529.『飛行』の差
クノンらの「飛行」による旅は、順調だった。
天候並びに気流にも恵まれ。
術者エリアは、快調に速度を上げていく。
そんな移動中、クノンは考え事に没頭していた。
――気にならないわけがない。
「実力」代表ベイルと、エリア。
二人の関係はどうなっているのか。
本人たちからはともかく。
本人たちの周囲からも、続報がない。
付き合っているのか。
いないのか。
エリアはフラれたのか。
逆にベイルがフラれたのか。
どうなのか。
珍しく気になっている。
魔術に関わらないことは、あまり気にならないのだが。
クノンには珍しく気になっている。
――まあ、それは一番ではあるが。
「……違うなぁ」
クノンの呟きは、誰に届くこともなく。
風の中に消えていった。
違う。
これまで何人かの風魔術師の「飛行」で運ばれたが。
全員、何か、どこかが違う。
傍目には同じ「飛行」。
練度によって速い遅いが多少ある。
それくらいに思っていたが。
実際飛んでみると、結構違う気がする。
途中で休憩を入れるため、地上に降り立つ。
街道すぐ脇の空き地である。
キャンプの痕跡がいくつかあるので、旅人の休憩所になっているのだろう。
座りやすい岩もあるし。
まあ、クノンには水椅子があるが。
「こうしてこうして、こう!」
手早く火を起こして。
「ほう」
お茶の準備をする侍女リンコの手際を。
エリアは興味深そうに見ている。
「いいですか? アズユ茶はお湯の温度でかなり味が変わります。
沸騰したお湯は、少し冷ましてから淹れる。
すると甘みが出て、渋みと相まって丁度いいのです」
「へえ」
料理関係が強い侍女リンコは、お茶にも詳しい。
「クノン様も唸った味ですよ。
『こんなんワイはじめてやでぇ』って興奮してましたからね」
「え、あのクノン君が?」
――ちょっとした女性の嘘はともかくだ。
「エリア先輩ってどうして『実力の派閥』に入ったんですか?」
のんびり見守っていたクノンは聞いてみた。
麗しき女性たちの会話を邪魔するのは野暮だが。
でも、気になったから。
「やだなクノン様。
いつも通り『今ちょっとええですかエリアはん?』でいいんですよ。
お二人とも、遠慮する間柄でもないんでしょ?」
「え? 僕いつもなまってるかな?
でも君が望むなら、僕はそういう僕でもええんよ」
「いやクノン君、普通でいいよ。普通でいいから」
――エリアは思った。
なんとなく、クノンの性格成型の理由がここにあるのでは、と。
この主従の二人。
なんとも軽すぎる。
「えっと、何? 私が『実力の派閥』に入った理由?」
「そうです。
たまに思ってたんですよ。エリア先輩は『実力』っぽくないって」
「実力の派閥」。
言うなれば、個人技主体の派閥だ。
優秀な個が集まる反面。
あまり誰かと協力するという意識が低い、らしい。
そう考えると。
まとめ役である代表ベイルはともかく。
エリアは結構異質である。
「ずっと気になってたことでもあるんですけど。
でも今は、明確に気になるようになったっていうか」
「明確に? なんで?」
「『飛行』が違うからです」
クノンは語る。
うんうんそうそう、そうだね、と。
わからないのにわかっている顔をしている侍女の隣で。
「率直に言うと、ほかの人の『飛行』と違うんです」
同期リーヤ。
聖女の侍女フィレア。
そして婚約者ミリカの姉である王宮魔術師レーシャ。
そのほかにも何人か。
――リーヤは安定。
速度は控えて、とにかく安全面に気を付けている。
飛んでいる時の風圧も、一番軽減する。
――フィレアも同じくだ。
ただ、すべてがリーヤより少し上のレベルに感じる。
――レーシャは、とにかく巧みだった。
速度を出す時、安定を求める時。
状況に合わせて細かく調整していた。
――一応「合理」のカシス。
彼女とも飛んだことはあるが。
さすがに距離が短かったので、何か思うほどではなかった。
――そして、エリアだ。
彼女は初めてのタイプだった。
「そんな感じでタイプ分けすると、エリア先輩は加速型です」
初速は安定。
それから、安定を維持したまま、少しずつ速度を上げていく。
そんな感じだと思う。
「加速型、か……」
エリアは思案げな顔をする。
自覚があるのか、ないのか。
「それが、私が『実力の派閥』なのが気になった理由?」
「はい。
いや、正確には『やっぱり』って感じでもあるんですけど。
やっぱりエリア先輩も『実力の派閥』なんだな、って」
「やっぱり、ねぇ……その根拠は?」
「『飛行』の工夫。
ただ飛べればいいって感じの飛び方じゃないですよね。
あれは滑空を入れた飛び方だ。
少ない力でより速く、より遠くへ行くための飛び方だと思います」
「……いや、本当に君は優秀だねぇ。
同じ風属性でも気づかないところに気づくね。
それもすごく細かいところなのに」
そう言うエリアは、どこか呆れているようにさえ見えた。
見えないが。
「――どうですこの考察力。うちのクノン様のことどう思います?」
「ええですねー」
なぜか棒読みでなまっていたが。
「誤解がないように言っておくけど、私はちゃんと『実力の派閥』だよ。
単純にね。
誰かと何かするよりは自己研鑽の方が好きなんだよ」
そうだろう、という感じだ。
あの「飛行」は、研鑽と工夫の賜物だと思う。
「飛行」できるだけで満足しなかった。
そんな飛び方だ。
「派閥の理念に納得した結果なんですね」
「うん。
クノン君がどう思ったかは知らないけど、自分では順当だと思ってるよ」
「でも協調性もありますよね?」
「揉めたいわけではないからね。できれば誰とでも仲良くしたいよ」
なるほど。
「エリアちゃんはモテる」みたいな話を聞いたことがあるが。
これはモテそうだ。
ゆっくり話すのは到着してから、ということで。
小休止を入れた三人は、再び飛び立つ。
そして予定通り。
昼には国境を越えて、新王国オスベミルズに入国。
目当てであるゴージュへと到着した。





