530.無事合流
新王国オスベミルズ。
聖教国セントランス。
アーシオン帝国。
この二つの大国に並ぶ、大きな国である。
新王の名のもとに君主制が敷かれた国だが。
国自体は、新しいわけではない。
下剋上により旧体制から変わり、国の名前が変わった。
それゆえの新王国である。
戦乱時代から色々あったが。
今では落ち着いたものだ。
手続きを済ませて、ゴージュの街に入る。
魔術学校の生徒だけに、スムーズに入街することができた。
ここまでやってくる生徒も多く。
また、学生証への信頼も高いそうだ。
まあ楽に入れるなら結構なことである。
「賑やかだね」
大通りを行く人々、商人。
そして馬車。
ディラシックに勝るとも劣らない活気である。
近いからだろうか。
街並みの色合いも、ディラシックに似ている気がする。
「そうですね。まずは何か美味しいものを食べに行きましょう」
侍女リンコの嗅覚は、すでに騒いでいるようだ。
そうしたいのは山々だが。
「まずは合流しないと」
最優先は、この街にいるカイユと会うことだ。
会わないことには何も始まらない。
そして、決めねばならない。
逗留する場所と、開発ペースを。
期限は十日。
今日を入れて、だ。
とにかく時間が惜しい。
早く合流して、開発レポートを読まなければ。
それと「通信水魚」の試行だ。
この二つは、今日中に終わらせたい。
「クノン君たちが行くの、ジングル地区だったよね?
せっかくだから案内するよ」
「え? いいんですか?」
「うん。
私も片付けたい用事があるから、数日はゴージュにいるつもり。
急いで帰る必要がないから、ちょっと余裕があるんだよ」
エリアも何かすることがあるようだ。
「ではレディ、前の見えない僕の素敵な道しるべになってくれますか?」
「はいはいこっちこっち。
――リンコさん荷物大丈夫? 一個くらい持とうか?」
「お気遣いありがとうございます。
でも私は大丈夫なので、クノン様とイチャイチャしててください。私は嫉妬に狂いながら見守ってますから」
「あ、なんなら荷物全部こっちで受け持とうか? リンコさんこそクノン君とイチャイチャしたいでしょ?」
「いやあ、毎日一緒ですからねぇ。今更そういうのないんですよねぇ。すでにときめきが枯れちゃってましてねぇ。それに婚約者もいるのでねぇ。クノン様とほぼ真逆みたいな男なのであまりクノン様は好みじゃないって感じでしてねぇ」
「え、婚約者いるの!? どんな人!? 優しい!? ……非力な怪力の大男?」
「……」
女性二人は、一瞬で話に夢中になってしまった。
クノンは若干置いていかれそうになってしまったが……。
まあ、とにかく。
彼女の提案に甘え、案内してもらうことにした。
カイユは、ジングル地区という区域に住んでいる。
少々裕福な住宅地で。
家を一つ借りて詰めているらしい。
――ここまでは聞いている。
これ以上のことは。
これから直接、自分の目で確かめるしかない。
まあ、見えないが。
なお、クノンたちが今日来ることは伝わっているはずだ。
教師クロディウスが伝えておく、と言っていたから。
――例の空間でひとっ飛びで移動できないか。
伝えておくとかではなく。
直で送り届けてくれないか、と。
そう思ってクノンは提案したのだが。
長距離であることと、二、三人を同時に運ぶこと。
これらは難しい、らしい。
確実に瞬間移動できる距離があって。
それを何度も繰り返すよりは、「飛行」の方が効率的とのことだ。
瞬間移動。
便利そうだが、制約も多そうだ。
メモに残した住所を頼りに、住宅街を歩き。
目当ての家を見つけた。
正面から見た感じでは、普通の民家である。
門扉はない。
二階建てで奥行きがある、ように見える。
「――来たかクノン!」
こんにちはぁ、と侍女がドアをノックすると。
くたびれた白衣を着た、男装の麗人がすぐに出てきた。
「カイユ様。お久しぶりです」
そう、カイユだ。
ちょっと疲れている顔と身形だが、知っている顔である。
予定通り、無事に合流できた。
「あ、リンコさん。そうか、クノンが来るなら一緒か」
カイユと侍女は顔見知りである。
ヒューグリアへの遠征の時に会っているから。
ノックしたのが侍女なので。
まずそっちと顔を合わせた形である。
「え、カイユ先輩!?」
挨拶しようとクノンが口を開きかけたところで。
横にいるエリアが驚きの声を上げる。
「あ? ……あれ? ……すまん名前が出ない。でも『実力』の生徒だったよな?」
「そうですそうです!
先輩と入れ違いで入学したエリア・ヘッソンです!」
なんと。
二人は知り合いだったらしい。
というか、だ。
「カイユ先輩って元『実力の派閥』ですか?」
「そうだよ。久しぶりだなクノン」
最後になってしまったが。
ようやくカイユに認識してもらえた。
「待ってた。すごく待ってた」
なんとも切実そうな言葉が付いてくる。
「――まず! 今すぐ風呂を出してくれ!」
どうやら。
開発以外のところでも切羽詰まっていそうだ。





