第二十話 出立(二回目)
「それじゃあ、行ってきます。今までお世話になりました」
翌日。俺たちは王都を出発した。
「ああ、元気にしてるんだよ」
「次あったときは負けないからな」
最近おなじみのこの二人もお見送りに来てくれて、しばらくの別れを惜しんだ。
「それじゃあ行ってきます」
とんだイベントを乗り越え、ついに、遂に俺たちは世界を救う(?)旅に出発したのだった。
のだが……
「暇なう」
「うん。まあ…そうなっちゃうよねえ」
王都を出発してかれこれ3時間。俺たちは既に暇を持て余していた。
「いやあ、たまにはこういうのもいいじゃないの~。のんびり馬車に揺られて旅なんてなかなかできることじゃないよ。
「ほれ、この双眼鏡を貸してやろう。遠くに見える生き物を見てたら時間なんて一瞬で溶けるぞ」
「そんなもの数時間も見てられないよ」
「まあまあ蒼野くん。こちらの本でもどうですか。勇者と魔王が出てくる王道の物語ですが、この国の地理や文化が色濃く表れていてなかなか面白いですよ」
「それはいいですね。読ませてもらいます」
早くもお疲れムードが漂う俺たちを見て唯一の現地人であるサリアさんが一言。
「皆さんの国ではあまり長距離を移動されなかったんですか?この国では移動に数日から数週間かかるのはそれほど長いわけではないのですが…」
「いや、そういうわけではなくて、これよりも乗り物が遥かに早かったのですよ」
「この軍馬よりも速いとなると、スレイプニルやユニコーンくらいのものですが、そちらの乗り物は本当に優れていたんですね」
「ええ、まあ」
この馬車も遅いわけではない。というか、馬車にしてはかなり早い。
ヨーロッパなどであったらしい駅馬車は毎時5.6マイル程度だったと記憶しているが、この馬車は軽く時速20kmは出ている気がする。
だがそうは言っても自動車や新幹線、ましてや航空機のスピードと比べてしまえば極めて遅い。文明の利器に慣れ切った俺たちがくたびれるのも多少は大目に見てほしい。
「しのぶ~」
「なんでありますか」
「さっきから何やってんの?」
この子はさっきから座禅を組んで目をつむっていた。まあ、瞑想といわれても俺は特に驚かないが。
「魔力操作の練習であります」
「魔力操作か。そのくらいはしといたほうがいいかもな。ここで無暗に魔法を放つわけにはいかないしなあ」
いくら軍馬といえども後ろから即死級の魔法がポンポン飛んできても冷静でいられるほど豪胆ではないだろう。いや、動かなかったらそれはそれでただの馬鹿だが。
魔力。それは全ての魔法の発動に必要な物。想像する限りのものに変化する星のエネルギー。まだまだ謎が多いがなくてはならないものなので、これの操作はここで生きていくためには大変に重要な技術となる。まだこの感覚を味わって日の浅い俺たちは、まだまだ慣れが必要だ。新しい感覚は身に沁みつくまでそれなりの時間がかかるよね。
「私たちが今向かっているのはこの国の南部。海とともに発展した港都カミナです。世界有数の港町ですので楽しみにしていてくださいね」
俺たちを励ますように次の都市の情報を告げるサリアさん。
でも、お遠いんでしょう?
この国はあれだ。日本とかじゃなくてアメリカとかそのくらいのスケールだ。
ここは自重せずに早急に高速移動用の乗り物を作ると、心に誓った一日だった。




