0056(七)13
それから彼の快進撃は続いた。2周目、3周目、4週目……。特に4周目からの、4階の蛾の攻撃は凄まじく、八城先輩はこの苛烈な戦いで初めて倒されてしまった。だがトーマスの残り人数を消費しながらも果敢に挑み、とうとう6週目まで来た。
運が悪かったのか、余力が尽きたのか。八城先輩は4階の蛾の攻撃で立て続けにミスし、ついにゲームオーバーとなった。その得点、241300点。
「上出来だ、八城」
有働部長を初めとするパソコン部部員たちが健闘を称えた。八城先輩は照れくさそうに頭を掻く。一方ようやく液晶画面から視線を逸らした由紀先輩は、溜め息一つついて自分のうなじ辺りを揉んだ。
「覚えたもん」
俺たち駄ゲー部部員たちはそれぞれ顔を見合わせた。由紀先輩は臆病風に吹かれていない。目の前の難題を攻略する、闘士の表情を作っていた。
「じゃ、僕の番だもん」
1Pコントローラーを手にし、ゲームを開始する。まずはウォーミングアップの1周目。果たしてクリアできるか?
だがそんな俺の杞憂はあっさり吹き飛ばされた。由紀先輩は苦もなく各階を駆け上がっていき、あっさりMr.Xを打倒したのだ。
俺は思わず聞いていた。
「な、なんでそんなに上手いんですか?」
由紀先輩はエンディング画面から目を外し、俺に振り向く。いたずらっぽく片目を瞑ってみせた。
「アイドルを目指すボクにとって、体を激しく動かすダンスは必須の技能だもん。だから毎週ダンス教室に通っては猛特訓しているもん」
新たな情報だ。由紀先輩、陰でそんな努力までこなしていたのか。
「そんなボクにとって、スパルタンXはダンスのようなものだもん。八城君のプレイ――タイミングや動作を覚えたボクにとって、真似することは赤子の手をひねるより簡単なことだもん」
そうか、だから上手なのか。アイドルを目指す少女、恐るべし。
由紀先輩が乗ってきた。
「さあ、乗ってきたもん! バリバリいくもん!」
こうして由紀先輩の快進撃は続いた。2周目、3周目、4周目……。八城の弾き出した高得点を猛追する。パソコン部は見るからに焦ってきていた。
「馬鹿な……」
追い詰められてうめいたのは八城先輩だ。有働部長が叱咤する。
「何の、まだ分からん」
だがそんな敵陣の動揺を意に介さず、由紀先輩は八城先輩が倒れた6週目4階にとうとう到達した。いくら由紀先輩がトレースの達人だったとしても、八城先輩が苦戦した4階の蛾の攻撃まではミスなく切り抜けることはできなかった。残るトーマス、後一人。得点は……240010点。勝利まで残り1290点の僅差だ。
「失敗しろ!」
パソコン部が非道な言葉で喚く。
「もう少し! 頑張れ!」
駄ゲー部が熱く叫んだ。
そして、トーマスは……
見事、4階の妖術使いを撃破した。
「やったもん!」
由紀先輩の得点が241300点を凌駕した。彼女の勝利だ。駄ゲー部の喜ぶ声で室内はいっぺんに満たされた。
「お見事なので!」
「さすがや! ナイスやで由紀先輩!」
雲雀先輩や美夏先輩が、自分の席に戻った由紀先輩の腕をばしばし叩く。由紀先輩は痛そうにしながらも、まんざらでもなさそうだった。
「まあ、ざっとこんなもんだもん」
鼻高々に腰に手を当てる。一方、そんな祝福ムードと真逆の静寂が、パソコン部一同に訪れていた。
有働部長がか細く言った。
「これで2勝2敗。振り出しに戻ったわけだ」
南副部長が軽く首を振った。
「まだ分からんさ。さあ、気を取り直して5本目のゲームといこうじゃないか」
喪失しかけた気力を取り戻した真樹先輩は、自信たっぷりに意気揚々と問いかける。
「よし、5本目は何だ?」
「これだ。任天堂の『アイスクライマー』!」
駄ゲー部部員一同の肩に緊張が走る。調査対象から漏れたソフトだったからだ。15分間の試しプレイで何とかゲーム内容と攻略法を把握するしかない。
真樹先輩がしかめっ面で腕組みした。俺たちの残りメンバーは彼女と雲雀先輩、楓の3人だ。星を五分に戻した今、誰が行くべきか……?
「楓二等兵!」
強い口調で名を呼ばれた楓は、椅子から遅滞なく立ち上がった。
「はいっ!」
「逆王手の使命、お前に託すぞ!」
「頑張ります!」
楓は敬礼し、頼もしく請け負った。しかしそのかざした手は心なしか震え、内心のプレッシャーを感じさせる。楓は最前列の椅子に着席し、1Pコントローラーを握った。南副部長が腕時計を眺める。
「今から15分だ。余分には1秒もやらないからな」
楓は膨れっ面で応じた。
「分かってます」
「では、始め!」
スタートボタンを押すと画面が切り替わる。大きな鳥が山の頂上まで真上に飛んでいく。そして連なる小石で分かたれた数階の、横に長い空間が出現した。その最下段左方に、青い服のエスキモーが木槌を担いで佇立していた。これがプレイヤーキャラのようだ。楓は早速プレイを開始する。




