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535/542

534.魔伝通信首開発、二日目 午後

2026/10/16 修正しました。





 少々散らかっているカイユの実験室……いや。

 単純に物が多いだけか。


 元々散らかすタイプではないカイユである。

 ここだけはできるだけ整理整頓も、掃除もしていたらしい。


 魔術関係だけちゃんとしていた。

 そんな感じだろう。


 一人用ソファに座り。

 小さなローテーブルを挟んで、カイユと向き合う。


「――音の変換かぁ」


 魔伝通信首の原理。


 それは音を聞き、その音を発することだ。

 それで話をすることができる。


 簡単に言うと、離れた二人の会話を。

 通信首が中継してくれるわけだ。


 首が発する音は二種類。


 相手の声と。

 自分の声を遠くへ届ける音。


 後者は特殊な音で、人の耳には聞こえない。

 だが、首の鼓膜なら聴けるそうだ。


 ――特殊な音波で仲間とコミュニケーションを取る。


 そんな動物がいると、クノンも何かの本で読んだことがある。


 有名なのは犬笛だろうか。

 人には聴こえない音を発し、犬は聴き分けることができるとか。


 その辺の理屈に近い。


 ただし――


「魔属性らしいって言えばいいんでしょうか?」


「そうだな。俺も最初そう思った」


 特殊な音は、音なのだ。


 距離によっては弱くなる。

 障害物に当たっても弱くなる。


 音は物理に干渉する。

 物理も音に影響を与える。


 ただの音では、聴こえる距離など知れている。

 建物の中と外なら、もっと聴こえなくなる。


 ただ音を飛ばすだけ。

 それではこの魔伝通信首は成立しないのだ。


 その音の問題を。

 ロジーは、音を魔力に変換することで解決した。


 クノンは考えたこともなかった発想だ。

 本当に驚いた。

 資料やレポートを捲る手が止まらなくなったほどに。


 魔力は、気体よりも希薄だ。


 空気より薄く。

 影響力もなく。

 魔術師じゃなければ、あるかどうかもわからない。


 その魔力に、音を変換して飛ばすことを考えた。


 通信首に音を入れて。

 魔力として飛ばして。

 魔力を受け取った通信首が、魔力を音に戻して吐き出す。


 ……という原理で、魔伝通信首は会話を可能としていた。


 随所に見られる造魔学の知識と技術。

 それらに裏打ちされた発想。


 造魔学は深い。


 生命を創り出すと言えば一言だ。

 だがそこへ至るまでのプロセスは多岐に渡り、またその先も大変な技術に繋がっている。


 すごい人だと思う。

 恐ろしい人だとも思うが。


 ――あの時言っていたあんなことこんなこと本気でできるんだろうな、と。


 再確認した気がする。


 知りたくもなかった事実だが。


「で、カイユ先輩はそこから色々考えたり試したりしたと」


「そうだ。でもなんつーか……自分で言うのもなんだが。


 これといった進展が、ない気がする」


 それは……クノンもそう思った。


 いや、語弊がある。


「カイユ先輩、僕はわかりますよ」


 と、クノンは立ち上がり、ずらっと並ぶ生首たちの前に立つ。


 一つ手に取る。

 ウインクしているおっさんみたいな首だ。


 おっさんじゃなければキュートだったかもしれない。


「音の拡張、声帯や聴力の強化、音の変換率と変換圧の調整、魔力の出力の調整、デザイン性による性能の模索、聴力や声帯を増やす、首を大きくすることで全体的な機能の底上げ、頭にウィッグ型の外付け拡張パーツで状況に合わせた機能拡張を可能とし、鼻をつまむことで目を光らせて夜間でのちょっとした活動をサポートするお助け機能の追加、手触りにこだわった柔らかくきめ細やかな肌質、使っていて不快にならないようほのかに香るいい匂い……。


 資料を読んだ僕は、すべてを知っています。

 カイユ先輩の努力を、全部知っています」


 初期より少し大きくなったが。

 見た目こそあまり変わらないが。


 でも、中身は違う。

 もはや別物ってくらいのおっさんに仕上がっている。


「クノン……俺の苦労をわかってくれるか……」


「あたりまえですよ」


 苦悩。

 苦心。

 迷走。


 あの膨大な資料とレポート。

 あれはカイユの努力の結晶である。


 歩む道がわからず迷走する。

 それも開発者にはよくあること。


 しかし。


 迷走してもなお、迷走したまま開発は進めていた。

 そして形にしていた。


 そこに兄弟子の実力を。

 意地やプライドを、垣間見ることができた。


 特にウィッグ型の外付け拡張パーツだ。

 状況に合わせて機能を追加・強化できるなど、非常に画期的だと思う。

 こんなの応用の塊ではないか。


 ……さて。


 クノンが唸ったウィッグはどれだろう。

 この毛が抜けるのだろうか。

 もしかしてヒゲの方か。


 ……眉毛?


「やめろ何やってるんだ! 毛が抜けるだろ!」


「え? 外付け拡張ウィッグはどれかな、って……」


「その毛は元々あるやつ! 抜けたらもう生えてこないんだぞ!」


 ウィッグではないらしい。

 元々ある毛は抜けないらしい。


 全然見分けがつかない。

 まあ、クノンはそもそも見えないが。





 話をしている途中で、侍女とエリアが帰ってきた。

 随分長いこと話していたらしい。


 だが、それでも。

 止まることはなかった。


 この日のクノンとカイユは、ずっと話をしていた。


 意見の交換、擦り合わせ。

 そして新たな仮説と開発方針。


 思いつくまま、二人で構想を練り上げる。


 どんな荒唐無稽な発想でも。

 ちゃんと考えて意見した。


 少しでも力になれるなら。

 そんなクノンの気持ちは、きっとカイユにも届いているだろう。


 クノンの真摯な気持ちと。

 一歩でも先に進もうと貪欲に発想を求めるカイユ。


 若き二人の魔術師は、あがいていた。

 真正面から、堂々と。


 ――その二人の姿を、ウインクしたおっさんの首が見ていた。





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― 新着の感想 ―
クノンの魚みたいなので途中まで音から変換した魔力を運ぶことで、物理的に効果範囲を伸ばすか、電柱みたいに魔力を途中で供給する物を設置するかだな。 ただ、電柱だと高位の魔法使いなら盗聴できるかもしれない…
おっさんが口から水を推進力に空を飛び宛先に伝言する光景が浮かんだw 闇関係なくなるか
ツッコミどころが多すぎる!情報過多w でも、共感した部分もある…毛は無理に抜いたらダメだぞ、生えてこなくなるんだから…
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