0044(七)01
(七)
「あ、またなので!」
真っ暗になった部室で、雲雀先輩が怒りの声を上げた。俺もぶちきれる寸前だった。せっかく『星をみるひと』を攻略する寸前だったのに、ファミコンの電源が落ちてしまったのだ――部室の全電源ごと。
「ふざけるな!」
真樹先輩の怒声が全部員の心を代弁した。『摩訶摩訶』のプレイを遮られて、彼女も怒り心頭に発していた。
「抗議に行くぞ! 者ども、続け!」
真樹先輩を筆頭に、全部員がドアを開けて外へと飛び出す。すると、隣の2号室からも同じように続々と男たちが出てきた。
俺は彼らを知っている――パソコン部だ。
部長の有働孝治先輩が先頭だった。
「またやってくれたな、河井。あれほどブレーカーを落とすな、と言ったのに……」
万里を見通すような奥まった瞳が特徴で、短い茶色の髪は奇岩のようだ。男らしい美男子といえた。
真樹先輩が反論する。
「それはこっちの台詞だ、パソコン部! 後から来ておいて、電気を使い過ぎなんだよお前らは!」
有働先輩の影から現れたのは、同じくパソコン部の副部長、南祐樹先輩だ。名参謀といった趣きで金縁眼鏡をかけている。流麗な髪は棘だらけ。多分この場の男子たちの中で一番の容姿端麗だろう。
「駄ゲー部部長、我々は学校の許可を得てここに移転したと、何度も申したはず。ならば相応の電気を使用する許しも下りたと解釈して構わないはずだ。パソコン部がパソコンを使って何が悪い。電気効率の悪い旧態依然としたゲーム機をよってたかって使い込んでいる駄ゲー部に非があると、この前も言い渡しただろう」
そう、このブレーカー落ち騒ぎは今回が初めてではない。実は昨日、パソコン部が引っ越しを終え活動を再開したときも、同様のことが起きたのだ。あのときも真樹部長と有働部長が先陣切ってやり合い、南副部長が詭弁を弄したのだ。
そのとき、1号室のドアからネズミのような男が顔を出した。恐る恐るといった感じで切り出す。
「あのー、僕ら写真部としてもですねー……」
「ああ?」
真樹先輩と有働部長が鋭い眼力で睨みつける。
「な、何でもないですーっ」
1号室の男はひるんで引っ込んだ。
何事もなかったかのように、真樹先輩と有働部長は再度視殺戦を展開する。
「お前らの言い方を借りるなら、駄ゲー部が駄ゲーを遊んで何が悪い。電気効率? そんなものお前らのパソコンが使う消費電力に比べたら大したことないだろうが」
そうなんだろうか。詳しいことは俺も知らない。狭い通路に部員がひしめき合い、床が崩落しないのが不思議なくらいだった。
有働部長がわざとらしく溜め息をついた。
「なら、勝負しないか?」
「勝負?」
真樹先輩が小首を傾げる。有働部長の眼が笑っていた。
「そうだ、お前らの得意なテレビゲームで勝負してやろう、といっているのだ。負けた方は二度とブレーカーを落とさない、落ちたら全責任を背負う、という条件でな」
凄まじい条件だ。それでは勝った側は電気を使い放題使えるではないか。南副部長が有働部長にいさめるようにささやきかけた。
「部長」
「何、問題ない」
一見俺たちに有利な勝負に思える。何かある――そう俺が邪推したときだった。果たして、真樹先輩が問いただした。
「どんなテレビゲームだ?」
有働部長の返事は間髪を容れなかった。
「ファミコン名作ゲームだ」
駄ゲー部部員、パソコン部部員一同に衝撃のさざなみが走った。俺も度肝を抜かれた。よりにもよって、俺たちが不得意とする名作ゲーム――駄ゲーの対極にあるゲームを持ってくるとは。
パソコン部部員たちも、ファミコン名作ゲームと言われてもぴんと来ないのだろう。遊んだことがありそうな部員は、反応を見る限り、有働部長以外いない。未知のゲームに対する怯えが露見していた。
「どうだ駄ゲー部。ゲームの腕には覚えがあるんだろう? お前らに有利な主題を選んでやったんだ。文句はあるまい?」
真樹先輩の背中は燃えるように殺気を発散している。駄目ゲームばかりやり続ける俺たちが、名作ゲームなどまともにプレイできるのだろうか。だが、ファミリーコンピュータを教科書でしか知らないであろうパソコン部部員たちも、それは同じと言える。
ううん、有利なのか不利なのか? ただ分かっているのは、パソコン部とはいつか雌雄を決しなければ、また電源落ち騒ぎで駄ゲー攻略を振り出しに戻されるということだけだ。
「いいだろう……」
灼熱の溶岩が真樹先輩の口から吐き出される。
「どういう罠か知らないが、進んで食い破るのも悪くない。その勝負、受けてやろうじゃないか!」
有働部長が顎を引いて唇の端を吊り上げた。




