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0009(一)08

 雲雀先輩の顔が凍りついた。


「ちょっと。ふざけてるので?」


「大真面目です」


「素人が1週間で制覇できるほど生易しくはないので、ジャーヴァスは!」


 その両目に瞋恚しんいが宿る。


「私の最大の戦いを汚すようなこと言わないでなので!」


「汚してません! 俺は必ず成し遂げて見せますから! そうすればそれが越えるべき山のただの一つだったと証明できますし」


 険悪な空気が二人の間に充満する。雲雀先輩から立ち上るどす黒い憤怒が目に見えるようだ。


「じゃあ、今日から1週間。必ず『未来神話ジャーヴァス』を解いてなので! 攻略本やネットはなるべく見ないようになので。もし成功したら、私も部活に残るので!」


「分かりました!」


 こうして妙な誓いが交わされてしまった。でも、やるしかない!




「で、実際『未来神話ジャーヴァス』ってどんなゲームなんですか?」


 その日の放課後。駄ゲー部部室に雲雀先輩も含めて部員全員集合し、俺は早速尋ねてみた。少年めいた由紀先輩が答える。


「駄目ゲー」


「いや、それは分かってるんですが」


 迷彩服姿の真樹先輩が、入部届けをナイフに刺して突きつけてきた。


「それより入隊を志願したのだろ? ならさっさとこれにサインして我が部活の一員となれ」


 俺は刃の鋭利な輝きに唾を飲み下しながら、やんわりと拒否した。


「いいえ。俺、決めたんです。『未来神話ジャーヴァス』をクリアしたら、駄ゲー部に入ろうって」


 その瞬間、雲雀先輩と俺を除く全員が溜め息をついた。あれ? 俺、おかしなこと言ったっけ?


 ポニーテールの美夏先輩が、こめかみに人差し指を当てて難しい顔をしている。


「あのな高松、あんたはジャーヴァスの駄ゲーぶりを分かっとらん。ひたすら苦行、苦行の連続なんや」


 おいおい、そんな凄いのか?


「……まあええ、実際プレイして確かめたらええ。雲雀、セット頼むで」


「はいなので」


 ファミコンのカートリッジスロットに黒いカセットが差し込まれる。電源スイッチを入れると、液晶にタイトル画面が浮かんだ。俺はその前に座り、コントローラーを持つ。ゲームをスタートさせた。


 ん……?


「何だこれ? また放りっぱなし?」


 草原に佇む宇宙服姿の主人公。周りには木と林がある。他には何もない。兜先輩こと風林先輩が豪快に笑った。


「『星をみるひと』同様、投げっ放しは駄ゲーの常套手段じゃて。まずは敵を倒しながら街を目指すが良い」


「でもこれ、何の目印もないですよ」


「それが未来神話ってものじゃ」


 よく分からん解説を聞き流し、俺はともかく進み出した。ボタンを色々押すと、現在の状態の表示や、「はなす」「なかま」等のコマンドを実行ができることが判明した。武器を振ることも同様だ。


 とりあえず画面上方向へ向かって歩いていく。すると敵らしき存在が画面四隅に現れた。


「倒してみるか……」


 その内の一匹にそろそろと近づき、攻撃をかける。ダメージを受けたが、やや間抜けな音がして敵が消滅した。状態を確認すると体力が減っている。つまり、雲雀先輩の紹介通り、アクションRPGというわけだ。


 気の抜ける、眠気を誘ってくるBGMをバックに単調な展開が続く。敵は一定範囲を動き回るだけなので、邪魔な奴以外は無視してもいい。人間らしきキャラクターとはダメージを受けずに話ができて、有益なんだか無益なんだか判別しがたい情報をもたらしてくれた。


 とろとろ足を繰り出していくと、ようやく北に街の入り口らしきものが見えてきた。


「やった! これで一息つける」


 俺は喜び勇んで門を潜った。するとそこには、全く外見が同じな建物が乱立していた。住人に話を聞くと、どうやらここは「ブルガの街」らしい。武器屋、防具屋、薬屋などがあるのだが、どれも外からでは見分けられない。看板が一緒なのだ。


 由紀先輩がおかしそうに言った。


「どうだい、分かってきただもん? 本物の、究極の駄ゲーというものが……」


 何の、負けてたまるか。


「説明書は見てもいいんですよね?」


「ああ、それはいつでもどうぞだもん」


 俺はここでようやくジャーヴァスの取り扱い説明書を手にした。よく読んだが、うーん、分からん。敵を倒してもお金が手に入らないのか……。


 そして全体マップ。ジャーヴァスのパッケージに含まれているもので、「(7大国の地図)7つの城を統一せよ!」と書かれている。つまりはこれが最終目的か。


 俺は手を挙げた。


「雲雀先輩、序盤ぐらいは手助けを……」


 彼女は冷淡に返した。


「それは駄目なので。1週間でクリアする、攻略本やネットはなるべく見ないように、という約束なので」


 しかしすぐ雪解けのような声を発する。


「……でも、少しぐらいなら……」

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