0023(三)03
「狭っ!」
第一印象はそれだった。明らかに旧部室棟の二部屋ぶち抜き空間より小さくなっている。町内会が会議で使うような長い机が2台、中央で向かい合って設置されており、パイプ椅子が人数分用意されていた。そして机の表面は、今しがた真樹先輩らが運搬したゲーム機とソフトにより隙間なく埋め尽くされていた。ドアと反対側には大きな窓がある。
風林先輩が聞きとがめたらしく、俺に真面目に注意した。
「狭いなどと申してはいかん。使わせてもらえるだけありがたいと感謝するのじゃ」
「ごめんなさい」
「さあ、荷物はまだ残っておる。真樹先輩がこの部屋を見張るから、お主らは拙者と一緒に次なる財産を運ぶのじゃ」
俺は首肯すると、先輩方と楓と共に、また旧部室棟へと引き返していった。
旧部室棟では中学2年女子の彫像を見出すこととなった。由紀先輩が一本の箱を手に硬直していたのだ。微動だにせず、入ってきた俺たちにも気づいていない様子で、さすがに雲雀先輩が聞こえよがしの咳払いをした。はっと気づいた由紀先輩は、俺たちの方を見て問いかけてきた。
「ねえ、このゲーム知ってるだもん?」
俺たちは由紀先輩を囲み、その手の中にある金色の箱を注視した。セガマーク3用ソフト、『アフターバーナー』とある。
風林先輩がそれをひょいと摘み上げ、自分の顔すれすれの位置に持っていく。
「こんなの買った覚えもなければもらった記憶もないぞよ。誰の持ち物じゃ?」
風林先輩の視線が俺たちの面上を撫でていく。俺や楓はもちろん、美夏先輩、雲雀先輩も知らないようで、全員が首を振って否定した。
「それでは真樹部長か。よし、部室はもう後片付けできたな」
俺は周囲を眺め渡した。一台のゲーム機、一本のゲームソフトもない。全て残らず回収してある――準備は万端だ。
「さらば、旧部室」
俺はそう口の中で台詞を述べると、全員揃って旧部室棟を後にした。
「いや、わしも知らんぞ、そんなソフトは」
真樹先輩への質問は数秒で無意味となった。
「とはいえそれは、駄ゲー部史上見たこともない、ということだ。セガマーク3用『アフターバーナー』といえば、紛れもない駄ゲーとして広く認知されている。あの名作アーケードシューティング『アフターバーナー』の大失敗移植作として、セガ系雑誌でも扱いに困ったという代物だ」
まあこの部活にあるソフトといえば、そんなもんだろう。
「駄ゲー部員全員の記憶にないソフトとなれば、持ち主を捜さんわけにもいくまい」
美夏先輩があまり気の乗らなさそうな雰囲気で反駁した。
「OBを当たるんですか?」
真樹先輩は手をひらひらと振って否定した。
「まずは笹本双葉先生に聞いてみる。この駄ゲー部の顧問を務めている上官だ」
いつも英語の授業を担当している笹本先生がこの部活の顧問だなんて、今まで想像さえできなかった。ただの一度も部室に顔を見せたことないし。俺の入部届けは美夏先輩が持っていって、何かなし崩し的に受理されたけど、そのときもどの教師に会ったか聞いていなかった。
俺たちは真樹先輩を筆頭に、ぞろぞろと本校舎の職員室へ向かった。
職員室では諸先生方が思い思いの仕事に取り組んで、自分の世界に没頭していた。そんな中、派手な赤いスーツを着込んでいるのが笹本先生だ。染めた黒髪が波型に流れ、肉付きのよい肢体はデブの一歩手前。金縁眼鏡をかけている。
真樹先輩が声をかけた。
「失礼します、笹本先生」
教師は気づいたようで、椅子をずらし、こちらを見上げた。
「どうしたの、河井さん」
真樹先輩が堂に入った敬礼をする。
「一応報告させていただきますが、実は先ほど駄目ゲーム部の新部室棟引っ越しが無事完了いたしました」
笹本先生が笑顔になった。
「あら、そう。どう、新部室は。ちょっと狭いかしら?」
「いいえ、とりあえず全部員が駄ゲーに集中できそうです。この度は御尽力、ありがとうございました」
「新入部員の一年生2人は?」
俺と楓は前に進み出た。
「俺は高松豊です。こっちは水仙楓。これからの3年間、駄ゲー攻略に邁進したいと思います」
笹本先生は満足したようにしきりとうなずいた。
「殊勝な心がけだわ。顧問として応援するからね。頑張って駄ゲーをクリアしてね。……河井さん、用件はそれだけ?」
由紀先輩が一歩前に出て、くだんのゲームソフトを笹本先生に披露した。
「先生、実はこのゲームが引っ越しの際のどたばたで発見されましたんだもん。誰の所持品か、OBに心当たりはないですかだもん」
「まあ……」
笹本先生は『アフターバーナー』を手に取り、しげしげと眺めた。その両目に感慨と歓喜が同時に発露されるのを、俺はしっかり確認した。先生は子供のようにはしゃぐ。




