第十八話 冒険者とお話し2
「魔法と魔術は基本的には同じものよ。魔力を使って事象を引き起こす。ここだけを見れば二つともほとんど変わりないわ」
「似たような魔法を繰り返し使っていれば慣れて上達するでしょう。魔法をしっかり発動できて消費魔力も次第に少なくなる。どんどん効率的に魔法が使えるようになる。これはみんな実感として持っていると思う」
「魔術はこれをできる限り高めた技術のことよ。魔法の技術の粋ということで魔術ってね」
ということは、あれか。魔法の熟練度がMaxの状態が魔術といったところか。
「具体的にどういったものですか?」
「実際に見てもらいましょうか。…はい。これが魔術よ」
そう言いつつイリーナさんが出した右手の人差し指と親指の間で放電が起こっていた。
「まあ、これだけでも使えないことはないんだけど、基本的に魔術はいくつか組み合わせて使うわね。例えば雷と直進の魔術を組み合わせて使うと…」
バチンッ
青白い光が彼女の指先から虚空に走って消えた。
「こうなるわけ。使う場所によって気温や地形とかの環境が変わってくるから、細かい調整を臨機応変に行うために詠唱が必要ね」
「ということは、イリーナさんが試合で使っていたものは厳密な魔術ではなく、魔術を使った魔法ということですか」
「そうなるわね。これから魔法を使うときにはその魔法がどんな部分に分かれていて、何をしているのか、ほかの魔法に同じところはないかといったことに気を払ってみるといいかもしれないね」
「イリーナさんご自身はどうやって魔術を使っているんですか?」
「どうやってと言われても、こうやってとしか言えないんだけど。魔法の認識は人によって異なるから、やり方は自分で見つけていくしかないね」
もう一度放電させて見せながらイリーナさんは言う。
なんともまあ厳しい。まあ俺もどうやって魔法を使っているのかと問われても大した説明ができる気がしないのでそんなものかもしれない。イメージを言語化って結構な無理ゲーだよね。
「話を聞いていると、魔法の練習を多く積んでいればみんなそのうちできそうな感じですけど、どうして魔術を使える人は少ないんですか?」
「まず一つだけ言わせてもらうと、君たちは極めて異常だよ。普通は杖もなしにそんなに自由に魔法を使えるもんじゃない」
「君たちは体内の魔力『オド』の総量もさることながら、何よりも処理能力が極めて高いね」
オドは全く魔力切れをしたことないからうすうすそんな気はしてたがやっぱりそうでしたか。でも、処理能力が高い理由は言うまでもないよね?
「一般的な魔法師は杖を使うことで負担を軽くしてやっと魔法が使えるのよ。それなのに何も使わないで普通に魔法を使ったからびっくりしたよ」
ちなみにそれは俺のことだ。皇さんは愛用の杖を一本持って行っていた。
…特に触れてなくてごめんね。
杖。それは地球のゲームでの魔法師の定番の装備。
それはたとえ異世界でも変わらない。
杖は魔力を流すことによってその魔力構造に応じた魔法の補助をすることができるというもの。
ちなみに魔力構造とは、魔力が流れやすい場所の構造であって、別に魔力が一定の形を保って中にあるわけではないことをここに記しておく。
照準や精度向上、威力向上などの種類があり、高いものだと火、水、風、雷などの発生の部分を補ってくれたり、威力の高い魔法を一つだけ完全に詠唱なしで使えるようにしたりする。
ちなみにこれらの魔力構造は魔力干渉により劣化しにくい宝石に基本的に刻まれていて、木や金属の部分はただの持ち手であることがほとんどだ。
「あと、魔法師として学んでない一般の人は魔法鉱石を主に使っているのよ」
その声を聞いて三嶋が一つの箱を持ってきた。全く自分の分野になると元気になるやつだ。
