第十二話 王都巡り
王都アリヴァス。霊峰オリヴァスの南に広がり、この国屈指の広さを誇る都市だ。
南北にラムイ川を通し、大きく東西に分かれている。また宮殿に近い北部は貴族街となっており、一般の市民は立ち入りができない。
南部の東側には様々な商店が立ち並び、西側には冒険者組合や闘技場をはじめとする公共施設の多くがあるのだとか。
勇者は国王と同等の地位らしいので、俺たちは身分でどうこう言われることはないだろう。
門を抜けて、山を下りること約三十分。
俺たちはいかにも高そうなホテルに通されていた。
宮殿から出たので、少しは豪華さのランクは下がるかな?と少々期待していたのだが、結果はむしろ逆であった。
「本日は『アリヴァスリゾート』をご利用いただき、誠にありがとうございます。宮殿で過ごされていた皆様のお眼鏡に適うかはわかりかねますが、総力を持ってもてなさせていただきます。どうか存分に御寛ぎくださいませ」
貴族御用達の王都で一番のホテルが、勇者を止めるとなって全力を出している。そうなればものすごいことになるのは自明であった。
宮殿は見慣れたおかげでそれほど意識することもなくなっていたが、新しい場所だと目新しくて絢爛さが際立って見える。
俺のような小市民が多少挙動不審になっても許してほしいと思う。
皆さんは…いたって平然としている。なんで?あれ、緊張してるの俺だけ?
そんな中サリアさんが口を開く。
「式典は明日ですから、今日は王都を見て回りましょう」
「荷物は私共が運びますので、皆さんは今しばらくお待ちください」
セバスさんたちが荷物を黙々と運んでくれている。食料品が腐らないかと思ったが、これがあらかじめ決まっていたのならあの中に痛むようなものはまだ入っていないのだろう。
「これが街の中心。ラムイ川です。この川を使った水運が盛んにおこなわれていて、王都に入る食料の多くはこれを使って南部から運び込まれています」
この川は王都の中心を流れているだけあってかなり整備されていた。美しく澄んだ水の中で色とりどりの魚が泳ぎまわり、草木が清く静謐な空間を演出していた。土手は大きめに作られ、洪水対策も万全だ。
「きれいな川ですね」
「ええ、何時間でも見ていられそうです」
この清廉な川は皇さんのお気に召したようだ。
「あれは見たことない魚だな。よし、釣って調べてみよう」
「水無月殿。ここは釣り禁止エリアと書かれております」
生物狂いさんは早速暴走しかけている。忍には頑張って抑えていてもらおう。
「ここが明日皆さんのお披露目が行われる闘技場です。冒険者の方との御前試合が行われる予定ですので、皆さん頑張ってくださいね」
おい今なんて言った。
「ちょっと待ってください。それはどういうことですか?」
「二対二のタッグバトルです。言ってませんでしたか?」
聞いてねーよ。ちょっと明日はやばそうですね。
あーあー聞こえなーい。
「ここは王都東商店街です。多くの食べ物や雑貨が売られ、連日にぎわっています。ここの莫大な数の露店は王都の名物となっています」
そんな雑多な場所を見渡して、皇さんが思わずといった風に口にする。
「蒼野君、見てください。焼き鳥ですよ。とてもいい香りがします」
数多ある露店のうちの一つから、確かに食欲をくすぐるパンチのきいた肉の香りと、甘辛いたれの香りがこちらまで届いていた。
「そこの嬢ちゃん。一本どうだい?ナキドリの串焼きだよ」
「ナキドリ?」
「そうだ。朝日が昇ると大きな声で鳴く鳥でなあ。その肉がうまいんだよこれが」
それは俗にいうニワトリではないだろうか。
「そうなんですか。じゃあそれを二本ください」
「それなら大銅貨四枚なんだが、お嬢ちゃんきれいだから三枚でいいぞ」
「あら、ありがとう。それじゃあ、はい」
「毎度。それじゃあ少し待ってな」
露店のおっちゃんが焼きあがった串焼きを紙袋に入れてこちらによこす。
「ありがとうございました。はい。蒼野君これ」
「ああ、どうも」
渡された鳥の串焼きは、地球にいたころに食ったものとそう違うものではなかった。噛むと口の中にたれとうまみの強い鳥の味が広がる。口当たりもよく、やや噛み応えはあるが十分やわらかい肉だった。
「ヒュー。見せつけてくれるねえ。あんちゃん奥さんとしっかりやれよ。
「なっ!だ、だれが奥さんですか」
顔を真っ赤にして怒る皇さん。その中に照れ隠しを見つけようとしたが見つかりませんでした。悲しい。
串焼き屋のおっちゃんは悪びれもせずにこちらに手を振っている。今度会ったらどうしてくれようか。
そんなこんなで王都の各地を巡っていると、たびたび目に付く看板があった。
「先生。この『東8a』や『西4b』といった標識は何を表しているんですか?」
「あれは各地の場所を表しています。ラムイ川を境にして東西を示し、数字で南北を示します。数字が若いほうが宮殿側、つまり北を表します。aとbはそれぞれの地区の中でさらに東西を示します。東中央路、西中央路それぞれの西がaで東がbです」
東西先に両方書けよという気がしなくもないが、まあ別にいい。
大まかな住所が各地に書いてあるとは、なんとも親切な都市のようだ。
だがまあ、この表示から一瞬コミケを連想してしまった人も多いだろう。
こんな感じで王都をそれなりに回って、今日はお開きとなった。
思った以上にこの街は広い。少々この国の技術をなめていたようだ。
見た限りでは人口もかなり多いように見えた。数万はいるだろう。もしかしたら想像以上にこの国は豊かで安定していたのかもしれない。
まあ、料理や美術が発展しているから、さもありなんという感じもあるが。




