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荒れ狂う湖

 クウィーンズタウンの名所の一つであるワカティプ湖上を優雅にクルーズする蒸気船TSSアーンスロー号に興味を示したモアナのために、一同はクルージングに参加する壮星のグループと、ウルタプの胃袋を満足させるカイのグループとに別れることになった。

 一人では大き過ぎるクウィーンズタウンでは人気のハンバーガーをペロリと平らげたウルタプは、現代のウィンドーショッピングを楽しみながら、モアナ達と落ち合う事になっている湖沿いの公園に向かった。


「おーい、そのピザは皆で食べるんだからな」

「分かってるわ」

 ニューヨークサイズの特大ピザが入った箱を両手で持つウルタプの背中が、美味しい香りの誘惑に抗っているのを語っていたためカイが注意する。

 ウルタプ以外は、壮星達と一緒に食事をしようと皆テイクアウトをしており、各々両手いっぱいにピザやハンバーガーなどを抱え、待ち合わせ場所に足を向ける。

「ウルタプ」

 先を進むウルタプに小走りで追いついたカイが呼び掛ける。

「心配せんでも、食べへん言うてるやろ」

「あ、ああ、そうじゃなくてさ」

「何や」

 ウルタプは自分の肩幅の倍ほどもあるピザ箱を動かさないように用心しながらカイに視線を移す。

「月族がさ、どうして俺のTIKIを狙うのかなって」

「TIKIには、母様がマウイ様を守るために分け与えた力が込められてる。それが必要ってことは、母様の身に何かがあったと考えてまう」

「そうなんだ。太陽が敵か味方か分からないってのは?」

「マウイ様の伝説知ってるやろ?」

 ウルタプは眉間にシワをつくると、ピザの箱に戻していた意識をカイに向ける。

「え? あ、あのマウイ神が太陽を捕まえたってやつか?」

「はぁっ? それだけか?」

 語尾を上げたウルタプの言葉にカイは目線を上に向け記憶を辿る。

「えーと、確か、昼が短くて兄達が困っていたから、太陽を捕まえてユックリと動くようにしたんだよな・・・ ってことは恨んでるのか?」

「そうやない。月の出番を減らしたったって喜んでたわ」

 市街地の雑踏から離れると、食べ物を落とさないように緊張していたカイの腕の筋肉が少しだけ余裕を持つ。会話を弾ませながら湖の周りを軽快に歩く人々の姿が目に入ると、自分達まで爽快な気分なる。

「怒っていないなら、どうして敵か味方か分からないんだ?」

「太陽神テラ様は月の女神ヒナ様がお嫌いやからや」

「嫌い? ハァ~ いつの時代も好き嫌いってあるんだな」

「神々は理解できへんくらい我儘やで」

「はぁー プッはははは」

「ハァー あっハハハハ」

 カイとウルタプは同時に溜息をつくと思わず噴き出してしまう。

「何がそんなにおかしいの?」

 食事を購入後、道中終始、フェヌアに纏わりつきながら侍言葉を教授されていたレイノルドが、ウルタプと楽しそうに会話するカイの隣に小走りで追いつくと話掛けた。


「いや、神々は我儘なんだってさ」

 突拍子もないカイからの言葉にレイノルドは一瞬言葉を飲み込むと脳内をフル転回させる。

「いつの世も神々は我儘でござる」

 軽い口調のウルタプの言葉に真実味をつけるようにフェヌアが背後からカイに語り掛けた。

「うぉっ フェヌア、びっくりした」

「フェヌアさんが言うってことは本当なんだね」

「何やて」

「だってなぁ」

「こらっ」

 ウルタプは不機嫌な顔になると、おもむろにピザの箱を開け中からピザを一切れ取り出そうとする。

「ウルタプ、ごめんごめん。謝るからさ、食べるのもうちょっと待って」

「ちっ」

 ふて腐れたように装って、こそっとピザを一切れ食べてやろうと企んでいたウルタプは、カイの素直な頼みに黙ってピザ箱の蓋を閉めたところで、あっと上を向いた。

「ウルタプ様ぁ~」

「ツイツイか」

 ウルタプからの指示でこの先の安全な工程を探るため森達から情報を聞き出してきたツイツイがウルタプの元に戻って来きのだ。

「ツイツイお帰り。ご苦労様でした」

 ウルタプの肩に乗るツイツイと目を合わせたカイは小さく頭を下げた。

「カイ殿、お優しい言葉、おーきに」

 ツイツイも丁寧にお辞儀をすると胸元の白い雪洞を揺らす。

 目的地であった公園が目に入るが、モアナ達の姿は見当たらず、皆で食事が出来るテーブルとベンチを探した。ちょうどいい大きさのウッドテーブルとチェアを見付けたカイ達は、運んで来たまだ暖かいテイクアウトを一斉にテーブルに置くと両腕をリラックスさせる。

「モアナ楽しめてるかな?」

「だといいね」

 カイとレイノルドは、湖とその向こうに聳える山々を眺めながらモアナ達の笑顔を想像するとベンチに座った。

 その時、突如何処からか聞いた事のない音に、先程下した腰を再び上げようとするが、足が着く地面が上下左右に揺れ始めたため思わず座り込んでしまう。

「地震かよ?」

「カイ、だよねっ」

 木製のテーブルに手を着くカイにウルタプとフェヌアは覆い被さると即座に彼を守る体制に入りながら辺りを見渡した。

 湖沿いを歩いていた人々も、カイと同様に地震の発生に驚き歩を止めていると、先程まで波一つなく穏やかだった湖が突如荒れ始め、水面からの飛沫が容赦なく彼等に浴びせたため、あちらこちらで悲鳴が上げる。

「あれは・・ 阿保やな」

「モアナが湖も操れる事を存じてないようでござるな」

 ウルタプとフェヌアの話声が聞こえたカイは、顔を上げると恐ろしい風景が彼の眼に飛び込んで来る。

「うわっ! 船が転覆するよっ! 壮星達がっ!」

「カイっ! どうしようっ!」

 先程の地震により発生したと思われる湖津波がモアナ達が搭乗した船に迫っていたのだ。

 地震の揺れに驚き椅子に座り込んでしまったカイとレイノルドだったが、仲間を案じるため思わず立ち上がると湖の方へ向かおうとするが、ウルタプに腕を掴まれる。

「大丈夫や。見とき」

「右に同じ」

「でもっ! このままじゃ波に呑み込まれるだろっ!」

 動揺を隠せないカイは、ウルタプの手を振り払うと聞く耳を持たず湖へ足を向けようとするが、口をポカンと開けるレイノルドに肩を掴まれた。

「カイ、あれ見て」

「何だよ、レイ」

 気ばかりが焦るカイは、レイノルドに対しても強い口調で答えてしまうが、すぐさまレイノルドと同じ様に口を大きく開けると足を止めた。

 今まさに湖で発生した大津波に呑み込まれそうになっていた蒸気船が、サーフボードのようにその波を乗りこなしていたのだった。

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