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0005(一)04

「そして愛。これは大事じゃ。駄目ゲームを遊ぶことで自然と万物に対する愛情が育まれるんじゃ。拙者は今遊んでいる『バンゲリングベイ』のおかげで毎日が楽しくて仕方がない。学校に行ったが最後、あの駄目ゲーを無理矢理プレイさせられるのかと思うと、そうでない一瞬一瞬が素敵に感じられて仕方なくなるのじゃ。下校時間になって解放されるときの清々しさなど、筆舌に尽くしがたいものがある。分かるな?」


 風林先輩は遥か高みで遊泳しており、目の前の俺に焦点が合っていない。彼女はスイマーとして恍惚の極みにあった。


「更に友情。映画を観て『面白かったね』と会話が弾むのはいいことじゃ。じゃがそれはただじっと椅子に座ってスクリーンを二時間見つめていただけの話。すぐに話題は枯渇する。じゃがどうじゃろう、駄目ゲームの場合は。『2×2ドットの弾丸でウルトラマグナスが吹っ飛ぶんだよね』とか『ステージ9の地下機械都市で延々ループしちゃったよ』とか、本心から苦痛やトラウマを語ることで強い連帯感が得られるのだ。それは友情という名の固い結束へ昇華される。駄ゲーは絆を紡ぎ社会的繋がりを縦横に走らせる礎となるのじゃ。納得したか?」


 風林先輩はこちらににじり寄り、鼻同士がぶつかりそうなほど近くで俺の両目を射抜く。俺は圧倒されてうなずくことしかできない。風林先輩はすっと距離を取ると、腕を組んでにやついた。


「どうじゃ、拙者ら駄ゲー部の魅力が理解できたか? さあ、もう迷いはなかろう。この入部届けに」


 といいながら、どこにしまっていたものか『入部届け』と書かれたプリントを取り出す。


「この入部届けに署名せい。その瞬間からお主はかけがえのない駄ゲー愛好仲間となるのじゃ」


 俺はプリントとボールペンを機械的に受け取った。しかし俺は動けなかった。


「ん?」


 風林先輩が首を傾げる。雲雀先輩が両目一杯に期待をまたたかせている。だが、俺はやはり動けなかった。


 俺は軽い気持ちでこの場所に来た。超絶面白い、最新ゲームの数々を遊んでいる先輩たちを見学し、その素晴らしい部活動に感激するつもりだった。なんならすぐ自主的に入部届けを書いて提出していたかもしれない。


 だがこの駄ゲー部は違った。部員がやっているのは糞つまらない駄ゲーばかりだ。それもファミコンのような数十年前の、ロムカセット時代の古臭い据え置きゲーム機のみ。前世で神を殺したとしてもこんな手酷い罰は受けないだろう。とてもつき合える世界ではなかった。


 しかし、兜先輩……じゃなくて風林先輩が語る、駄ゲーならではの魅力というのも一応は……半分ぐらいは……いやさ十分の一ぐらいは……分かる。それに憑かれて駄ゲーをやり続ける部員の皆さんの熱意を馬鹿にするつもりはない。箸をつける前から味を論評できないのと同様、駄ゲーに触れずして駄ゲーを見下すというのは――これは俺の価値観の問題なんだろうが――それも筋が通らない気がした。


 結局悩んだ挙句、俺は折衷案を提示した。


「入部は考えさせてください。その代わり、しばらくの間仮入部というのはどうでしょうか?」


「仮入部?」


 雲雀先輩と風林先輩は互いの顔を見やった。そして同時に噴き出した。華やかな笑顔が面上に満ちる。


「それでいいので。高松君はしばらく駄ゲー部仮入部員として参加してもらうので」


「ではそうと決まれば早速駄ゲーを遊んでもらおうかの。拙者が今まで遊んでいた『星をみるひと』をプレイするのじゃ」


 聞いたことないゲームタイトルに――まあ俺が生まれる前のゲーム機とソフトなんだから当然といえば当然なのだが――俺は尻込みした。確実に分かっているのは、そのゲームがつまらない、理不尽な「駄ゲー」であることだけだ。


「いったいどんなゲームなんです?」


「やれば分かるので」


 俺は座布団に座らされ、強制的に赤いコントローラーを持たされた。風林先輩が本体のボタンを押すと、リセットでもかかったのか、画面がタイトルに戻る。宇宙を描いたそれは古臭さの中にも情緒が感じられる絵で、俺は少し安心して「START」を選択した。


「ん?」


 液晶画面一杯に草原だか森だかが広がり、中央にプレイヤーらしき人物が表示されている。他には何もない。俺は軽い困惑に囚われて両先輩を振り返った。


「これ、どうしたらいいんですか?」


 二人は顔を見合わせて楽しそうに噴き出した。だがそれも一時で、すぐ真面目な相貌を取り戻す。


「駄ゲーに情報は無用なので。あんまりひどい状況に置かれた場合のみ、攻略本やネットを見ることは許されるけど、そうでもない限りは自力で解き明かしていくしかないので。高松君、いきなり他人頼みは駄目なので」


 やれやれ、こりゃ他力本願とはいかなさそうだ。そもそもこれ、ジャンルは何なんだろう? 分からないことばっかりだ。

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