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0007(一)06

 俺はそのくりくりとした瞳に気圧されながら、それでも言うべきことは言うべきと、足を踏み直した。


「正直、辛かったです。あんなゲームを毎日毎日プレイするなんて、はっきり言って俺には無理かと……」


「高松君!」


 いきなり雲雀先輩が大声でたしなめてきた。


「ゲームに『あんな』なんて失礼なので! この世に存在するゲームは、たとえどんな駄目ゲーであろうと、製作者の真心がこもっているので。それに触れず、ただ馬鹿にするだけなら誰にでも出来るので!」


 声量を落とし、柔和に転換する。


「高松君、どんなものにも無駄はないので。そのゲームのいいところを発見してあげる、価値を創造してあげる。それがゲームを遊ぶものの最低限の礼儀だと思うので。特に駄ゲー部のソフトは部費で購入した無料のもの。ただで遊んでおいて文句をつけるのはおかしいので」


 俺は夜を四角く切り取る光の中で、雲雀先輩の言葉を反芻した。まあ、確かに一理ある。そういえば風林先輩は忍耐、愛、友情が得られるとか言っていたっけ。本当だろうか、まだ今日の段階では手応えはさほどない。ただ、何となしにその手がかりは掴めている気がした。


「それで高松君。明日も仮入部、来てくれるので……?」


 雲雀先輩が恐る恐る尋ねてきた。俺は悩んだ。だがそれは数秒と経たずに結論を導き出した。


「はい、お願いします」


 気がつけばそう答えていた。『星をみるひと』は駄ゲーらしく爽快感など1ミクロンもなかった。だが部員の女子たちと一緒に遊ぶのは悪くない体験だったのだ。結局、俺は単純だった。


 雲雀先輩の端麗な顔がにわかに明るくなる。


「良かったので! じゃあ明日も放課後、この部室でお待ちしてるので!」


「はい、うかがいます!」


 しかし、雲雀先輩の笑顔には若干の違和感があった。どこかこう、寂しげというか、悲しげというか……。俺はそれが何に起因するものかどうにも掴み損ねた。やはりまだ俺が仮入部だからなのだろうか?


「じゃ、もう遅いので、気をつけてなので」


 俺は雲雀先輩に見送られ、首を傾げながら帰路についた。




 俺の一家は団地住まいだ。父はサラリーマンの高松優たかまつ・ゆう、母は共働きの高松彩音たかまつ・あやね。三人家族である。


 午後8時、夕飯の鮭をつつきながら俺は父さんに聞いてみた。


「ねえ、俺ぐらいの年の頃、父さんって何で遊んでた?」


 一家の長は鶏肉を噛みながら、ビールを一口飲んだ。


「そうだな、電子ゲームだな。『ゲーム&ウオッチ』って知ってるか?」


「いいや」


 七三に分かれた髪が蛍光灯に輝いている。


「時計機能がついた、簡単なミニゲームを遊べるおもちゃだ。任天堂なら分かるだろ? あれが出してたんだ。単純で、反射神経を使うものが多かったんだ」


「ふうん」


 母さんが割り込んできた。


「それなら私も知ってるわ。みんなお金を貯めておもちゃ売り場で買ってたもの。友達と学校に持っていって、代わる代わる遊んだわ」


 俺は熱いお茶をすすり、口腔内のご飯を喉に流し込む。


「駄目ゲー……つまらないものはあった?」


 父さんは目をしばたたいた後、にっこりと唇で舟をかたどった。


「あったけど、それでも遊んだな。それしかなかったからね。つまらなくても、面白いと思い込んで無理矢理プレイしてた。今のお前の世代は幸せだぞ。面白いゲームが山ほどあるんだからな――って、テレビゲーム禁止を命じておいて言うのもなんだけどな」


 そっか。今日の駄ゲーも、それしかなければ夢中で遊んでいたんだろうな。


 俺はうなずくと、両手を合わせて「ごちそうさま」とこうべを垂れた。母さんがいたわるように優しく話しかけてくる。


「どう、豊。中学校、やっていけそう?」


 俺は首肯した。


「うん。何か、楽しくなってきたところだよ」


 その後、俺は風呂に入った。熱い湯船に肩まで浸かり、立ち上る湯気を見ながら考える。


 小学生の頃は野球をやっていたが、万年補欠だった。つまらないから身が入らないのか、上達しないから面白くないのか。結局快感を得たことは一度もなかった。それで自分自身が少し嫌になっていたところだった。前にも言ったが、自分は運動神経はからっきし駄目なのだ。


 駄ゲー部か……。


 新人は一人もいないようだし、こき使われることもあるかもしれない。また蜘蛛が出て、美夏先輩に蹴られるかもしれない。でも……


 こんな俺でも、いいところはあるかもしれないじゃないか。それを発見してもらえるかもしれない。価値を創造してもらえるかもしれない。


 決めた。俺、駄ゲー部に入ろう。


 俺は景気づけに、勢いよく湯水に潜り込んだ。

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