第十三話 温泉と美食
王都を歩き回って疲れた俺たちに待っているのは何か。それは温泉とうまい飯である。
疲労を癒すこれ以上のものがあるだろうか。いやない。異論は認めない。
ここ王都アリヴァスはオリヴァス山のふもとにあるので温泉が湧く。そのためこの街の多くの宿泊施設は温泉を引いた浴場を備えている。
もちろん、俺たち勇者一行が滞在するホテル『アリヴァスリゾート』は、その評判に見合う素晴らしい大浴場を備え付けていた。
「泡の湯。大量の泡が漂い、肌につくのが特徴的なお風呂。低めの温度でじっくりと楽しめます。手足のしびれや筋肉痛、お腹の痛みに効果あり。…って、思いっきり炭酸泉だねこれ」
いやあ、気持ちいい…。
重曹泉や硫黄泉など、様々な種類がある温泉ではあるが、俺はこの炭酸泉が一番好みだ。
低温ゆえにのぼせることも少なく、長い時間ぼーっとして体を休めることができる。そしてこの体につく泡もまた癖になる。肌を触るとその部分だけ泡が消え、再び付着していく。それを眺めるのもまた癒される。
「これはまた、日本の温泉旅館に引けを取らないレベルの浴場じゃないか」
そういいつつ入ってきたのは大久保悠斗。最近こいつとよく絡むなぁ。
「黄色に…白濁。うん。これはほぼ間違いなく炭酸だな」
「おい待てコラお前今何混ぜやがった」
お客様、温泉に試薬を混ぜるのはおやめください!
「蒼野。お前は本当によくやってくれたな。まさかこんなに早いとは思っていなかったよ。感謝する」
「そりゃどういたしまして」
まあ、旅の開催自体は元から決まってたみたいなんですがね。
「今日は明日の戦いに備えてしっかり英気を養っておけよ」
「明日の試合に出るのって…やっぱ俺?」
「当然であろう。こういう時に前に出るのはクラス委員と相場が決まっている」
大久保だけでなく、ほかにいたメンツもそろって首を縦に振る。
「ねえ、別に俺じゃなくでいいと思うんだけど。ねえねえみんな」
一斉に目をそらすクラスメイト達…
お前らクラス委員を面倒事委員だと思ってるだろ。そういうのはホントやめてほしい。
体は癒されたものの心がどんよりとしてしまった俺は、気分を変えて露天風呂へと足を延ばしていた。
「星の湯。魔力を特に多く含んだお湯があなたをたちまち癒します。慢性魔力欠乏症、魔力操作不良、魔法の過剰行使による反動などに効果あり。…なるほど。そういうのもあるのか」
これはさすがに地球にはありませんでしたわ。魔力系のダメージにも温泉は有効らしい。
「蒼野君か、こんばんは」
先客が一人いたようだ。
彼は物理・地学のプロ、三嶋元田だ。体が大きく口数も少ない。淡々と研究を推し進めている印象を受ける男だ。変わり者が多いうちのクラスでは数少ない常識人枠に入る。
「こんばんは」
俺も挨拶を返して湯船につかる。
おお、これはなんとも新鮮な湯だ。
湯の温かさがそのまま体に伝わり、内側から満たしていく。
湯の魔力に充てられた体の機能が活発になっていくのがわかる。今の状態ならかなりの魔法を撃つことができるだろう。
「この湯に限らず、温泉には魔力が多く含まれているが、それはなぜだと思う?」
唐突すぎたので誰に話しかけたのかと思ったが、ここには他に俺しかいないことに気づいて慌てて反応する。
「うーん。…見当がつかないな」
「魔力とは星のエネルギーで、この星の上のあらゆるところに存在するらしい。では、星のエネルギーとは何か。その定義はまだあいまいだ。だが、マグマは星のエネルギーだとはっきり言えるのではないだろうか。だから、マグマの成分を溶かしその熱エネルギーを受け取った温泉は魔力が多く含まれる。そう、僕は思う」
「なるほど。確かにあり得る」
「それだと火山は魔力が地上に噴き出す場所になる。魔法を知る人々が集まるのも道理」
だから王都が火山の麓にあるのか。
これは現時点では成り立っているように思える話だ。
「だが立証できる証拠は何もない。正しいか判断するのは早計にすぎる」
その通り。でもまあ、当面の理解の助けにはなってくれそうだ。
温泉の次はうまい飯である。これ最強のコンボなり。
俺達にはこのホテル自慢の懐石料理がふるまわれた。いや名称は違ったがほぼ懐石料理だった。
「この白身の刺身うまいな。コリっとした触感とほんのりと甘い脂、それに醤油の塩気が混じってたまらん!」
まるで上等な鯛だ。ここまでうまいのは食べたことはなかったが。
「こちらはラムイ川で採れたカワダイでございます。煮ても焼いても生でも美味しく頂ける人気の魚です」
やっぱり川に住む鯛じゃないですか。
「ほう、カワダイとな。どれどれ…なるほど。これは確かにタイに近い。淡水にすむのならティラピアにむしろ近いのかもしれないね」
水無月もその刺身を口に運び、解説をしてくれる。
そういえばそんなのもいたね。ティラピアはタイの代用として注目されたはいいけどタイの値が下がったことで需要が消えた悲しき魚だよ。
「おお!これは天ぷらではないか。…うん!衣はサクサクでふんわりと仕上がっていて、このマイタケっぽいキノコの味を良く引き出している」
「この煮物は、良い。全体的にしっかり煮込まれつつも煮崩れしておらず、薄めの味でさっぱりと仕上がっている。御代わりはあるか」
「はい、只今お持ちします」
どうやら、大久保も三嶋も好物を見つけられたらしい。
そんな感じで、日本の記憶をいやでも思い起こさせる美食の数々に、俺たちは思う存分舌鼓を打ったのだった。
期末が終わってハイになっている柊です。もっと筆を速くしたい今日この頃。




