未だに呆然としており上手く言葉が出なかった。

 マウイ神の気配が消えたため立ち上がった僕達は、カイの顔を覗き込む。

「トゥテ・ラキファノア様は、マウイ様のご友人であらせられる」

「前回はここに立ち寄らなかったため、お会い出来なかったがな」

 フェヌアの後にモアナが付け加える。

「さっき、カイ達が楽しんだ船の航路を造られたのが、トゥテ・ラキファノア様やで」

 ウルタプは腕を組むと自慢気に説明を加える。

「童よ。今回はマウイの力が必要のようだ。許せよ」

「あっ」

 カイが応える間もなく、トゥテ・ラキファノアはその場から大きな姿を消した。


「マウイ神の力が必要・・・」

 巨人が残した言葉を零すと、彼の残影が焼きついた両瞼を強く閉じた。












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