9
鷹村さんがいきなり言い出した。
「今度の日曜、夕方空いているか?」
「日曜ですか?特に用事はないですが」
休日の予定を聞かれたのは初めてなので戸惑う、
私の休日など関係ないはずだけど・・・
「俺好みの味の店を見つけたんだ、
俺の好みを知ってもらう為にも、その店の味を知って欲しい」
「食事ですか?」
「そう」
これは困った・・・
私はあくまで家政婦、料理を作りに来ている人間。
食事をご馳走になるなど、問題以外の何でもない。
その事が表情に出てたと思う、
こうゆう時に表情を取り繕えず、上手くかわせないあたり、
まだまだ未熟なのだなと自分で思う。
「とにかく決まり!予約するからな」
そう強引に決めてしまわれて、
とりあえず上司に相談だな、と一応頷いた。
「料亭での食事?」
「はい、今度の日曜日」
目の前にいるのは上司の佐々木さん。
料理の腕はもちろん、スタッフのフォローもこなす、
ばりばりのキャリアウーマンである。
3人の子供を育てながら、
趣味の映画やディ〇ニーに行ったりと、
とにかくアクティブで、
私が仕事を掛け持ちしても、この人には敵わないと
常々思っていて、キャリアウーマンを通り越し
スーパーウーマンでもいいかと思っている。
「先方からの招待なら構わないわよ」
「そうですか」
「嫌なら、私から断っておくけど?」
「いえ、嫌な訳ではないんです」
「それと、お金持ちには、お金持ちのネットワークがあって、
できるだけご機嫌を取っておきたいの、
私としては、食事に行ってくれると助かるわ」
「分かりました」
佐々木さんの言葉に、日曜食事に行く事を決意する。
確かに口コミは重要だし、
できるだけ機嫌は取っておきたい。
「せっかくのデートなんだから、おしゃれして、
メイクも可愛くして行ったらいいわよ」
その言葉に私は過剰に反応する。
「デートですか?」
「あら、若い男女2人、デートでしょう?」
「いえいえ、仕事の延長です!」
「そう、その反応なら安心した、
絶対好きになって、迫らないでね」
佐々木さんの言葉に胸がズキンと傷む。
あれ?なんで胸が痛いの?
相手が私の事を恋愛相手として対象外に見ている事は、
最初から分かっていたし、そもそも釣り合わない。
そう、好きになっても駄目な人なのに・・・
そんな思いを抱えながらも胸が痛み、
鷹村さんってどんな服が好きだろう?とか
いろいろ考えてしまっていた。