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王子と王女の政略結婚 -背の高い私と、背の低い貴方と-  作者: たま


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第十四話 レセプションパーティ

レセプションパーティ当日、朝は準備の為に早くから起こされた。

これでもか、というくらい念入りに体中磨かれ、髪の毛もきっちりと結い上げる。

ここまでガチガチに結い上げたら、ちょっとやそっとでは崩れない。

まぁ、ダンスをするからきっちり結わないといけないけど、オタゴリアとは違う結い上げ方で面白い。

自分のドレスも、オタゴリア刺繍職人が縫い上げた総レースの豪奢なマーメイドラインのドレス。

上半身から膝上までは体に添うように、膝からはふんわりと広がっている。

胸元は、オタゴリアの紋章をモチーフに上手に縫われている。

同様にオペラグローブも総刺繍だ。

私の背の高さを生かす様にデザインされている。

「私」が一番きれいに美しく見えるデザイン。

「私」が一番スタイル良く見えるデザイン。

そこにはジェイコブ様への忖度は一切なく。

ただ、私だけのためのドレスだった。


最後に丁寧に紅をのせる。


鏡の前にいるのは、自分で言うのもなんだけど、威厳溢れるオタゴリアの王女殿下であるアリシア・ジェーンだ。


「ありがとう、とても素敵ね」


私は自分で自分を励ます様に顎を引いて、侍女に向けて満足だ、というように微笑んだ。

ジェイコブ様を待つために続き間のドアを開けたら、既にジェイコブ様がソファに座って待っていた。


「アリシア王女殿下、お迎えに上がりました」


私を見て微笑んだジェイコブ様は、当たり前だけど正装だ。

彼はカンタベル軍の最終所属であった位、大尉用の赤の軍服を着ていた。

金の縁取りがされているので軍服と言っても婚礼用に変えてあるのだろう。

飾りボタンも凝っていて、靴は黒々と輝いている。


「ドレス、とてもお似合いです。

凄いですね、オタゴリアの総レースですか。

本当に素晴らしい出来栄えです。

アリシア王女殿下、私は貴方をエスコート出来る権利を有することに誇りを感じます」


そう言って手を差し出すジェイコブ様に、私は手を預け顔を上げた。


レセプションパーティが始まる。

粛々と予定通り進行され、


私とジェイコブ様が入場する番になる。

今まで王族として何度も入場してきた夜会。

でもそこは自国で、私は守られてきた。

そして、ここは他国で、これから私が生きていく場所。

軽く目を閉じた。

視線を感じ、ジェイコブ様を見ると私だけに聞こえる様に小さな声で囁いた。


「アリシア、とても綺麗だよ。大丈夫」


そしてすぐに視線を前に移す。


「ジェイコブ王太子殿下並びに、アリシア・ジェーンオタゴリア第一王女殿下、ご入場です」


ドアが開き、ジェイコブ様のエスコートの元静々と席まで進む。

紳士、淑女の礼をとる貴族の中、私は前だけを見つめ彼らの横を通り過ぎる。

痛いくらいに感じる視線。

微笑ましく私達を見る人がいれば、、眉をひそめる人がいる。

驚いたような顔をする人も、勿論いた。

その場の雰囲気に飲まれはしないが、オタゴリアに比べると、王族と貴族の距離が近くに感じる。

だから、なのだろうか。

オタゴリアに比べ、あからさまに私に対する反応が顔に出る。

顔に笑みはたたえているのだろう、でも、眉は?目は?口元は?

