0045(七)02
「よし! 決まりだな。では細部を煮詰めるとしよう。俺と南がそちらにうかがっていいか?」
「構わんぞ」
「では行くぞ南」
「分かりました」
こうして駄ゲー部のただでさえ狭い部室に、パソコン部のツートップが乗り込んできたのだった。
1年の俺と楓が席を立ち、そこに有働部長と南副部長が座る。真樹部長は着席すると、早速問題点をあげつらった。
「まず、何人で勝負するのか、だ。一人か、二人か?」
有働部長は雲雀先輩がコーヒーを淹れようとするのをさえぎり、両肘をついて指を組み合わせる。
「全員だ」
南副部長が尋ねた。
「全員ですか」
風林先輩が兜の影から不穏な眼光をまたたかせる。
「拙者らに総力戦を挑もうってことですかな」
「そういうことだ」
有働部長は右手を開き、そこに左手の人差し指と中指を立てて添えた。
「7対7。1本のゲームを1対1でプレイし、勝敗を決定するのだ。それを7人分行ない、白星の多かった部活が勝利となる。駄ゲー部部員総出でかかってこい。こちらも7人出そう。もちろん、俺が大将で南が副将だ」
真樹先輩は固形化した敵意を口から撃ち出した。
「面白い。では、次の問題点だ。ファミコン名作ゲームと言っていたが、いったい何を選ぶ気だ? こちらは名作ゲームに縁がないし、そちらはファミコンそのものに知識がない。有働、貴様は別だろうがな。どうなんだ? 公平に選べるのか? もちろん教えてもらえるんだろうな?」
代わって答えたのは南副部長だ。
「ファミコンゲームに造詣が深いのはそちらだろう、河井。こちらはコントローラーすら握ったことがないというハンデを背負っているんだ。残念だがソフトの選択はこちらがさせてもらうし、その内容は勝負当日まで伏せさせてもらう」
駄ゲー部員たちが一斉に抗議の声を上げた。
「横暴やな。うちらにぶっつけ本番でプレイしろっちゅうんか?」
「昔のゲームはチュートリアルがないので! いきなりじゃ操作方法さえ分からないので!」
「せこいもん! 策士ぶらず正々堂々勝負するもん!」
非難轟々を浴びても、南副部長の切れ長の目には微塵の動揺も見られない。
「今のは我々としては当然の主張だ。『ファミコンの名作ゲーム』と限っているのだから、手当たり次第に買って遊べば良かろう」
俺は挙手した。
「ちょっと、有働先輩。勝負勝負って、いつやるんですか? ブレーカー落ち問題を長引かせないためにも、なるべく早期に行ないたいんですが」
「その通りじゃ」
風林先輩が同意してくれた。真樹先輩が問いかける。
「そもそも、ファミコン名作ゲーム7本をどうやって集める気だ? それなりに時間も金もかかるぞ。まさか……」
真樹先輩があざけった。憐憫の気配がある。
「パソコン部らしく、エミュレータで遊ぼうってんじゃあるまいな?」
エミュレータ。パソコン内でファミコンなどのゲーム機を擬似的に再現し、往年のテレビゲームを手軽に遊ぶことが出来るソフトのことだ。違法性が高く、当然駄ゲー部は実機と実ソフトでの駄ゲー攻略しか認めていない。
有働部長は手を振った。剛毅な態度はいささかも崩れない。
「まさか。実は俺にはファミコンコレクターの兄がいてな。彼がファミコンのほぼ全ソフトを所持しているつわものなんだ」
駄ゲー部員たちは今度は垂涎の表情となった。なんてうらやましい兄貴だ。というか、そこまで揃えるのにいくらかかったんだろう。ファミコンやスーパーファミコンなどのソフトは、今ではプレミア価格がついてかなり値が張るのだ。捨てずにためてきたのだろうか。
「その兄から、これぞという名作ファミコンソフトを7本借りてくる。言えるのはここまでだな」
真樹先輩が憤慨した。
「そんな人を舐め腐った条件で戦えるか。そうだな、ある程度はこちらも譲歩しよう。ファミコンに熟知しているのはこちらなんだからな。だが美夏が言っていたように、ぶっつけ本番ではいくらわしらでも勝てやしない。そちらは十分なトレーニングを積んでくるのだろうからな」
「ふむ。ではどうする?」
「20分。20分でいい、対戦前に操作方法とゲームルールを覚える時間を設けてほしい。これは最低限そちらがすべき譲歩だ」
南先輩がさかしげに口を挟む。
「20分? 長過ぎだな。10分だ。これ以上は増やせないな」
「20分!」
「しつこい! 10分だ!」
南副部長は、ここを先途と頑強に突っぱねる。真樹先輩と激しい火花を散らした。
「なら15分だ。これならどうだ? そちらも折れろ」
「ふん、折れる気はさらさらないな」
ここで横槍を入れたのは、当の有働部長だった。
「南、構わん。15分でいい」
南副部長は呆然とした。
「部長……」




