527.あっ! 朽黒の魔術師だ!
「――話を続けよう」
未練がましくアイオン退席から、退室まで見送り。
クノンはクロディウスに視線を戻す。
内心がっかりしながら。
「今のところ、通信可能な距離を延ばすことには成功している」
きっと、クノンらと開拓地に行った頃から、だろう
あれから半年以上が過ぎている。
当然、進展はあるようだ。
「だが、素材を高性能なものにしたから性能が上がった、程度だな。
どうも根本的な部分が嚙み合っていない印象を受ける」
なるほど。
「改善を求めるのではなく、そもそもの方法を変えた方がいいかもって話ですね?」
「ああ。
今の構造のまま改善を続けると、いずれ神話級の素材を使うことになるだろう。
それでは駄目だ。
量産できない。
魔伝通信首は二つで一セットだが。
理想は、首を持っている者たちで繋がるようにしたい」
つまり量産が前提というわけだ。
首で繋がるのか。
何人も、何十人も、もしかしたら何百人も。
生首を持ち歩く時代が来る、かもしれない。
「今は一対じゃない方向で考えてるんですね」
クノンが知っている魔伝通信首は、あの勝負の時のものだ。
ここロジー邸で。
ロジーが兵器を造らないよう説得するため、発明品で勝負したのだ。
そこでロジーが造ったのが、魔伝通信首。
その試作品、あるいは雛形である。
首の名前は、確かワタン君だったか。
あれは二つで一つという話だったが。
開発段階で、大幅な仕様の変更があったらしい。
「詳しくは資料を読んでもらいたい」
「そうですね」
魔伝通信首の構造が知りたい。
たぶんそれは、口で説明されるより、書面で見た方が早いと思う。
どうやって通信を可能としているのか。
初めて見た当時から、クノンも気になっていたのだ。
見えないが。
「概要はわかりました」
話を聞いた印象では、闇……空間を組み込むのは難しい気がする。
首で繋がるなら。
空間を発動させる何かを、首に仕込む必要があるのではなかろうか。
クノンが見た感じ。
空間を魔道具に落とし込むのは、不可能な気がするのだ。
あれは、ちょっと、特殊すぎる気がする。
クノンがよく知っている、従来の魔術ではないような……。
まあ、あくまでも印象だが。
詳しくは資料と、これまでの開発実験の経過。
これに目を通してからだろう。
「今カイユ先輩ってどこにいるんですか?」
現在、どの程度の距離で通信を行おうとしているのか。
ここ魔術都市ディラシックと。
クノンの故郷ヒューグリアの辺境の地。
さすがにこの距離では通信不可能だった。
当時も、きっと今も。
開拓地から引き上げる段で。
ディラシックの隣国に移動するとかしないとか言っていた、はず。
「今は新王国だな。
ディラシックとの国境近くにある、ゴージュという大きな街にいる」
ゴージュなら知っている。
距離はあるがディラシックの隣だけに、馴染みがある魔術師も多いだろう。
クノンは行ったことがないが。
直接ではないが、商売上のやり取りで何度か関わっている。
「それで、そこと通信が……?」
「できない。
ディラシック近くから初めて、少しずつ遠ざかってもらい、今はゴージュだ」
なるほど。
少しずつ有効範囲を延ばしていっているわけだ。
となると、だ。
「なら、今は結構遠くまで届く感じですか?
たとえばディラシックなら、端から端まで、とか」
「できると思う。
ただ問題も多くてな。それも資料を見てくれ」
通信以外の問題もあると。
なんだろう。
予想もつかない。
「クノン。おまえの『伝書水魚』、ゴージュまで届くか?」
――話が繋がった気がした。
「あれで連絡を取り合いながら開発したいってことですね?」
恐らく、伝書鳩より早く、手軽に手紙を届けられる。
そこに目を付けたわけだ。
加えて、魔伝通信首への応用もできるかも、と。
「あの、空間のアレではゴージュまで届かないんですか?」
「届きはするが、長距離になると不安定になる。
すでに察しは付いていると思うが、空間には人体も通る。
だから俺自身が空間を渡ることもできる」
それはわかっている。
さっき図書館前でクノンに声を掛けた時。
クロディウスは、空間を通って背後に現れたのだ。
文字通り、瞬間移動で。
「だが、言うほど万能じゃない。
距離が開けば開くほど正確性が失われるんだ」
それはわかる気はする。
「出口が見えない感じですね?」
「……そうだな。それが近いかもしれん」
行き先が勘とか、感覚になるわけだ。
正確に移動できるのは見える範囲くらいだろうか。
見えるなら、かなり遠くにも行けるのではなかろうか。
たとえば遠くの山の頂とか。
――面白い概念だ、とクノンは思った。
「クノン君」
と、黙って見ていたロジーが口を開いた。
「君にはゴージュへ行ってもらいたい」
「え? 僕が行くんですか?」
「開発自体は、私とカイユが主導で行う。
君にも手伝ってもらうが、きっと技術的について来られない部分が多いと思う。
あくまでも助手として、魔技師の視点で手伝ってほしい。
で……主導の私たちは分かれる必要がある。
クロディウス先生は、ディラシック以外では、その、動きづらいだろうから……」
顔の闇か。
確かに目立つ。
もっと言うと、だ。
「フードかぶった怪しい雰囲気の魔術師。
ディラシック以外では、本気でただ怪しいだけの人ですもんね……」
ここでは普通の魔術師だ。
よくいるタイプの魔術師、と言っても過言ではない。
だが、よその街では通用しない。
その怪しさはかなり目立つ。
表を歩くたび、民兵や憲兵に職務質問とかされそうだ。きっと奥様方もひそひそするに違いない。
で、クロディウスの場合は、アレだ。
顔を見られて「あっ!」てなるわけだ。
「あっ、この顔だ!」となるわけだ。
「一目でわかる特徴ですもんね。
あっ朽黒の魔術師だ! ……ってなりますよね」
「……」
――クロディウスは何も言えない。
実際、なったことがあるから。





