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「これってやっぱり虚偽の回答だもん。ボク、一番の趣味は駄ゲーだもん。読書じゃないもん」
楓がなだめるように由紀先輩の肩をさすった。
「いいんですよ、由紀先輩。読書も趣味なんですから。騙したことにはなりません。気にすることはないんですよ」
「でも……。やっぱり、嘘をついたことには間違いないもん。人目を気にして駄ゲーへの情熱を抑え込んだみたいで、なんだか気持ちが悪くて寝付けなかったもん」
俺は楓に加勢し、話を逸らそうと試みた。
「いいじゃないですか、由紀先輩。それより二次審査はいつになるんです? 今度はより厳しいチェックになるんでしょう?」
由紀先輩は急に黙り込んだ。人差し指の先端をつつき合わせる。
「実は……第二次審査は、地元テレビ局で録画放送するみたいなんだもん」
「ええっ?」
この日一番の驚きは、まさにこの瞬間だった。
「テレビが戦場だと? マジか!」
「何や、いきなり画面に露出ですやん」
「信じられないですので!」
「むう……。敵の本丸に乗り込むのですか」
「凄い! それで、何をやるんですか?」
由紀先輩は仲間たちの集中砲火に若干たじろぎながらも何とか返す。
「この封書によれば、自己紹介スピーチを自由な内容で1分間行なうみたいだもん。歌とかのアピールは厳禁みたいだもん」
1206人の2割、241人が1分間ずつだから、全員で4、5時間か。俺は聞いた。
「由紀先輩、その番組はまさか全員分のスピーチを流すわけじゃないですよね?」
「そりゃそうだもん。大幅にカットしたダイジェストだそうだもん。番組自体は1時間半ぐらいらしいもん」
なるほどね。それにしてもこのオーディション、純粋に「人」を見ようとしているのか。歌にこだわらない辺りがそれを示唆している。まあ、由紀先輩の可愛い顔が好印象を導いたのは疑いあるまいが。
「こうなったらスピーチの猛特訓ですね!」
楓が張り切って大声で宣言した。
「たとえば……そうですね、『今まで読んだ小説の中で、お気に入りの人物と、それに憧れる理由』とか。それか、『今まで読んだ小説の中で、特に大好きだったセンテンス』とか。何でもいい、とにかく趣味として表明した『読書』にまつわる意見や見解を披露するんですよ!」
俺は苦笑いを漏らした。
「えらい張りきってんな、水仙」
楓は元気はつらつとした笑みを閃かせる。
「由紀先輩のためだよ」
先輩の両手をすくい上げる。
「どうでしょう、由紀先輩。二次審査突破に向けて、駄ゲー部一同一丸となって応援しますよ!」
少々引き気味だったが、由紀先輩は意を決したように快諾した。
「こちらこそだもん。みんなの力で最終3名に残るもん!」
え? たった3名? 241名で、たったの3名?
俺はアイドルへの関門の厳しさを知った。
それから由紀先輩の猛練習は始まった。オーディション公開収録まで残り2週間。練りに練った1分間を演出するために、意見を出し合ってはああでもない、こうでもないと議論しあい、固めた基礎を反復して地固めに取り組んだ。
スピーチは楓の発案をベースとし、分かりにくかったり誰にも知られていないような内容は排除して、聴衆・審査員に届く中身を心がけた。その結果、夏目漱石の処女小説『我輩は猫である』から、水島寒月に恋心を抱く雪江について、自分と似通っている箇所を提示することに決めた。
何しろ参加者は全241名である。印象的な1分間にしなければならないが、かといって奇をてらいすぎても自滅する。その匙加減には、さしもの(?)駄ゲー部員たちも思案投げ首の体だった。
そんな中でも、俺は駄ゲー攻略と真樹先輩の講習に精励せねばならなかった。何かやること多くないか、俺。でも充実している感じがして、それほど苦には感じないのだった。
駄ゲー部のカレンダーに十数個のバツが新たに書き加えられ、いよいよ明日が第二次審査当日。場所は隣の県の公会堂で、およそ1200人が収容できるという。既に観覧者の募集は終わっており、駄ゲー部員一同は皆落選している。
こうなれば、特に問題なく席が用意された、由紀先輩のご両親に応援を委ねるしかない。駄ゲー部メンバーは遠く自宅で彼女の通過を祈るしか出来ないだろう。
……と思っていたら……。
「ボクのパパが仕事の都合でどうしても出られなくなったもん」
真樹先輩が自分のヘルメットを親指で押し上げた。
「確か由紀、保護者兼観覧者としてご両親2名が出席の予定だったんだよな」
「そうだもん。席が1枚余ったもん」
雲雀先輩が手を叩いた。
「じゃあ駄ゲー部部員が一名、お父さんの代わりに由紀先輩の応援に行けるので!」




