0059(七)16
「そんな得点で嬉しいか?」
冷笑を叩きつけたのは真樹先輩だ。一気に静まり返る部室の中で、そのしなやかな手がコントローラーを確保する。
「わしが15分の試遊を断ったのは、当然、それだけこのギャラガをやり込んでいたからだ。……存分に味わえ、わしの妙技をな」
南副部長の失敗した笑みを顧みず、真樹先輩はゲームを開始した。
それは言葉を違えぬ華麗な戦い模様だった。
宇宙空間を飛翔する戦闘機は、敵トラクタービームを利してデュアルファイター状態になると、襲来を華麗にかわしながら堅実に粉砕してみせていく。
特にボーナスステージは圧巻で、飛来する敵編隊を一機も撃ち漏らさないことで成立する「パーフェクト・ボーナス」を確実に取得した。
10面、20面、30面。ただの1機もやられることなく、真樹先輩はまるで人間型の機械と化したかのような、正確無比の動きでもって突き進んでいった。
そして、気がついたときには……
「超したぞ、最高得点」
真樹先輩の指摘でよく見れば、なるほど、39面にして401340点に到達していた。そして残機が6と、まだまだゲームオーバーになる気配はない。
「馬鹿な……」
南副部長の挫折感に満ちた、現実を受け入れがたいとする台詞がこぼれ落ちる。
それを合図に駄ゲー部の面々は立ち上がり、見慣れたヘルメットをここぞとばかりにはたきまくった。
「さすがなので、部長!」
「ナイスだもん、真樹ちゃん!」
「信じてはりましたで、真樹先輩」
「拙者の送り続けた念、どうやら届いたようですな」
「これで3勝3敗ですよ!」
俺は両拳を握った。
「そうだ、これで逆王手だ!」
残る選手は両軍一名。パソコン部の有働部長と、駄ゲー部の雲雀先輩だ。
「いよいよ私の出番なので」
さすがに緊張しているのか、語尾が震えている。赤いツインテールが夕日に映えた。
南副部長が最後の題材を取り出した。見覚えがない。そのゲームの名は――
「ハドソンの『スターソルジャー』だ!」
俺は真樹先輩に尋ねた。
「先輩、あのゲームは?」
真樹先輩はかすかに戸惑っている。
「聞いたことはある。かつて『ハドソン全国キャラバン』という名のファミコン全国大会で、題材として扱われたのがあのシューティングゲームだったという」
「いつ頃の話ですか?」
「1986年だったかな、資料に拠れば」
32年前か。古過ぎるな、今更ながら……
果たしてこのゲーム、雲雀先輩はプレイ経験があるのか。彼女はプレイヤー席に着席すると、唐突に質問した。
「有働部長、まさかこのゲームを連射機能なしでやれと言うので?」
冷ややかな口調だった。有働部長はどかりと1P側の椅子に腰を下ろし、軽く首を振った。
「まさか。このゲームはお互い連射機能つきコントローラー『ジョイカード』を使って勝負する。そうじゃなきゃボタン連打の体力勝負となって、そちらが圧倒的に不利となってしまうからな。それではつまらん」
「紳士的なんですので」
有働部長は鼻で笑った。
「まさか。一方的にのしたら面子に関わる、それだけのことだ」
ファミコン前面のコネクタに、一回りサイズの大きいコントローラーが繋がれる。中央上に連射スイッチがあるそれこそはハドソンの『ジョイカード』らしい。
「スイッチを入れれば勝手に秒間15連射してくれる。では、15分間のお試しプレイを始めたまえ」
「分かりましたなので」
美夏先輩が大声を張り上げた。
「頑張れや、雲雀! リラックスや、リラックス」
雲雀先輩はこちらを振り向いてにこりと笑うと、後はもう画面に集中した。
スターソルジャーは縦スクロールのシューティングゲームだ。自機を操り空中物・地上物を一種類のショットで破壊していく。時折出てくるパワーアップパーツを取るとプレイヤー機が成長し、5方向の広範囲に弾を射出できたり、敵の弾丸を5発まで防いでくれるバリアがついたりする。
また各種隠れボーナスも豊富で、とある地形の裏側を通過したり、でかい顔を完成前に粉砕したり、巨大な目を同時に破壊したりすることで高得点が加算されるようになっている。
各ステージ最後には巨大なボスキャラが待ち構えている。これを撃破すると、晴れて1面クリアとなるわけだ。
雲雀先輩は慣れた手つきで、ミスも1回のみと少ないまま、ステージ9の途中まで進んだところでタイムアップとなった。得点は2619500点。多いのか少ないのか分からないが、一つはっきりしたのは、彼女がスターソルジャー経験者だということだ。そうでなくてはああまで手際よく攻撃・回避はできない。
でも雲雀先輩は不安があったのだろう。そうでなければ15分間の試しプレイを望んだりはしなかったはずだ。つまり彼女は、それほどこのゲームをやり込んではいないと思われる。果たして今の戦いで、勘はどれだけ戻ったか。




