0051(七)08
間違いない。このゲーム、ブロッケンを制する者が勝つ。
南副部長がいきなりファミコン本体のリセットスイッチを押した。画面がタイトル画面に切り替わる。予告もなしに消すとは無礼な人だ。だが俺の抗議の視線が相貌を舐めても、彼はまるで動じない。
「15分だ。さあ河井、俺たちパソコン部の中から誰を相手とする?」
真樹部長は今朝渡されたメンバー表とにらめっこし、
「黒潮和雅! 前へ出ろ」
軍隊口調で命じた。虚弱で病弱そうな2年の黒潮先輩は、プレイヤー座席に腰を下ろすなり、まずアルコールスプレーでコントローラーを消毒した。
「ばい菌がついてたら目も当てられないからな」
酷い言い草だ。それにしてもきんきんうるさい嫌な声音だった。
「駄ゲー部部員で唯一の男、高松豊、か。まあお手柔らかによろしく」
眼鏡の中央を中指で押し上げつつ、陰気な笑みを浮かべる。
「よ、よろしくお願いします」
俺は2P側のコントローラーを握った。
有働部長が勝負方法を明示した。
「第1戦、高松対黒潮! 2プレイヤー対戦し、先に2本取った方を勝ちとする」
手を振り下ろした。
「始め!」
俺が対戦モードを選択すると、画面がキャラ選択に切り替わった。1Pと2Pそれぞれが2名の戦士を選ぶのだ。俺はブロッケンの顔を確認すると、急いでカーソルを合わせてボタンを押した。黒潮先輩も狙っていたようだが、俺の方が一足早かった。
「ちっ」
黒潮先輩が舌打ちする。俺は安堵で高笑いしそうになった。ざまあみろ。俺の勝利はもう約束されたも同然だ。まずは白星ゲットかな?
その後、俺はキン肉マン、黒潮先輩はウォーズマンとテリーマンを選び取り、ここに試合が始まった。
黒潮先輩のウォーズマンは左上コーナーから、俺のブロッケンは右下コーナーから、勢いよくリング中央へ向かう。いよいよ対決開始だ。
「高松君、頑張ってだもん!」
「きばりや」
「負けないでなので!」
由紀先輩たちが声援をくれた。俺は百人力を得てウォーズマンを殴りつける。相手もブロッケンを負けじと蹴り返す。一進一退の攻防に、両陣営が固唾を飲んでいるようだ。
「来た!」
画面上部にミートくんが現れ、左右に動き出した。間もなく玉が飛んでくる。どこだ? どこからだ?
次の瞬間、上から丸い光の玉がリングを舞った。俺は急いで取りにいく。だが……
「もらったよ!」
黒潮先輩の眼鏡が獰猛に輝いた。玉を取ったのはブロッケンではなく、ウォーズマンの方だったのだ。
光り輝くウォーズマンが弾丸のように飛翔する。ブロッケンは必殺の一撃を被弾し、無様にダウンした。体力がもうない。タッチしなければ。
「させないよ」
まるでこちらの心中を見抜いていたかのように、黒潮先輩のキャラはよろよろ歩くブロッケンにとどめの一撃を差した。
ブロッケンが倒れたまま痙攣する。まずは黒潮先輩が一本先取した。この結果にパソコン部側は色めき立ち、駄ゲー部側はうなだれた。
俺はだが諦めてはいなかった。
「何の、この対戦は2本先取。これから連勝してやる!」
自分に言い聞かせるように吼える。黒潮先輩は余裕しゃくしゃくだ。
「君では無理だよ」
2本目が始まった。ブロッケンとウォーズマンが磁石で引かれあうように衝突を繰り返す。
「また来た!」
ミート君がうろうろし始めた。玉だ。玉を取るんだ。まるで去勢するかのような台詞を頭で連呼しながら、俺はそのときを待った。
来た! 命の玉だ!
「いっただきぃ」
だがまたしても――悔しいことに――またしても、玉に先に触れたのは黒潮先輩の方だった。
「食らえ、ベアクロー!」
まるでフィルムを巻き戻したかのように、さきほどの場面が再開された。強いはずのブロッケンは、赤子のように何も出来ないまま倒された。
二本目も黒潮先輩の勝利。ここに、3戦目を待たずしてパソコン部の先制が決した。彼らは拳を突き上げて歓喜し、溜め息を漏らす駄ゲー部員たちを見下ろした。
俺は自分の敗戦という現実が受け止めきれず、ただただ画面を見つめるばかりだった。黒潮先輩がご丁寧にも解説してくれた。
「ブロッケンJr.の毒ガス攻撃は確かに強力だ。かなうキャラはいないぐらいだ。しかし、それも命の玉を手にしてのこと。基本性能が低いブロッケンでは足が遅く、逆に足の速いウォーズマンとの命の玉争奪戦で圧倒的に不利なんだ」
そういうことだったのか。さすがに15分でそこまで見抜くのは無理だった。
なるほど、奥深しマッスルタッグマッチ。このゲームをファミコン名作ゲームとして紹介してきた南副部長のセンスには脱帽するしかない。
「ま、僕がこのゲームの攻略担当でよかったよ。残念だったな」




