0058(七)15
「恥じるな。お前はよくやった」
それが安直な慰め以外の何ものでもないことを、両者は知悉していたが、楓はしゃくりあげながらうなずいて受け入れた。
何にしてもこれで駄ゲー部は2勝3敗。もう後はなくなった。崖っぷちといっていい。残り2戦は連勝が必須となったのだ。
南副部長が、だいぶ軽そうになった白い巾着袋から、次なる一本を引き抜いた。活気に満ち溢れた声で朗々と張り上げる。
「第6戦はこのソフト――ナムコットの『ギャラガ』だ!」
ギャラガ。俺たちのかき集めたファミコン名作ゲームの中に、それは含まれていた。だが残る雲雀先輩と真樹部長は、果たしてこのゲームをやり込んでいただろうか。一抹の不安がよぎる。
ギャラガはタイトーの『スペースインベーダー』、ナムコットの『ギャラクシアン』の流れを汲む固定画面シューティングゲームだ。編隊飛行の後画面上部に揃う敵エイリアンを、画面下部の戦闘機で撃墜していく古典的内容である。自機が左右にしか動けないのは古さを感じる。
このゲームの特徴として、敵大型エイリアンが出すトラクタービームというものがある。自機がこれに触れると相手に捕まり、画面上方へさらわれてしまうのだ。助け出すには、敵が画面下へ降下してきたときに狙い撃ち、自機を引き剥がすしかない。見事成功すると、その戦闘機は現在の戦闘機の真横にピタリとつく。これをデュアルファイターと呼び、一度に二発の弾丸を発射できるようになるのだ。破壊力は抜群だし、ボーナスステージでは実に役立つが、反面、敵弾に当たりやすくもなる。もしくっついた自機の片方が破壊されれば、また単独で戦っていかねばならなくなるわけだ。
俺がプレイした限りでは、なかなか難しく、12面ぐらいまで進むのがやっとだった。
真樹先輩が雲雀先輩と何やらひそひそ話す。やがて真樹先輩が、音が鳴るくらい強く自身の胸を叩いた。
「わしがいこう」
室内がどよめいた。駄ゲー部主将が大将戦――この試合に勝てれば、の場合だが――を雲雀先輩に託し、副将戦にうって出ると表明したのだから。南副部長の金縁眼鏡が冷え冷えと光った。
「では15分、試遊するがいい、河井」
「結構だ」
俺はごくりと唾を飲んだ。試さない? このギャラガに自信がある――既に十二分に遊び込んでいる、ということか。大丈夫なんでしょうね、真樹先輩?
「後悔するなよ」
「するものか。さて、わしの相手だが……」
真樹先輩は一人の人物を射抜くように指差した。
南副部長だ。
「お前だ、南。わしとギャラガで勝負だ!」
おおっ、と歓声が渦巻き、南副部長は眼鏡の中央を押し上げた。その口端が美貌を損ねるように吊り上がる。
「河井直々の指名とは面白い。受けて立とうじゃないか」
どかりとプレイヤー席に座る。1Pコントローラーを手にした。有働部長がその腕を叩く。
「分かってるな、南。これで決めるんだ。パソコン部の安泰は、ひとえにお前の腕にかかっているんだ!」
南副部長は興奮して頬を染め、元気よく「はい!」と答える――なんて真似はしなかった。ただ冷静に、凍土よりも冷たく「もちろんです」と応じたのみだった。そこに甘さや気の緩みは微塵も見出せない。これはかなり気を引き締めてかかってくると見た。
「ルールは単純に、得点が高かった方が勝者としよう。では、まずは俺からだ。河井、そこで絶望するがいい」
真樹先輩は無言で腕を組み、液晶モニターを注視するのみだ。南副部長はスタートボタンを押し、大宇宙の海原へファイターを発進させた……
その戦果は大したものだった。
何しろやられない。敵機や敵弾に命中しやすいデュアルファイターになったにもかかわらず、エイリアンの攻撃を自在にかわしていく。その一方、冷静沈着な反撃で得点を重ねていった。
「嘘だろ……」
俺は喉が乾き、かすれた声を出した。既に20面。2機ほどやられたものの、南副部長は俺の限界の2倍を軽々突破していた。
「どこまで行く気や?」
美夏先輩も戦慄に絡め取られている。由紀先輩が呪詛のようにつぶやいた。
「やられろだもん……やられろだもん……」
しかしそんな呪いをよそに、南副部長は順調に面数を重ねていった。端麗な横顔がこらえきれない失笑で緩む。
「ふふ、これで駄ゲー部も終わりだ……!」
30面、40面。さすがに自機も少なくなってきたが、それでも快進撃は留まるところを知らない。
44面。とうとう南副部長は全機撃墜された。その得点、385090点。コントローラーを真樹先輩側へ投げ出す。
「もはや声も出まい。勝負は、電源は、パソコン部のものだ!」
パソコン部から盛大な拍手が沸き起こった。有働部長がくつくつと笑いを噛み殺す。一方俺たち駄ゲー部は静寂の内に、敗北感に打ちひしがれていた。このまま終わってしまうのか……?




