0050(七)07
最後にファミコンと液晶テレビを机の窓際に設置し、起動やコントローラーの確認を行なった。準備良し。
由紀先輩が俺に丁寧に命じた。
「高松君、パソコン部を呼んでくるもん」
「了解です」
俺は外に出ると、淀んだ蒸し暑さに辟易しながら、隣の2号室のドアをノックした。
「パソコン部さん、セッティング終わりました」
「分かった」
声の主である有働部長は、静かに扉を開けて外へ出てきた。南副部長や他のパソコン部部員たちも、蟻の行進のように連なって姿を現す。俺の先導で3号室――駄ゲー部部室に乗り込んできた。
「では始めようか」
カーテンが風にあおられ半ばひるがえっている。生温い空気の中、机を挟んで右――2P側に駄ゲー部部員、左――1P側にパソコン部部員が続々と着席した。
真樹先輩は最終確認した。
「いいな、有働。この勝負に勝った方が電源使い放題だ」
「ああ」
「決戦の順番はこうだ。まずお前たちが勝負の題材となるファミコン名作ゲームを選んで出してくる。次にわしがこちらから選手を一名指定し、彼か彼女に15分間試しプレイを行なってもらう。続いてわしがお前らの中から代表を一人選択する。最後に勝敗の条件をそちらが提示し、選ばれた駄ゲー部員とパソコン部部員が白黒をつける。これを7人同士で行なう。もちろん先に4勝したチームが勝者となる」
一気に話した後、一呼吸入れる。
「……これでいいな? 有働」
「問題ない。どうせ俺たちが勝つんだ。この1週間、我が家にパソコン部全員を集めて皆でトレーニングしてきたんだ。成果は必ず発揮する」
真樹先輩はふっと笑った。
「そう上手くいくかな?」
南副部長がこの期に及んでいらつきを振りまく。
「しかしファミコンゲームなんて、紙芝居みたいで全く面白くないな。正直、部長がセレクトした7本を実際にプレイしたときも、心から楽しんだ奴はいなかった。皆、パソコンで遊べるリアルなFPSの方が熱がこもると言っていたぞ」
何だ、それじゃ名作ファミコンゲームに熱中した俺たちが馬鹿みたいじゃないか。
相容れないな、と思う。パソコン部は敵だ。俺はそれを再確認した。真樹先輩が有働部長に催促した。
「じゃ、1本目のソフトを出せ」
「良し。……南」
南副部長が白い巾着袋に手を入れ、中身を確認しながらゲームカセットを取り出す。
「1本目は……これだ!」
そうして白日の下にさらされたのは――
「バンダイの『キン肉マンマッスルタッグマッチ』だ!」
駄ゲー部員たちが騒ぎ出す。雲雀先輩が目を輝かせた。
「キン肉マンなら知ってるので。今も連載が続いている、超人気連載漫画なので。その記念すべきテレビゲーム第一作がこれなので」
風林先輩がいぶかしげな瞳で見つめる。
「しかし、このゲームは世間では駄ゲーとして扱われているはず。名作ゲーム、が条件のはずじゃったが」
「名作ゲームだ」
南副部長は悪びれない。
「まずは遊んでみるがいい。そちらの一人目の選手を前に出せ」
真樹部長は椅子に座る俺の手首を掴んだ。
「高松二等兵! 出番だ」
「えっ? 俺? いきなり?」
俺は戸惑いを隠しきれないまま、先頭の椅子――プレイヤーの席に移動した。それによって空いた椅子に、真樹先輩がゆっくり腰を下ろす。室内のざわつきは止まらない。
有働部長が俺をうながす。
「さあ、遊んでみろ。操作方法の紙はこれだ」
恐らく彼本人の直筆だろう、几帳面に切り取られたノートの切れ端に、ソフトの基本的な操作方法が書かれていた。親切だな。まさかここで裏切るということもないだろう。俺は目を通すと、ファミコン本体にカセットを差し込み電源スイッチを入れた。机に置かれた1プレイヤー側のコントローラーを手にし、15分間の試しプレイの幕開けだ。
バンダイのファミコンソフト『キン肉マンマッスルタッグマッチ』は、主人公キン肉マンやその仲間・敵たちが、タッグを組んで相手タッグとプロレスで戦うゲームだ。リングから外に出ることはできず、四方をロープで囲まれた状態で、力尽きるまで殴ったり蹴ったり投げたりし合う。自分の体力ゲージが0になると敗北となるため、敵の攻撃で深いダメージを負った場合は控えの選手とタッチ交替した方が良い。
遊んでいて分かったが、画面上方を左右に動くキャラが投げる玉に、このゲームの肝がある。これを取ると移動速度が向上し、体力が回復し、更に強力極まりない必殺技が一定時間使い放題となるのだ。ゆえにゲームバランスは「玉を取ったもん勝ち」という、かなり雑なものと思われた。
俺はキャラクターの名前を、それぐらいはいいだろうということで、有働部長から教えてもらった。
15分間いっぱい遊んで分かったことは、『ブロッケンJr.』の毒ガス攻撃がどうしようもなく強い、ということだった。縦に長いガスがシューティングゲームのように真横に飛び、屈強なはずの相手選手を痺れさせる。これ、ほとんどハメ技じゃないの? そんな疑いを抱かざるを得ないほど、究極といっていい必殺技だった。




