第二十一話 とある村の牧場で
俺たちが今南下真っ最中のこの場所の名はオリカ大平原。
降水量が少なめであるため森林が形成されず、広大な草原が広がっている。
そのため人々は川のほとりで農業を営んだり、動物たちを放牧したりして生計を立てている。
中には草原の中を駆け回る遊牧民もいるらしい。地球でも騎馬と騎射に優れた彼らは高い軍事力を発揮したらしいから、強大な生物が蔓延り魔法があるこの世界ではどれだけ強いのか想像もつかない。
街道と町村の近くの危険な生物は、騎士団が定期的に退治してくれるそうだ。領民を守ることは騎士の務めなのだろうね。
とはいえ完全に殺しつくすことはできないし、しないので、村民たちもある程度は戦えないといけないようだ。
幾日か進んだ俺たちは、そんな村の一つを訪れていた。
「勇者の皆様。ようこそお越しくださいました。何もない村ではありますが、どうぞごゆっくりお過ごしください」
この村では馬を休めるため、丸一日滞在することになっている。
俺たちにとっても最近は朝夕以外はずっと馬車の中にいたから、体をしっかり動かせる久々の時間だ。
俺としてもここでしっかりと動いておきたい。
「やあ、蒼野。一緒に牧場でも見に行かないか?珍しいんものが見られるに違いないよ」
そんなことを言ってくる水無月。
「でも、農家の方もご迷惑にならないでしょうか」
「大丈夫だって皇さん。別に邪魔をする気はないからさ」
まあ、俺としても興味はある。主に襲いに来る害獣対策のほうに。
「それじゃあ、ひとまず行ってみましょうか」
見学はあっさり許可された。勇者の称号がやはり効いているのだろう。
勇者らしいことはまだ何一つやっていないのだけれどね・
「モー、モー」
無駄に広い牧場にウシ(?)たちは放牧されていた。
「水無月さんや。あの動物はなんというのかね」
「ミノスと呼ばれている。この世界ではほぼ乳牛のような扱いをされているね」
「ああ、そうなの」
その生き物は、なんというか…とても乳房が大きかった。
一見茶色い毛皮をした普通のウシで、ジャージー種みたいな感じなのだが、ホルスタイン種よりも大幅に大きい。まさに乳を作るためだけの生物といった感じだ。
「これ、自然にいるのか?」
「それがいるらしいんだ。ヒトみたいに守る代わりに乳をもらって赤子の育成に使うような肉食獣が多くいるらしいんだ」
そんな進化もあるんだなぁ…。
「勇者のお兄ちゃーん」
牧場の牛舎のほうから、仕事を済ませたらしき少女が走って飛びついてきた。
「おう。よしよし」
しっかり受け止めておろしてやる。いやぁ俺も筋肉がつきましたな。
「すごいでしょ」
無垢な笑顔で誇られたので、俺も正直な感想を伝える。
「ああ。すごいな本当に」
さすが異世界。青々とした草原で悠々と過ごすミノス達は、本当に快適そうだった。
「どこを見ながら言っているんですか?まったく」
いや別に俺は驚いていただけで人外に興味はないしあそこまででかいとさすがに引くといいますか何といいますかですから別に全く卑下する必要はないですとも皇さん。
「別にどこも見てないですって。こんなに広い牧場を見たのは初めてで驚いていただけですよ」
「そうですか。まあ、それもそうですね」
こんな感じでみんなでのんびり草原に寝転がっていた時のことだった。
「ウー、ワンワン。ワンッ!」
一匹の犬(?)がこちらに駆け寄ってきた。
「どうしたの、ルー。何かあった?」
「ワンワン!」
「あ、ちょっと待ってよルー」
そいつはよほど急いでいるらしくまたすぐに走り出していった。ついでにこの牧場の女の子もついていった。
「俺たちも行きますか」
「そうしましょう」
犬ころたちについていくと、そこは牧場の端っこだった。
牧場の周りには柵が立てられていた。これは簡単なもので大して高くもないが、触ったり飛び越えようとしたりすると直接ダメージを与えて退散させるため、たいていの生物からは守れるらしい。
だが、今そこには並大抵ではない生物がいた。
「ウオオォォォォォオン」
2mに達しようかという体長。左目にかけて刻まれた傷跡。それでいて少し細さが目立つ体。
まぎれもない一匹狼である。
既に一頭のミノスが犠牲になり、体の大半を食い尽くされていた。
「生き残ったミノスを連れて逃げろ。早く!」
「は、はい!」
腰を抜かして地面に座り込んでいた少女を逃がし、俺たちは彼に向き直る。
「そんじゃ、支援よろしく」
「わかりました」
「了解」
返事を待たずして俺は抜刀し突っ込む。先手必勝という言葉もある。
「イヤァッ!」
「グアア」
ガン!
俺の刀と狼の爪が激突し…
俺が吹き飛ばされた。
「ちっ。なんて硬さだ」
君の爪何でできてるの?俺の刀は鋼なんだけど。
「疾く、貫け『雷光』」
「キングコブラより。『生成:神経毒』『注入』」
皇さんの放った電流が狼を直撃し、動きを一瞬止めた。
その隙に水無月が毒を作って注射した。もちろんすべて魔法で。
コブラの毒がこっちの生物にも効くかは怪しいところだが、あいつのことだ。試して効いたやつを入れたに違いない。
現に狼が動けなくなって苦しんでいる。むごいことをするものだ。
「より硬く、より鋭く『刀強化』『刀身保護』」
早く楽にしてやろう。さっきの反省を踏まえ、刀自体を強化しておく。これできっと切り裂けるはずだ。
「ラアア!」
スパッ。
狼の首はきれいに飛び、戦いはこれで終わった。
「いやっほー。新しい動物だ!これはあたしがもらっていくよ」
早速水無月は倒した狼を『回復』し、解剖を始めた。
「これは争いに敗れた個体だったようですから、群れのリーダーはもっと強いんでしょうね」
「ええ。連携もしっかりしているでしょうから、苦戦するかもしれませんね」
刀を弾く爪だもんなあ。今考えればあの爪も強化していたのだろうか。
「とりあえず、報告に戻りましょうか」
「そうですね。おーい、水無月。それは後にしろー」
ごねる彼女を引っ張って戻る。今日もなんだかんだ楽しい一日だった。




