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北方帝国崩壊記――七つの国に引き裂かれた大帝国  作者: レモンティー


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■第七話 帝国の亡霊

北方帝国が滅びてから、十年が経った。

大陸の地図から、

「ルーシア北方帝国」

という名前が消えてから十年。

七つの国は、それぞれの道を歩んでいた。

北方共和国は、農業国家になった。

東方連邦は、魔晶石と武器を輸出する工業国家になった。

南方王国は、大陸最大の食料輸出国になった。

西方諸侯連合は、港を利用した交易国家として急速に発展した。

中央帝国は、かつての帝国の正統後継者を名乗った。

新生モスカル共和国は、巨大都市モスカルの再建を進めていた。

北東辺境国は、鉱山と軍事力を背景に独自の道を歩んでいた。

七つの国。

十年前とは違う。

人々の暮らしも豊かになった。

戦争も終わっていた。

誰もが思っていた。

もう二度と、

あんな帝国は生まれない。

しかし、その考えは、

間違っていた。

ある日、

東方連邦の鉱山で、奇妙な魔晶石が発見された。

通常の魔晶石とは違う。

黒い、光を吸い込むような、

真っ黒な魔晶石だった。

採掘した作業員が、

それを見て呟いた。

「こんな石……見たことがない」

研究所へ運ばれた。

そして分析が始まった。

一時間。

三時間。

六時間。

研究者たちは、

次々に顔色を変えていった。

「あり得ない……」

「どうした?」

「この魔晶石は……」

研究者は震える手で資料をめくった。

「千年前の帝国記録にしか存在しない」

「何?」

「禁忌魔晶石です」

部屋の空気が凍った。

「これが何なのか、分かるのか?」

研究者は答えた。

「帝国が、最後に研究していた兵器の材料です」

「兵器?」

「あの帝国が最後まで完成させられなかった――」

研究者は、

小さな声で言った。

「帝国最終兵器」

その日の夜。

東方連邦政府は、

鉱山を封鎖した。

そして翌朝。

東方連邦は、

他の六か国へ緊急連絡を送った。

『帝国時代の禁忌兵器に関する重大な発見あり』

しかし。

その情報は、

すぐに七か国すべてへ広まった。

そして、誰かが考えた。

帝国最終兵器。

もし、それを手に入れれば。

七つの国の中で、

自分たちだけが圧倒的な軍事力を持てる。

最初に動いたのは、

北東辺境国だった。

深夜。

国境を越えて、

特殊部隊が東方連邦へ侵入した。

目的は一つ。

黒い魔晶石を奪うこと。

だが、それを知った中央帝国も、

軍を動かした。

さらに西方諸侯連合は、

港を封鎖した。

南方王国は、

食料輸出を停止した。

北方共和国は、

国境を閉鎖した。

新生モスカル共和国は、

市民に非常事態を宣言した。

十年。

たった十年で、七つの国が、

再び互いを疑い始めた。

そして、

その中心にあったのは、

かつて帝国を滅ぼしたものと同じだった。

「軍事力」

「金」

「資源」

「恐怖」

人々は忘れていた。

帝国がなぜ滅びたのかを。

いや。

忘れたかったのかもしれない。

そして、

もう一つ。

誰も知らなかった。

黒い魔晶石を最初に発見した鉱山の地下。

さらに深い場所に、巨大な扉が眠っていたことを。

扉には、

古代帝国の文字が刻まれていた。

『皇帝の血を持つ者が来たとき、

この門を開けよ』

そして。

その扉の前に、

一人の男が立っていた。

年齢は三十代。

粗末な服。

旅人のような格好。

男は、

刻まれた文字を見つめていた。

そして、自分の首にかかった、

古びた金属製の紋章を取り出した。

黒い鷲。

北方帝国の皇帝家だけが持つ紋章。

男は、

静かに笑った。

「十年か」

誰も知らない。

この男が誰なのか。

だが、男の名前を知る老人たちは、

かつてこう呼んでいた。

「皇帝の息子」

そして男は、

扉に手を置いた。

ゴゴゴゴゴゴ、地底から、

巨大な音が響く。

千年間、

一度も開かなかった扉が、ゆっくりと動き始めた。

その瞬間。

大陸中の七つの国で、

古い帝国軍の鐘が鳴った。

誰も鳴らしていない。

誰も存在を知らないはずの鐘だった。

北方共和国。

東方連邦。

南方王国。

西方諸侯連合。

中央帝国。

新生モスカル共和国。

北東辺境国。

七つの国の、

七つの首都で。

同時に、

同じ鐘が鳴った。

老人たちは、

その音を聞いた瞬間、顔を青ざめさせた。

そして、誰もが同じ言葉を口にした。

「……帝国が、帰ってくる」

だがそれは、帝国の復活ではなかった。

もっと恐ろしいものだった。

かつて帝国が、

最後まで完成させられなかったもの。

七つの国が、存在そのものを恐れることになる

「帝国最終兵器」

その封印が、今、解かれようとしていた。

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