0049(七)06
「おい、糞ったれども!」
真樹先輩が、名作ゲームに夢中になる駄ゲー部員たちの注意を引いた。
「風林、高松、楓。歯を食いしばってよく頑張った。だがまだまだ足りん。わしら残りの部員たちも名作ゲームを買ってくる。これからは買い出し部隊とプレイ部隊とに編成し、勝負までの5日間を乗り切るぞ!」
「はい!」
そう、もう賽は振られているのだ。今更逡巡したり後戻りしたりはできない。突き進むのみ! 駄ゲー部員は心を一つにした。
そうして時日は流れ、またたく間に決戦の日となった。
「ずいぶんお疲れの様子じゃないか」
朝練の時間に最終確認を行なった俺たち駄ゲー部員たちは、あくびをしながら部室棟を出た。昇降口へ7人揃って歩いていく。その途中、有働部長の耳障りな声が校舎の角から聞こえてきた。
「有働……」
真樹部長が、ゆっくり姿を現す有働部長に前傾姿勢を取る。だが、現れたのは彼だけではなかった。
「あっ……!」
俺は思わず驚きの声を漏らした。有働部長に引き続いて視界に入ってきたのは、南副部長だけではない。なんとパソコン部7名が、揃って姿を見せたのだ。
南副部長がかしこまってお辞儀をした。
「今日の勝負の相手を務めるパソコン部部員7名、ここに参上した」
早朝の校舎脇で、駄ゲー部部員とパソコン部部員とが正面切って相対する。
「左から順に紹介しよう。まずは1年E組、谷川良弘」
相撲取りかと思うほどの巨体だ。俺と同じ1年生とは思えない。紹介されているにもかかわらず、チョコレートバーを頬張って無関心だ。
「次は3年A組、張本始」
谷川とは比べ物にならないほど筋肉質だ。白いシャツから伸びた腕は真っ黒に日焼けし、筋骨隆々としている。毎日トレーニングしているのだろう。
「正々堂々勝負しような! お前ら!」
ちょっと暑苦しい。
南副部長のお披露目は続く。
「続いて2年C組、黒潮和雅」
先の二人と比較して、黄色い肌で病弱そうだ。眼鏡が光る華奢な体格で、黒いおかっぱの頭髪が艶やかだ。
「はっきり言って、不潔そうな奴らだ。同じコントローラーを触りたくないね」
そう聞こえよがしにつぶやいて、アルコールティッシュで両手を拭く。
南副部長は更に紹介した。
「次は2年B組、八城義晴」
かまきりのように長身だ。リーチのある腕を器用に折り曲げ、蜘蛛のような姿勢でノートパソコンを抱えている。虫めいた相貌だ。
「最後は1年D組、虹野泰樹」
俺より小柄で、明朗快活な好印象を与えてくる。何だろう、駄ゲー部員たちと同じ匂いがする。
「残りは言わずと知れた、俺、パソコン部副部長南祐樹と、パソコン部部長有働孝治。以上7名が、今日の勝負のメンバーだ!」
登校中の生徒たちが何事かと視線を投げてきている。ちょっと恥ずかしい。しかし真樹先輩も有働部長もひるむことなくやり取りする。
「河井、これが選手名簿だ。せいぜい有効に使うんだな」
「望むところだ」
有働部長が差し出した一枚の紙切れを、真樹先輩がひったくるようにつまみ取った。パソコン部の総帥は唇を緩める。
「放課後、駄ゲー部部室。そこで決戦だ。逃げるなよ」
「ったりめえだ」
南副部長がせせら笑った。
「せいぜい勝利の夢にでも浸ってろ。じゃあな」
パソコン部部員7名は、彼の合図で一斉に背を向け、昇降口へ消えていった。野次馬たちも騒ぎは終わったとばかり、後は無関心で靴を履き替えに校舎へと吸い込まれていく。
真樹先輩は「ともかく、放課後までは各自授業だ」と命じると、先頭に立って学生たちの群れへ浸透していった。
俺は悶々としながら国語や英語の授業に向かう。頭の中は今日の決戦のことでいっぱいだった。駄ゲープレイを邪魔されない、電源の確保。そのためには勝利するしかない。でも、7対7なんだから、当然3敗までは取りこぼしてもいいわけだ……
いや、駄目だ。俺は首を振った。たとえ一個たりとて黒星を献上するわけにはいかない。テレビゲームのエキスパート集団――駄ゲー専門だけれども――の俺たちのプライドに懸けて、必ずや7戦全勝で堂々ブレーカーの自由を手に入れるのだ。
そして、遂にそのときは来た。肌を焦がす日差しがようやく緩み始めた頃、今日の授業は全て終わり、俺たち駄ゲー部部員は部室に集合した。
まず部室のセッティングをしなければならない。普段は折りたたみ式の長机を二台並べて、4人と3人に分けて駄ゲーを遊んでいた。だが今日はパソコン部が7人もやってくる。そこで一台の机をクリーンにし、折りたたんで壁に立てかけた。続いてパイプ椅子7脚も借りて、部室内に持ち込む。長机を挟んで、それぞれ7脚の椅子が左右に配置された。




