0011(一)10
「ははは、まさに我々の望む『駄ゲー』そのものではあるまいか。そうだな、やはり仮入部のお主ではちときつかったかの。そうじゃな、雲雀のこともあるし、特別に攻略本や攻略サイトの閲覧を許してやっても良いぞ」
俺は反発を覚えた。舐められたような気がしたからだ。だが、
「そうですね」
埒の明かない現状に、ついつい本音が出てしまう。
「とりあえず何をどうすればよいのかさえよく分からないので、ヒントを得る程度に見てみます」
実際、強がっている場合ではないのだ。クリア制限期日まであと4日。躊躇してはいられなかった。ちょうど今日は雲雀先輩が風邪で休みで、俺は遠慮なくスマホで「ジャーヴァス 攻略」と検索してみた。
「へえ、結構あるな」
思ったよりプレイ動画も攻略サイトもある。よくこんな駄ゲーにもファンがつくものだ。もっとも半分以上は――というよりほとんどはネタなんだろうが。
「ええと……何々?」
その内容は俺を意気阻喪させるものだった。まずこのゲームでは「名声」を高める必要がある。そうでないと城を攻めるのに必要な仲間が手に入らないからだ。そこでギルドで試合を申し込んで勝利する必要があるわけだが、これには50Gもかかり(壷の依頼の報酬が200G)、かつ敵が超強い。この名声値を、最終的には100も集めないといけないのである。にもかかわらず、このポイントは一試合で1しか上がらない。
まだある。名声を高めて仲間を勧誘するのだが、これはフィールドで出現する人物を「なかま」コマンドで味方にする。1回で25人。なかなか良心的に思えるが、下級兵士は1000人以上も引き入れられるので、40回も行なわねばならない。一気に単純作業と化すわけだ。
そしてその下級兵士は関所の通過で8分の1ほど減り、城を1つ制圧するとなんと2分の1も減る。ゲームが進めば進むほど単調な仲間集めを強いられる構造となっているのだ。
更に、無駄に広いマップはワープが必須で、それはほとんど一方通行な上、たいていノーヒントという不親切さ。「たんさく」コマンドで手に入るアイテムも情報が乏しく、攻略本がなければほぼ入手は無理だ。
俺は想像を絶する地獄絵図にげんなりとスマホを置いた。いったいこのゲームを作った人は何を考えていたのだろう? プレイヤーの気持ちなどまるっきり置き去りではないか。
「どうじゃった?」
風林先輩が自分のプレイを中断して覗いてきた。俺は肩をすくめて首を振る。
「雲雀先輩がどれだけ凄いかよく分かりました」
その返答に先輩は満足げに微笑した。
「そうじゃろう、そうじゃろう。駄ゲーの深奥は底なしで果てがないじゃろう。さあさあ、時間はない。ジャーヴァスをクリアし、雲雀を繋ぎとめるのじゃ、高松!」
俺はその言葉で電気のスイッチを入れられた気分になった。そう、時間はないのだ。もし後4日でクリアできなければ、雲雀先輩は退部してしまう。それだけは何としても阻止しなければならない。
俺は画面にかじりつき、再びジャーヴァスの世界に飛び込んだ。
「大丈夫なので? 高松君」
雲雀先輩が心配そうにこちらを見上げる。あれから更に時日は過ぎて、今日は約束の1日前。俺は早朝、登校時に雲雀先輩と遭遇したのだ。
仮入部なのに駄ゲー部の朝練に参加している俺だが、実は隠れた努力はそれだけではなかった。毎日ファミコン本体とジャーヴァスのゲームカセットを家に持ち帰り、徹夜でプレイしていたのだ。さすがに睡魔には勝てず、毎夜決まって寝落ちしてしまうのだが、それでもゲームは猛スピードで進行していた。
「ん? 俺、おかしいところあります?」
「目の下の隈がひどいので」
俺はあくびを一つすると、乾いた笑いをこぼした。
「どうしてもジャーヴァスをクリアしたいんですよ、俺」
「高松君、無理はよくないので」
誰がさせてるんだよ、と心の中で突っ込みつつ、俺は微笑んだ。
「大丈夫。それも明日までですから」
城は既に5つ攻め落とした。後2つ。城に入るといきなり横スクロールのアクションに変わるなど、相変わらずジャーヴァスは意味が分からなかったが、それでも俺はどうにか耐えて挑戦を繰り返し、一つ一つ困難を撃破してきた。大丈夫、何とかなる。
雲雀先輩が人差し指を立てた。
「刻限を決めてなかったので。明日の午後5時。放課後の部活終了時刻がクリア締め切りなので」
そうか、それがリミットか。俺の眠気はどこかへ吹き飛んだ。
「分かりました。絶対に制覇してみせます」
拳を固めて空を見上げる。雲一つない快晴は、道行く通勤・通学者に暖かな陽気を運んでいた。
「どうしてなので?」
雲雀先輩が若干詰まり気味ながら言った。
「なんでそこまで、『未来神話ジャーヴァス』をクリアしたいので?」




