0048(七)05
「ここら辺はとても買えそうにないですね。あっ、でももしかしたらパソコン部の人たち、それを狙ってくるかもしれません」
俺は半ば理解しながらも敢えて問うた。
「というと?」
「私たちが練習できないようなソフト――高額プレミアの名作ソフトばかりを狙い撃ちして、勝負の題材に用いてくるという戦術よ。そうなるといくらなんでも太刀打ちできないわ」
なるほどな。その手があったか。俺はしかし、慎重に否定した。
「いや、それはないだろう。俺はこんなこと言うのも何だが、パソコン部の有働部長を信用している。何というか、にじみ出る人柄というか。南副部長は別だけどな。有働部長は、そんな見え透いた、汚い真似をしてくるようには思えない」
風林先輩が賛成した。
「拙者も同感じゃ。たとえばここにある、ナグザットソフトの50000円もする超プレミアソフト『サマーカーニバル’92烈火』なんか使われたら、もうこちらはどうにもならぬ。戦う前からお手上げじゃ。じゃが、そうであるからこそ有働将軍は使ってこないように思える。わしも彼奴を信用しているというわけじゃ。まあもっとも、有働将軍の兄も、こんな高額ソフトは所持しておらんと思うがな」
楓が地団太を踏んだ。
「だから! 向こうには策士の南副部長がいるんですよ! 有働部長がそういう考えの持ち主だったとしても、南副部長が勝つために意見を押し切ってくるかもしれないじゃないですか!」
「そこまでは拙者も責任が持てんな」
「風林先輩……」
俺はしょげかえる楓の肩を強く叩いた。
「まあまあ、考え過ぎてもしょうがないさ。こっちの恨みを終生買うような卑怯な真似は、南副部長も提案しないと気楽に見るべきさ。さあ、余力が残る範囲で、安い名作ゲームを買いまくろうぜ」
その後、俺たちは大量のファミコンソフトを抱えてレジで清算した。『ギャラガ』『マッピー』『スターラスター』などのナムコット作品、『グラディウス』『コントラ』『ツインビー』などのコナミ作品などをメインに、『ロックマン』や『バルーンファイト』、『スターフォース』、『スーパーマリオ3』などを惜しげもなく購入する。貯金を崩して分厚かった財布は見る間に薄っぺらくなった。勝つためだ、仕方ない。俺は楓たちと、涙を飲んで店を後にした。
午後はあっという間に過ぎていった。俺たちは中古ゲームショップ『PSG』、『三河屋』を梯子し、『ゴルフ』や『キャプテン翼』などのスポーツゲーム、念のため『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』などのRPGにも手を伸ばしておいた。
使った金額、三人総合計で5万円。買ったソフト、約50本。俺たちはパンパンのビニール袋を手分けして持ち運び、その日はいったん帰宅した。
「面白いな……」
翌日から、俺たち駄ゲー部は蒐集した名作ゲームを片っ端から遊び始めた。その感想として、真樹先輩が漏らしたのがこの一言である。普段駄ゲーしかプレイしていなかった俺たちにとって、「面白いゲーム」とはかくあるものかと、衝撃は大きかった。
「この『星のカービィ』なんて、超面白いので!」
雲雀先輩がきゃっきゃと喜んでいる。ピンクの球体に手足が生えた可愛らしい主人公が、何でも吸い込んで吐き出していくアクションゲームだ。任天堂の作品に外れなし。
「この『テトリス』も最高だもん!」
由紀先輩が小一時間ぐらいぶっ通しではまっているのが、知らぬものなき名作ゲーム『テトリス』だ。4ブロック一組で形作られた7種の物体を画面下に落とし、横一列隙なく埋めると、その段のブロックが消滅する。これをただひたすら繰り返すのだが、抜群に面白い。というか、由紀先輩が知らなかったという方がよっぽど意外なほど、世に名を知られた逸品だ。
「たまらん。この圧倒的なスピード感、やみつきになるで」
美夏先輩が歓喜の声を上げて液晶画面にかじりついている。取り組んでいるのはスクウェアの『ハイウェイスター』というレーシングゲームだ。主観視点で自車を操作し、高速で迫るカーブをぐいぐい曲がっていく。これも名作ゲームの一つだ。
風林先輩と楓はタイトーの『ミネルバトンサーガ』(『未来神話ジャーヴァス』を出した会社のソフト)などを試しつつ、「RPGはさすがに題材に選んでこないのではないか」と議論している。
そう、勝負についてはまだ不安がある。いったいどうやって勝ち負けを決めるのか、という点だ。
たとえば弾丸を発射して敵機を撃破していくシューティングゲームがあるとしよう。では、どうやって優劣を決めるのか? 得点か? 進んだ面数か? ゲームオーバーまで耐えた時間か?
このように、考えてみれば向こうはいかようにも条件を変更できるのだ。勝負の題材であるソフトを自由に選択できるパソコン部側にとって、有利な点の一つといえる。




