0055(七)12
その様子に満足げな有働部長は、思わずといった感じで鼻で笑った。
「さあ、駄ゲー部員の誰がプレイする? 教えろよ、河井」
真樹先輩は俺たちの面上を視線で一撫でした。そして、名前を読んだ。
「由紀! お前に託すぞ」
由紀先輩は起立して笑顔で敬礼した。
「アイアイサーだもん! ボクが必ず二個目の白星を獲得するもん!」
まずは15分のトライアルからだ。由紀先輩は最前列の椅子に座ると、1プレイヤー側のコントローラーを握った。スタートボタンを押し、ゲームを始める。
スパルタンXはどうやら格闘アクションゲームらしい。真ん中の主人公を左に向かって移動させ、時折近づいてくる男たちをパンチとキックで殴り倒していく。ナイフを投げてくる厄介な敵もいて、これは2発叩かないと撃滅できない。
そして左端には棒を持った男が待ち構えていた。これがボスか。由紀先輩はジャンプキックで飛び込むと、パンチとキックを連射。反撃を受け体力ゲージが減ったものの、どうにか退けた。そしてその先には階段があり、主人公は勝手に上っていく。どうやら2階へと続いているらしい。今度は1階とは逆に、左から右へ進むようだ。
なるほど、これを繰り返してどんどん各階のボスを打倒していくのが基本的なルールなんだな。
有働部長が液晶画面を真剣に見入っている。
「初回プレイでよく蛇や龍の攻撃を切り抜けたな。才能という奴か」
褒められて嬉しかったらしく、由紀先輩はだらしなく笑った。
15分が経過した頃には、由紀先輩はそれなりの腕前を身に着けていた。リセットボタンを押してタイトル画面に戻る。
真樹先輩は対戦相手として、パソコン部の八城義晴を指名した。2年の八城先輩はカマキリめいた体を窮屈に折り曲げ、プレイヤー席にスタンバイする。由紀先輩が1Pコントローラーを渡し、緊張感をみなぎらせて尋ねた。
「よし、勝負をやるもん! 勝利条件は何だもん?」
南副部長は高らかに宣言した。
「いたって簡単だ。ゲームオーバー時により多くの得点を重ねていたものの勝ちとする」
「シンプルだもん」
「たまにはこういうのもいいさ」
先攻の八城先輩がゲームを開始した。由紀先輩は食い入るように画面を覗き込む。先ほどの試遊では確認できなかった攻略法を、相手のプレイから盗もうというのだ。
八城先輩は由紀先輩のそんな態度に気づいたらしい。
「さて、上手く僕の真似ができますかな?」
八城先輩が主人公の拳法家を操作していく。左右から群がる雑魚を華麗に殴り倒し、先へ進む。
「パンチしか使わないのは何故だもん?」
由紀先輩の突っ込みに、八城先輩は引きつった声を出した。
「さ、さあ何故でしょうかね」
しかし由紀先輩は自力でその答えを発見した。
「あっ! キックで倒すより得点が高いもん! そっかー、敵により接近して危険度が増すパンチの、正当な見返りというわけだもん」
八城先輩は脂汗をこめかみに浮かべた。
「や、やりにくいです」
南副部長が絶対零度の声をかけた。
「負けるなよ、八城。俺たちとしては、ここで勝って一気に王手といきたいんだからな」
「わ、分かっていますよ副部長」
張り詰めた空気の中、液晶テレビからはくさびを打ち込むようなBGMと打撃音とが流れている。八城先輩は1階の棒使い、2階のブーメラン使い、3階の巨漢、4階の妖術師と、次々にボスを倒していく。そこまでの道中では小さい敵や飛来する蛾を鮮やかにパンチとキックで撃退していった。由紀先輩は取り憑かれたかのように画面の凝視を続けた。
「あ! 主人公とよく似た敵だもん!」
5階のボスは、主人公と色こそ違えど同じような体格だ。八城先輩がじりじりと近づいていく。
「主人公の名前はトーマス、この敵はトーマスの恋人シルビアをさらったMr.Xですよ。……ああ、見られてしまうんですね」
八城先輩はトーマスをぎりぎりまでXに近づけると、そこでしゃがみ足払いを連打した。Xは最後のボスだというのに、たったそれだけの技で倒されてしまった。由紀先輩が感心した。
「へーっ、Mr.Xって下段蹴りだけで倒せるのかだもん。これはいいものを見せてもらったもん」
見事宿敵を倒したトーマスは、無事恋人シルビアと再会、熱い抱擁を交わした。何やら英語のメッセージが出て、どうやらこれがエンディングらしかった。しかしすぐ場面は切り替わり、また最初の1階へと立ち戻る。恐らく全5階を延々ループするのだろう。
八城先輩は首を左右に傾けて骨を鳴らした。
「ウォーミングアップはここまで。さて、いきますか」
2周目からが本番、という認識なのか。この人、スパルタンXを相当やりこんでるな。
難易度が増してるな、と思ったのは最初の棒使いとの対決からだった。1周目では1対1の闘いだったのに、2周目からは対戦中にもかかわらず、つかみ男やナイフ使いなどのザコが割り込んでくるのだ。これは難しい。だが八城先輩はものともせず突破した。




