第12話 久野井忍法分身の術
「忍者の道具のことを忍具というのよね。手裏剣と同じくらい有名なのが苦無よ」
弥生が忍者の道具箱の中から苦無を持ってきた。
苦無というのは鉄でできた平たい両方に刃のある刃物である。
弥生が持ってきたのは練習用の木製の苦無だった。
「苦無は戦いに使ったり、手裏剣みたいに投げたり、土を掘ったり、壁を登る時に使ったりと色々と使えたので苦労無しということで苦無と呼ばれたとも言われていたらしいのよね」
「苦無って便利な道具だったのだね」
天野が感心して言った。
弥生は忍具を使った練習をしている練習生達の所にやってきた。
木刀を持った若い男性と鎖分銅を持った若い女性が向かい合って立っていた。
二人は軽く礼をすると戦闘態勢に入った。
男性が木刀を持って女性に突進してきた。
女性は鎖で木刀を受けると鎖で木刀を巻きつけた。
次の瞬間女性の蹴りが男性の腹部に当たって男性は倒れた。
倒れた男性が立ち上がって女性に右手の拳で殴りかかった。
女性はその拳を鎖分銅の鎖で巻きつけて男性を投げた。
弥生は拍手しながら言った。
「今のは鎖分銅の使い方の一部よ。いい、天野君、今から面白いものを見せるわね」
弥生はそう言うと鎖分銅を手にした。
鎖分銅は長さが1メートルくらいあった。
弥生は天野に木刀を渡した。
「天野君、私をよく見ているのよ。さあどこからでも打ってきなさい」
「いや、将来の花嫁にそんなことはできないよ」
「何言っているの。私が天野君に打たれると思っているの。私はくノ一よ。忍者以外の者からは打たれないわ」
弥生はそう言いながら鎖分銅の分銅をブンブンと回し始めた。
天野は一瞬眠くなった。
天野は自分の目を疑った。
弥生が分身を始めたからだ。
一人二人三人やがて八人になると弥生は天野の周りを取り囲んだ。
天野は思い切り正面に見える弥生を木刀で打ってみたが空を切った。
次々と打ったが弥生には当たらなかった。
八人の弥生が分銅を回しながら天野に近づいてきた。
どれが本物の弥生なのか天野にはわからなかった。
突然天野の右横から弥生が練習用の木製の苦無を当てた。
天野の腹部に木製の苦無が軽く当たった。
「天野君、実戦で相手が刃物を持っていたら君は死んでいるよ」
「これは一体何ですか?」
「久野井忍法の分身の術よ。実際には人間は分身できないからね。幻覚を見せたのよね」
天野が気づくと周りに練習生達が集まっていた。
弥生の久野井忍法分身の術を見学していたのだ。
「久野井忍法をコツコツ習得しないと分身の術はできないのよね」
「何事もコツコツとやる必要があるってことか」
「今日はこれくらいにしておくわ。終わりよ」




