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地震の原因

 壮星達を乗せた美しい蒸気船TSSアーンスロー号が、大きな大地の揺れによって発生した湖津波に襲われるが、モアナが持つ水を操る能力によって船を波に乗らせると難を逃れる。蒸気船が無事に到着した船着き場に駆けつけたカイは、彼と同様にTSSアーンスロー号に搭乗した家族や知人の安否を憂慮する人達に紛れながら壮星達の姿を必死で探した。


「壮星っ! 結月っ! 凛っ!」

 あちらこちらで黄色い声があがる中、のんびりと下船してくる壮星達に思い切りカイが抱き付く。

「おお、カイ、びっくりした」

「カイ? 何かあった?」

「カイ君、どうしたの?」

 大きな津波に飲み込まれそうになったにも拘らず、平然としている壮星達にカイは、抱き付くために広げていた腕を縮めると壮星達とは対照的な形相で彼等を見つめた。


「どうしたって、船が・・お前等が乗ってた船がヒックリ返りそうになって・・ でも無事で良かった」

「本当に、皆、無事でよかったよ」

 カイに追い付いたレイノルドがカイと同様に壮星達の無事にホッとした顔をすると、肩を上下させながら息を整えた。

「すっげぇ楽しかったぜ。モアナなんか、興奮しっぱなしで鼻の穴をずっと広げてたしな、アハハ」

 カイとレイノルドの憂慮する言葉が一遍も耳に入らなかったのか、壮星は声を弾ませながら応えると、結月達も彼に続く。

「山々と湖、牧場の組み合わせが絶景だったぁ〜」

「羊達が可愛かったね」

「そうだ、カイ、羊って尻尾があったんだね」

 高ぶった気持ちが冷めやらぬ様子の壮星達は、口々に自分の気持ちを言葉にすると、憂慮顔のカイに気付かずに突拍子もない質問をする。

「え? 尻尾? ああ、羊も立派な尻尾がある。病気にならないように普通は小さい時に切ってしまうけど・・・ってそんなことよりも揺れただろ?」

 恐ろしい体験をしたにも拘らず、カイやモアナに気を使って無理に楽しかったフリをしているのかと一瞬頭をよぎるが、心底クルージングに満足した様にも見える。

「そうだね。でも船旅ってあんな感じでしょ」

 顎に指をあて空を見上げながら、旅を回想すると結月が応えた。

「な、なら良かった」

「不思議だね」

 カイとレイノルドは唖然とした顔で向き合うと、首を横に傾けた時、誰かに自分達の肩を掴まれる。

「モアナっ、急に消えたから探しただろ」

 下船と同時に姿を消していたモアナがウルタプ、フェヌアと共に現れると壮星から一喝を受けた。

「すまん。ウルタプ達に報告があってな」

 モアナは壮星に詫びると辺りを厳しい目で見渡した。

「皆々方が無事で何よりでござる」

 フェヌアがそう告げると、ウルタプやカイ達が深く頷いた。

「さっきから無事無事って何かあったのか?」

「そう言えば泣いてる人とか居るね」

「あ、本当だぁ」

 同じ船に乗っていた人々も下船時にはカイと同様に安堵した顔に出迎えられている様子がようやく結月達の目に留まる。

「後で説明するからさ、とりあえず飯食おうぜ」

「だねぇ、美味しいモノ沢山買ったよ」

 カイは大きな笑みを浮かべ腹に手をあてると、隣に立つレイノルドも皆にウィンクを送った。

「腹減ったぁ」

「うん、私も」

「私も」

 先に歩みを進めたカイの後を口々に空腹を訴えながら壮星達が続く。

「あれ? レイは?」

 先程まで隣に居たはずのレイノルドの姿がそこに無い事に気付いたカイが周辺を探すと、しゃがみ込んだレイノルドが少女と話をしている姿が目に入る。

「カイ、ごめん」

 自分のために皆の歩を止めたことに謝罪しながら、小走りでカイの隣にレイノルドが戻って来る。

「さっきの子は知合いなのか?」

「いや、あの子が落としたぬいぐるみを拾ったんだよ」

「そっか・・・あ、レイ、それ」

 レイノルドの襟元に深い緑色のポウナウ石が光る。

「さっきの女の子がくれたんだよ。僕が拾ったぬいぐるみが宝物だからだって」

 レイノルドは照れ笑いを浮かべながらポウナウ石を手の平で包むと、シャツの下に潜り込ませた。

「レイ?」

 胸元がざわめいたカイは、隣で歩くレイノルドが何故か別人のように感じて思わず声を掛けてしまう。

「カイ?」

 ご機嫌のレイノルドは清々しい笑顔をカイに向ける。

「いや」

 身体の中心に痛みを感じたカイは手を胸元に置くと誰にも気付かれないように呼吸を整えた。


 テイクアウトした食事を囲みながら地震が起きたこと、その後、湖に発生した津波に壮星達が乗っていた蒸気船がのみ込まれそうになったことを、結月達を動揺させないように静かに語った。

 壮星達は、カイ達が用意してくれた食事に次々と手を伸ばしていたが、話が進むにつれ彼等の手に勢いを失う。


「なにはともあれ、皆が無事で本当に良かったね」

 すっかり静かになってしまったテーブルにレイノルドは声を掛ける。

「だよな」

 レイノルドに同意したカイは深く頷いた後、テーブル脇の木の下で座り込んでいたモアナに視線を向けると立ち上がった。

「皆を助けてくれたのはモアナだよね? モアナが居なかったら、こうして皆で食事なんて出来なかったと思う。本当にありがとうございました」

 カイは言葉に想いをこめながらモアナに礼を述べると深々と頭を下げる。すると、壮星達も慌てて立ち上がった。

「俺達、そんな大変なことになっているとは全然知らなかったし、モアナが助けてくれてたなんて気付かなった。ごめん。それから有難う」

「壮星の言う通り、私も全然知らなくて、外の視界が急に広がって遠くまで見えるって喜んでた。ごめんなさい。助けて貰って有難う」

「私も。日頃ちゃんと観察しているつもりだったのに、今回は全く気が付かなかった。有難うございます。お蔭で命拾いをしました」

 壮星達も口々にモアナに感謝を述べると頭を下げる。

 皆に礼を述べられたモアナは遠くにあった視線をテーブルに移し照れ臭そうに鼻を擦ると顎を前に軽く突き出して応えた。

「それにしても奴等は何がしたいんやろな? モアナが水を操れるくらい知ってるやろ」

 そう告げたウルタプは、底なしの食欲を満たすよに、また手を伸ばすとビザを一切れ口に含んだ。

「自分が狙いかと思ったが、あの津波は自然に起こったものだろう」

 モアナは胡坐をかいていた足を片足立てると膝に肘を乗せ湖を眺めた。

「では地震が真の目的であったでござるか・・あっ」

 モアナと木を挟んで背を合わすように座禅を組んでいたフェヌアが何かに気付いたように大きく目を開ける。

「いよいよ、ヤバい状況なんかもしれんな」

 ピザソースが付いた指を舐めながらウルタプが言葉を零す。

「ヤバいってどういう事だよっ!」

 モアナに礼を告げた後、再び腰を下ろしたカイ達は、ジュースで喉を潤いながら静かに僕達の会話を聞いていたが、慌ててカップをテーブルに置いたカイがウルタプに詰め寄った。

「海や月に何かが起こってるんや」

「急がねばならぬな」

「そのようだな」

 三人の僕は同時に憂慮な面持ちをカイに向けた。

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