0010(一)09
こほん、と咳払い。
「いいなので、高松君。このゲームはセーブが大事なので。というのも、意図せぬワープや脱出困難なハマリが横行し、まともに遊んでいたら一生エンディングには辿り着かないので。敵を倒したらセーブし、手酷いダメージを受けたらリセットやり直し。新しい街に着いたら必ずセーブ、その後各建物をチェックしていく。これが基本なので」
おお、そうだったのか。
「それからプレイヤーは転職できるけど、魔術師だけは選んでは駄目なので。格闘士か剣士を必ず選ぶので。じゃないと役立たず過ぎてクリアはおぼつかないので。そして序盤は『壷』の依頼でお金を稼ぐので。お金は依頼をこなさないと手に入らないので。……ちょっと、ヒントを与えすぎたかな、なので」
雲雀先輩は熱くなった自分を抑えるように、両の頬を平手で叩いた。やっぱり駄ゲーが好きなんだな、彼女。俺は率直に感謝の念を伝えた。
「ありがとうございます。俺、頑張ってみます!」
俺は更にブルガの街を探索し、ギルドで剣士に転職した。何気に肥満体なのが引っかかる。その後、とある家で「しごとが ほしいのかい しなものをもってきたら ほうびをやろう」との依頼を受けて、雲雀先輩に言われた通りに「つぼ」を選択。さしあたって壷を探すこととなった。
ん? 気づけば結構熱中している。部員の先輩方の眼差しが、揃って液晶テレビのスクリーンに集中していることに、一体感を得られているからかもしれない。駄ゲーも皆で遊べば怖くない、か。
その放課後は壷稼ぎで軍資金をちびちび貯めただけで終わった。こんな調子で1週間でクリアできるのだろうか?
真樹先輩がモデルガンを振り回しながら号令をかける。
「一七○○、作戦終了! 後片付けに入れ、グズグズするな!」
俺はジャーヴァスの単調な音楽が頭の中をループするのをうっとうしく思いながら、ゲーム機とソフトを片付けた。他の先輩方も同様に後始末と掃除をしている。そのとき、美夏先輩が床を掃きながら俺に耳打ちした。黒いポニーテールが揺れている。
「ジャーヴァスをクリアして雲雀を思いとどまらせるんはお前の役目や。せいぜい頑張りや」
美夏先輩は冷ややかに言うが、やはり同じ2年C組の雲雀先輩を失いたくないのだ。俺は闘志を掻き立てられた。
「もちろんです!」
そして鍵当番の部長・真樹先輩と、戦国時代風味の風林先輩を残し、部員たちは三々五々帰宅の途についた。
「お疲れだもん」
ボーイッシュな由紀先輩が後ろから俺の肩を叩いた。
「お疲れ様です」
「遅いよ」
「は?」
由紀先輩は膨れっ面だ。いかにも不満げに俺の顔を凝視する。
「あんなスローペースじゃ1週間じゃクリアできないもん」
ジャーヴァスの話か。え、あれって遅かったのか。
そういえば。俺は試しに質問してみた。
「雲雀先輩はあの駄ゲーをどれくらいの期間で制覇したんですか? 3日とか?」
由紀先輩はとんでもないといった表情で首を振った。
「2ヶ月だもん! ほとんど攻略本やネットを頼らず、自作ノートを駆使して独学でエンディングに辿り着いたんだもん」
2ヶ月? 俺は気が遠くなった。俺はあの駄ゲーのスペシャリスト・雲雀先輩が2ヶ月かかったゲームを、わずか1週間で解こうなどと約束してしまったのか。
後悔先に立たず。俺は思わず頭を抱えて苦悶に呻いた。
『未来神話ジャーヴァス』との悪戦苦闘はその後も継続された。俺は自前のノートに町人のヒントや店舗の内容、依頼の種類などを書き込み、この理不尽極まりない駄作の攻略に精励した。体力回復の手段が薬しかなく、それも売られている店が限られているなど、ジャーヴァスの駄ゲーぶりは底なし沼のようだった。それでも俺は気力を振り絞って、雲雀先輩の笑顔を思い浮かべながらコントローラーを握り続けた。
が……。
「だぁーっ、駄目だ!」
俺はとうとう匙を投げた。プレイ開始3日目、幾度目か知れないゲームオーバーの果てに、俺の精魂はとうとう尽き果てた。
上半身を倒し、仰向けに寝転がる。先輩方は自分たちの駄ゲーに掛かりきりで、最近は飽きてきたのか、俺のプレイに付き合うこともめっきり減ってきた。
それでも俺が音を上げたことに、ヘッドホンを装着していなかった風林先輩が気づいたようだ。兜の金属音を鳴らして俺の側に座り込む。
「どうした、高松。もう降参か?」
俺は彼女の秀麗な顔を見上げながら愚痴をこぼした。
「だって……退屈でくそつまらないんですよ、このゲーム」
ついつい口が尖ってしまう。
「やることと言えばザコ敵相手の経験値稼ぎと依頼をこなしてのお金稼ぎ。どっちもワンパターンで単調で、全く爽快感に欠けます」
風林先輩は肩を揺らした。




