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0047(七)04

 こうして次の日曜日、俺たちは昼前に駅前のコーヒーショップで待ち合わせした。外はさすがに7月だけあって暑く、道行く人はみな軽装だ。一人先に到着した俺は2階の窓から通りを眺めつつ、喉に心地よいアイスコーヒーをすする。一応楓と風林先輩に恥をかかせないよう、それなりに身だしなみと服装には気を使ったつもりだ。他にも若い男女の客がいるが、こちらを指差して笑ったりはしていない。安心した。


「あ、待たせちゃった?」


 耳をくすぐる、通りのいい声が聞こえてきた。振り向くと、薄桃色の上下の楓と、紺の作務衣に白い手拭いを頭に巻いた風林先輩が歩いてくるところだった。


「いや、今来たところだから。……二人とも、よく似合ってる」


 定番の褒め言葉ぐらいは礼儀として送らねば。でも風林先輩の装いは、とても中学2年のいたいけな女子とは思えぬ無骨なものだった。褒めてよかったのだろうか?


「そうか。かたじけない」


 風林先輩はそうつぶやいた。よかったみたい。


 彼女らは俺のテーブルに着くと、スマホの画面で巡回先の店をチェックした。もちろん注文したドリンクを飲みながら、だ。


「よし、行こうか」


 パソコン部が勝負のソフトとして何を持ってくるか? それを読んだ上で、ぴたりと名作ゲームを買わねばならない。だが昨日調べた限りでは、ファミコンは実に1000以上のゲームが存在するという。また、レアなソフトには高値がついており、俺たちの小遣いでは購入出来ない場合もある。風林先輩がいくら裕福だからといって、彼女ばかりに負担を強いるわけにはいかないだろう。俺も身銭を切ってでも手助けせねば。


 こうして俺たちは陽光照りつける中、バスに乗って30分ほど揺られ――最初の店、ハードオンに到着した。冷房の効いた車内から、同じく冷房の効いた店内へ。旅は上々だ。


 店内は人で賑わっていた。テレビやラジカセ、パソコンやシンセなどの各売り場を抜け、レトロゲーム機が山と積まれている棚を目指す。


「あっ、ありましたよ、風林先輩」


 楓が指差すまでもなく、その光景は俺の目にも飛び込んできた。壁からぶら下がる、透明ビニールで包装されたファミコンソフトの山、山。何個あるんだ? 100じゃきかないぞ。


「よし、手分けして名作ゲームを探すぞ」


「はい!」


 俺たちは早速一つ一つを吟味し始めた。この三人の中では、風林先輩が156センチで最も背が高い。上方のソフトは先輩に任せ、俺と楓は下方を担当した。


「『ギャラガ』に『パックマン』、『ドルアーガの塔』か……」


 ナムコットの名作ファミコンゲームだ。値段も500円前後と手頃だ。当時爆発的に売れたということは、俺も知識として了解している。相当はけたからこそ、今本数が余って、価格が抑えられているのだ。


「任天堂も捨てがたいね。『スーパーマリオブラザーズ』なんか、いかにも使ってきそうじゃない?」


 今でも日本一売れたファミコンソフトとして知られている超有名ゲームだ。何でも総売り上げ681万本だとか。


「どうだろうな……」


 俺はカセットと値札を見比べる、という作業を端から端へ、下から上へと繰り返していった。その中で、見知ったソフトと出会った。


「あ、『未来神話ジャーヴァス』じゃん」


 箱なし説明書なしの、いわゆる「裸ソフト」群の中でも、ジャーヴァスは俺の目に輝くように映った。でも値段を見ると……。


「あれ、たった200円か」


 安い。安すぎる。


「そんなものよ、高松君。私たちは駄ゲーを遊んでいるんだもん。世の中の人がつまらない・くだらないと見捨てたソフトたちを、私たちは好んで、優先的にプレイしているわけだからね。そんな奇特な人種が遊ぶのでもない限り、駄ゲーの価値なんてその程度しかないのよ、世の中では」


 雲雀先輩の退部を懸けた戦いも、世間からすれば200円か。寂しいな、ジャーヴァス。


「プレミアソフトは高いのう」


 風林先輩が溜め息と共に嘆いた。


「どれです?」


「これじゃ。まずはカプコンの『ロックマン』、3500円」


「3500円?」


 俺と楓は吃驚した。とても30年前のゲームソフトの値段ではない。風林先輩はにやりと笑った。


「まだあるぞよ。テクノスジャパンの『熱血!すとりーとバスケット』が5000円。コナミの『スーパーコントラ』が6000円。同じくコナミの『悪魔城ドラキュラ』ROM版が14000円じゃ」


 俺は腰が抜けそうになった。


「い、14000円……」


 俺の小遣いの、優に三か月分ではないか。奥深し、ファミコンプレミアソフト。楓が腕を組んで思案顔だ。

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