蒼天の剣は空に輝く【後編】
「国王陛下! 今なんと!?」
「二度は言わないぞグレイ。 仇を必ず取りなさい!」
国王も洒落たことをする。
グレイが辛く打ちのめされていたことを、誰よりも知っているからこその粋な計らいなのだろう。
国王の心意気に感服する。
啜り泣くグレイは、国王に忠誠を誓い宣誓した。
「ありがとうございます国王陛下! わたくし、グレイ・マッケンリーがあの憎き大罪人を処分致します! 例え差し違えても必ずエマの仇を討ち取ってみせましょう!!」
「ならば行くがいい! 我が聖騎士グレイ・マッケンリー! あの日の屈辱を決して無駄にするな!!」
熱くグレイと拳を重ね、国王はグレイにある一振りを手渡した。
その剣は、グレイが過去に人々を守る為に振っていた物。
いわゆる、聖騎士にだけ代々受け継がれている聖剣である。
「私の剣まで持って来ていたのですか!?」
「当たり前だろう? この日の為に私が毎日手入れをしていたのだからな。 処刑にはその剣こそが相応しい!」
マントを靡かせて私たちに背を向ける国王は、颯爽と修練場を立ち去った。
「お前ら本当に茶番が好きなんだな。 気持ち悪くて仕方ないぜ。 仲良し子よしは家でやれや! あぁん!!」
「黙れクソ外道が!! 我が聖騎士グレイ・マッケンリーがこの場にて断罪する。 覚悟はいいな?」
「はん! かかってこいよボケジジイ! 未練に溺れさせて溺死させてやる!」
私はこの戦いを見届けるしかできない。
例えグレイが負けるとしても、その責任は私にあるのだから彼の生き様をしかと受け入れる覚悟もしている。
でもそんな理不尽て無いじゃない。
エマさんの復讐を抱き、振り下ろした一撃をかますと私は信じているのだから。
「グレイ!!」
「何でしょうかお嬢様」
「辛かったかも知れない。 苦しかったかも知れない。 憎悪で心が張り裂けそうだったかも知れない。 それだけ苦しんだのだからグレイは負けてはいけないのです! だから! 貴方の復讐に幕が降りた時は、私にもう一度アールグレイを入れて貰えませんか?」
熱くなり過ぎて喋りながら泣いてしまった私を、グレイはそっと優しく抱きしめていた。
「泣かないで下さいお嬢様。 この復讐が終わったらマリーお嬢様とカーリー、皆んなで仲良くお茶をしましょう。 その時まではどうか私の生き様を見届けて下さい!」
グレイは私の頭を撫でて慰めてくれた後、マルス・レインと対峙した。
すると、まるでグレイのスイッチが切り替わった様だ。
あんなにも優しい顔しか見たことが無かったのに、私には理解出来ない。
凄まじい殺気を放ち、轟く闇が私たちを吸い込む様にグレイから目が離せなくなってしまう。
『絶対に殺す』
その圧力に私は、死神でも見てしまったかの様な絶望感に恐怖した。
♦︎
緊張が増すこの場において、もう彼に話す言葉は無いのだろう。
互いが互いを殺そうと、牙を向き合っているのだ。
「お前も剣を持て!」
グレイは稽古をしていたであろう騎士の剣を、マルスに投げつけた。
「けっ! 騎士道とやらの情けか? 歳食ったジジイなんかに俺様が負ける訳ないだろが! 体をバラバラにして殺してやるよ!」
「お前では私を殺せやしないさ。 みくびるな小僧! 聖騎士グレイ・マッケンリー推して参る!!」
剣と剣の衝突が激しく音を鳴らし、修練場全体に響いている。
「ーーはあぁ!!」
年を感じさせず、怒れる獅子の様に斬撃を浴びせるが、マルス特有の身体能力により簡単に捌かれてしまう。
あの時と同じだ。
マルスは相手が年寄りだからと、わざと消耗戦を仕掛けている。
こうなってしまってはお互いに決定打も無くマルスが逃走を図るだろう。
と考えていた私が馬鹿だった様だ。
グレイは時間が経過する程にその剣速、斬撃の威力共に強くしなやかにマルスを追い詰めていた。
「ーーど、どうなってやがる!? リミッターでも外れたかぁ!?」
「集中しろ小僧ぉ!!」
剣筋が増していく。
三連撃から四連撃、今は五連撃まで斬撃が止まらない。
流石に辛抱ならなくなったマルスは、得意の体をグイッとくねらせてグレイの猛攻を回避していた。
「馬鹿の一つ覚えだなマルス」
「ーーなに?」
グレイはこのタイミングで斬撃を回避すると読んでいたみたいで、フェイントを仕掛け剣を引き込みながらマルスの胴体に渾身の蹴りをバッチリと入れていた。
「ーーぐはぁ!!」
グレイの蹴りが効いたらしく、マルスは地面に転がっている。
「勝負あったなマルス・レイン 一応私から申し上げて起きます。 お前なんかではお嬢様に相応しくありません。 婚約を破棄させて頂こう!!」
「ーーす、好きにしろ! なぁそんなことより何か昔によく似てないか?」
「どう言うことだ?」
「俺を追い詰め殺し損ねたその先だよ」
ケタケタと笑い出すマルスは、グレイを挑発していた。
ふと、思い出してグレイは我に返り顔が青ざめている。
「ーーお逃げ下さい! お嬢様!!」
パァン!!
硝煙の匂いとその銃声に、私は気が動転してしまっていた。
言葉が出なかったのである。
グレイの胴には、風穴が空いており私を銃弾から守ったのだ。
「ーーい、いやー!! どうしてよグレイ! なんで私を庇って……」
「ご無事で…… 良かった…… です……」
力無くグレイはその場に血を流し倒れてしまった。
「ちっ! 外した上に致命傷じゃないみたいだな。 苦しんで死ねる様にバラバラにしてあげるね!」
グレイの前髪を掴み。正面から語りかけるマルスは今から首を落とす様だ。
勢いよく剣を振ろうとしたその時、マルスの顔は赤く染まっていた。
「ーーな、何しやがった! 血が目に入って何も見えねぇ!」
ふらふらになりながらも力強く立ち上がる騎士の姿に、私共々は驚愕した。
「私の『毒』は服毒致した様だなマルス・レイン 覚悟は、よろしいか?」
最後の力を振り絞り、グレイは神速の鬼神が如くマルスの首元に狙いをつける。
「ーーていや!!」
その閃光の一閃は、マルスの首を地に落とした。
復讐を果たし、憎悪すら消し去ったグレイは倒れ込み剣を空に掲げてこう叫んだ。
「エマ、すまなかった。 ずっとずっと側に居たかった。 守りきれなかった俺を許してくれ! 思いもまともに伝えられないろくでなしだったが、今日は格好よかっただろ?」
幻影か。
エマさんが現れてそんなことないよ、ありがとうと言っている様な気が私にはしている。
復讐は復讐を呼ぶだけだと、大体の物は否定するであろう。
そんなのは不粋だ。
彼女の尊厳を守る為にグレイ・マッケンリーは、この生涯を燃やしていたのだから。
「私は! エマを! 愛している!!」
紅き血染めのその剣は、蒼天の空に蒼く輝いていた。
最後まで読んで頂きましてありがとうございました!
短編版も投稿していますので、そちらの方でも読んで頂けると嬉しいです。
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