「はい、これが魔法鉱石」
その中には色とりどりの石がいくつも並んでいた。
「おおー、用意がいいねえ。そう、これらがこの国内で広く使われている魔法鉱石。これらを使った魔道具が広く普及しているよ」
「左から炎岩、水岩、氷岩、風岩、雷岩、光岩。魔力を流すとその名前のものを発生させる。それぞれ周辺の環境によって魔力構造を変えられてできると考えられている。それゆえ岩石成分は違っても同じ分類をされることがある」
「その通り。ちなみにこれらの構造とでき方を参考にして杖の加工が行われているんだそうだよ」
「へえーそうなんですか」
魔法に関する話はいくら繰り広げても全く尽きる様子を見せず、水無月が死にかけていた魚を魔法で再生して驚かれたり、イリーナさんたちが昔倒したという飛竜との武勇伝を聞いたりして時間は瞬く間に過ぎていったのであった。
「いやーすっかり長居しちゃったわね。楽しかったわ。ありがと」
「こちらこそ。いろいろなお話を聞かせていただきありがとうございました」
「いいってことよ」
「いやあんた今回何も話してなかったよね?」
「ん、んん。そんじゃあまた明日な」
強引に咳払いして帰っていくスコード氏。まあ、魔法の話をしてる時ずっと混ざれなくて手持ち無沙汰にしてたもんね。仕方ないね。
彼らは明日訓練に付き合ってくれるらしい。暇なのかな?
その日の夜。飯と風呂を堪能し、部屋に戻った後のこと。
「うわあ…。たいへんだー」
案の定大して片づけられずに帰られた俺の部屋は、まさに混沌の様相を呈していた。
「はーい。残ってるのはいらないものとみなすぞ。いいかぁ?いいなぁ?」
ちょっとテンションをおかしくしながら片づけを進める。やだなー、酔ってるわけないじゃないですか。おれはみせいねんですよ。
コンコン
「蒼野君。片づけの手伝いに来ましたよ。すみませんすっかり忘れちゃって」
「ああ皇さん。ありがとうございます。ちょっとまいっちゃってて」
きわめて心強い増援が来たことによって、俺の部屋はきれいに元に戻った。やっぱ一人で使う部屋じゃないんだよなあここ。
「魔術って、なんだが公式みたいだなって思ったんです」
唐突な話だしだが、理解できる。消費魔力が労力で、環境による変化が変数といったところだろうか。
「そうですね。雷魔法って、専用の杖なしに使える人自体ほとんどいないらしいですよ」
「それはずいぶん計算が大変なんでしょうね」
「微分の問題を定義通りにやるようなもんなんでしょうか」
「あはは。それは大変ですね」
ああ、やばい。眠い。やっぱ鍛えて一か月かそこらの体があの疲れをたった数時間の昼寝で取れるわけないんだよなあ。
「そろそろ寝ますね…って、おい」
皇さんはなんとソファーでぐっすりとお休みになられていた。
「どうしたもんかねえ」
とりあえずベッドに連れて行くんだが、彼女の部屋に連れて行くのは厳しいだろう。いやお隣なのだが万が一誰かに見られたら事だし、何よりカギを持っていない。
「俺のベッドで寝てもらうか…あ」
彼女を魔法で動かそうと思ったのだが、そういえば魔法をかけられるととても違和感がするのだった。なんというか、そんな感覚がするのだ。もしかしたらそれで起きてしまうかもしれない。
「仕方がない。そう。これは仕方がないのだ」
彼女を両手で抱きかかえる。俗にいうお姫様抱っこというやつだ。
俺の部屋のベッドは余裕で二人寝れるのだが、それはさすがにまずいだろう。
「穢れを清めよ『清潔』」
その場で思いついた魔法で気休め程度にきれいにして皇さんを寝かせる。
「それじゃあ、おやすみなさい」
俺はソファーのどれかで寝ればいいや。安物ベッドよりよっぽど寝れるだろうし。