微笑んでいても、何を思っているのかは大体分かる。

それを、受け流す方法も。

ジェイコブ様は、言ってくれた。

大丈夫、と。

だから、顔を上げて。

私は、オタゴリア第一王女、アリシア・ジェーンだ。


王と王妃が私達を改めて紹介し、上位貴族が挨拶に席までくる。

簡単な一言一言の挨拶。

まずは側妃様ご一行。

通り一辺倒の挨拶。

大体はおめでとうございます、両国間の友好に祝福を、などで私は笑顔で受け流す。

そして、ついにオダリングス侯爵が家族を伴ってきた。

一瞬、顎を引いて何を言われるか身構えてしまう。


「おめでとうございます、ジェイコブ王太子殿下、アリシア王女殿下。

今後はカンタベルの指針になるようなご夫婦になることをお祈り申し上げます」


余りにも普通の挨拶で身構え多分、気が抜けてしまう。

そうか、彼は普通なのか。彼の妻と、娘が少しアレなだけなのか。

そして、想像していたよりもオダリングス侯爵は細身で、背が高かった。ジェシカ嬢は一体誰に似ているのだろうか、というくらい公爵とも似ていなかった。

流石に公的な場だからか、彼だけが挨拶をして夫人もジェシカ嬢も後ろで控えて礼をして終わった。


楽団が話に響かないように静かに音を奏でる。

その場を縫うように私達は歩きながら挨拶を受け流していく。

私達に向けられる視線、視線、視線。

好奇心に満ちた目、純粋におめでとうと祝福してくれる目、色々な視線を受ける。

ジェイコブ様は私の傍を一歩も離れずエスコートしながら歩く。

ジェイコブ様はいつだって、堂々としている。


一通り軽く談笑して周った。

ちょっと癖があって中々聴き取れない発音で話す人、早口で話す人、オタゴリアの言葉で挨拶をしてくれる人、様々だ。

今日給仕されていたワインはスパークリングワインだった。

アルコール分が強めだが甘いので、とても飲みやすいもの。

緊張もあったのか、人に酔ったのか。

場をごまかすために、口に何度も含んだ普段よりも強いアルコールのせいだろうか?

足元がふらりと揺れた。

身体がとん、とジェイコブ様の肩にぶつかった。

私の顔を見上げたジェイコブ様の瞳が一瞬だけ開いた。


「アリシア?少し、休もうか?

夜風に当たってこよう。

おいで」


「主役が席を外すわけにはいきません」


そう答えたものの、アルコールのせいか身体も暑い。

身体もフワフワしている気分だ。


「少しくらいなら、大丈夫だよ」


彼はキョロキョロと周囲を見回すと、誰かに何か合図をしたのだろう。

半ば強引にグイと腰を押され迷うことなく、私達が入ってきた扉に向かう。


向かいながらも、歩けば皆におめでとうございます、と声をかけられるので、何だかこそばゆい気分になる。


扉を開けると、侍女と護衛が控えていたが、ジェイコブ様は何も言わずにそのまま私をエスコートして歩く。

てっきり侍女に任せてジェイコブ様は戻るかと思っていたので、私は焦った。


「主役が二人も抜けてしまったら、皆が困ります、せめてジェイコブ様だけでもお戻りにならないと」


そういった私を見て、ジェイコブ様は困ったように眉尻を下げて私を見た。


「…あのねぇ、アリシア…」


そう言って彼はわざとらしくため息をついた。

子供の我儘をなだめる様に、彼は首を振る。

その態度が、なんか癪に障る。


「何ですか、そんなため息ついて。

私は大丈夫ですよ、戻りましょう?

ね?戻りましょう?」


私が懇願するようにジェイコブ様に問うと、彼は肩を竦めた。


「そんなに私と一緒に戻るのが嫌なんですか?

そうですよね、酔っぱらいの大女なんて、大きいだけで何の役にも立ちはしない」


思わず口に出してしまった失言に、ジェイコブ様が一瞬眉を顰めた。


その瞬間、え、と思うよりも先に彼に強引に手を取られて窓のテラスに出た。

テラスから少し離れた場所にあるベンチに向かう。

その力強さに驚いてしまう。


そして気が付いた。


私よりも背が低いのに、私よりも大きな手を持っている事に、その力強さに。

指だって節々が太く、手も固い。

当然だが肩幅だって広い。


強引に引っ張られて分かる。

私の力じゃ彼に敵うはずもない事も。


私より背が低いのに、彼は男で。


私の方が背が高いのに、私は女で。


そんな当たり前の事が、変えられない事実が目の前にあって。


私は混乱して、ただ彼の後をついていく。


ホールの喧騒が遠く、潮騒のように聞こえた。

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