第十九話 剣豪と楽聖
「キイヤアァアアアァアアアア!」
裂帛した雄たけびとともに振るわれた斬撃は、空を切り裂き地面にその余波を残した。
「火遁其の参『炎蛇』」
相対する者に生み出された三匹の獣は、指令に従いその者を焼き尽くさんと這い寄る。
が、
「フン!」
一息の合間に切り払われ、その短い生を瞬く間に終えた。
だが、彼らの召喚者にとってはその一瞬で十分だった。
目を引く獣に隠れて気配を断ち、背後から強襲を仕掛ける。
気配などというものは無く、たとえ察知してもこの体制からの防御は困難を極める。
そんな完璧な攻撃により、勝敗は決する。
その、はずだった。
「ヌンッ!」
ガキン!
先ほどの切り払いから流れるように回されたその刀は、相手の凶刃をしっかりと受け止めていた。
「ラアアアァアアァア!」
彼はそれを押し返し、相手ごと吹き飛ばした。
防がれた者は自分から飛び下がり、反転しながら華麗に着地した。
「腕を上げたようだな」
「そちらこそまた一段と強くなられたようで」
これが、我がクラスで近接戦最強と名高い今村治忠と望月忍の戦闘である。
試合の翌日、俺たちは騎士団の訓練施設で鍛錬を積んでいた。
王都での用事は済んだのでもうすぐにでも再び出発するだろうから、実践を前に最終調整といったところだろうか。
「いや~。いつ見てもあの二人は別格だよなあ」
今村治忠。歴史上でも最高峰ではないかと言われる剣豪。
剣豪というものの、薙刀・槍・細剣・短剣などの武器も普通に使えるらしい。
俺の使う剣術はすべて中二の時こいつに叩き込まれたものだ。
名前が近いからなんて理由でペアにされたときは本当に最悪な気分だったが、今ではかなりありがたく思える。不思議なこともあるもんだ。
「おい、アオノ。なんだあの二人は。他の奴らと全然動きが違うじゃないか。俺はてっきりお前が一番強いのかと思ってたぞ」
あらあらアルフレッドさん。
彼とイリーナさんは昨日に引き続き俺たちと一緒にいる。こちらとしてはありがたいのだが、大丈夫なんですかねえ?
「そんなわけないじゃないですか。武器を持った彼らのほうがよっぽど強いですよ」
俺が出たのは成り行きで押し付けられただけだから!そこんところしっかりよろしく。
「そうか。俺はちょっとあいつらのとこ行ってくるわ」
どっちのほうが強いんでしょうかね。俺は今村のほうが強いと思うけど、相性とかもあるでしょうし。
次に俺が向かったのは魔法エリア。
的が距離ごとにたくさん並んでいて精度向上にはもってこいだ。
温泉の泉が中に設けられていて、魔力切れになる心配もなくガンガン使っていける。
おかげで物騒な音が絶えなさそうなこの場所だが、少々今は事情が違った。
♪♪♬♩~♫♩~
「なんだ?ピアノの音?」
この世界にきてから、俺はピアノを見たことはない。いや、似たような楽器がないわけではなかったが、ここまで音は似ていなかったはずだ。
つまり、この音はうちの連中のうちの誰かが出していることになる。
ピアノを作ってしまったのか、はたまた音を再現しているだけなのか。どちらにしろ、聞きなれた音楽というものは心地いいから歓迎だけどね。
そこにいたのは、髪を左右におろし、場にそぐわぬ青系のロングドレスに身を包んだ女性。
天川謠その人である。
彼女は天に恵まれた音楽家である。ピアノを中心に弾くが、ほかの楽器を扱うこともあるし、指揮をすることもある。
演奏の技量もさることながら、作曲能力も非常に長けている。
彼女が今までに作曲した楽曲は全てが高い評価を受け、たちまち世界中で親しまれた。
まさに楽聖と呼ぶにふさわしい人物だ。
そんな彼女だが、今まではピアノを出すような能力は持っていなかったはずだ。
いろいろな魔法を練習していたようだったが、あまりうまく扱えていなかったのを覚えている。
何とかコツをつかみ、固有魔法をものにしてくれたようだ。
♩~♫♪♩~。
パチパチパチパチ…
演奏が終わり、一瞬の静寂の後に多くの拍手が巻き起こった。
彼女の奏でる音に魅了されぬものはここには誰一人としていなかった。
「素晴らしい演奏でした。このピアノは魔法で?」
「はい。やっと出せるようになりました。弾こうとしたらこの格好になって…。また着れるなんて思ってませんでした」
そういえば、このドレスに見覚えがある気がする。
確か、国内外での演奏会でよく来ていたものだ。話を聞く限り、随分と気に入っているようだ。
「これでなら私、いろいろな魔法が使える気がします。ちょっと見ていてください」
これで(・・・)なら?
♫♪♩~
弾き始めたのは、落ち着いた曲調でひんやりとした清流を思わせる曲。
相変わらずさすがのクオリティである。
おや?先ほどとはかなり様相が異なってきた。
彼女とピアノの周りに水が現れ、ゆったりと漂い始めた。
♪♩~
それを確認した彼女は曲調を変える。
先ほどよりもテンポが速く、あわただしさを感じさせる。
すると水流の速度が増し、激しくなってきた。
♩~♫♪。
そして最後にそのまま曲を閉じる。
周回していた水は一直線に的へ向かい、粉々に粉砕した。
なるほど。言葉で詠唱できるのなら、ピアノでできない道理はないでしょう?というわけだ。
いやはや、全く面白いことをしてくれる。




