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526.アイオン退席





「……うーん」


 クノンは唸った。


 お願いお願いと頼み込み。

 二度三度と、クロディウスに空間のアレをやってもらう。


 右手にあるカップを落とす。

 左手に着地する。


 左手にあるカップを落とす。

 右手に着地する。


「……落ちる瞬間に消えて、移動してる……?」


 この近距離で。


 魔力視で注視し。

 隠して発動している「鏡眼」でも凝視しているが。


 何も見えない。

 今この時ばかりは、ちゃんと見える状態なのだが。


 魔力の動きもない。


 いや。

 これはきっとクロディウスが巧みなのだと思う。


 もう息をするように。

 クノンの「水球」くらい、うまく使いこなしているのだろう。


「も、もう一回! お願いお願い!」


「これが最後だ。話を進めたい」


 と、クロディウスは横を見た。


「アイオン、右手を出せ」


「え? ……あ、はい」


 意図を察して、アイオンは手のひらを差し出す――と。


「っ、とと」


 アイオンは紅茶をこぼしかけて焦る。 


 彼の手にあったカップ。

 それが、今度はアイオンの手に落ちた。


「……そうか。ゼロとゼロが繋がるなら、距離は関係ないのか。

 いや、そうとも限らない……? 有効範囲が……?」


 これは考察しがいがある。

 すぐにでも思考の海に行きかけた、が。


 今はそこじゃない。


「――ありがとうございました」 


 クノンは礼をいい、今見ていたことをメモしつつ。


「じゃあ、話を進めてください」


 この現象を見ただけで、来た甲斐があったが。

 本題はここからだ。


 もっと言うと――


 ここまでで充分楽しかった。

 なのに、これからもっと楽しいことがある、ということだ。


 メインディッシュはこれからだ。





「魔伝通信首。

 離れた相手と会話するための魔道具で、これの開発を目指すことになる」


 ――そう。


 先の空間のことを知った今なら。

 なぜクロディウスが拘わっているかがわかる。


「闇を通じて話を、っていうことですね?」


 まさに空間の出番だろう。

 これを適用することで一発解決しそうなものだ。


「そうだ。だが話はそう簡単じゃなかった。


 端的に言うと失敗した」


「えっ」


 なぜ。

 なぜだ。


「あの、素人考えで恐縮ですが。


 通信用の首同士に、何らかの闇の力を付加して。

 その闇同士の空間を繋げて話を……みたいな感じでなんとかなりそうなものですが……」


「俺もそう思った」


 ――そここそがグレイ・ルーヴァからの課題だと、クロディウスは思っている。


 そう、グレイ・ルーヴァは知っていたのだ。

 魔伝通信首と空間が適合しないことを。


 適合しないことを知っている。

 だからこそ、やれと。


 そんな課題を出したのだ。


 クロディウスが拘わるかどうかまでは考えていなかったと思う。


 だが。


 いずれ空間が使える誰かが拘わる。


 それは予想していたのではなかろうか。


「アイオンもそう思ったから、俺に話を持ってきた」


 そういえば、とクノンは思う。


 アイオンは仲介役だと言っていた。

 この開発をクロディウスに持ち掛けたのは、彼女なのだろう。


「長年、俺も知らなかったことだ。

 はっきり言って盲点だった。


 ――空間は、物質を伴わないものは送れないらしい」


 物質。

 なるほど。


「声は物質じゃないから、ですか」


「そうだ」


 通信首は、声を送り、受け取る魔道具だ。


 だが、声は音である。

 物質ではない。


 そして、空間は物質しか通らない。


「じゃあ、手紙なんかは?」


「理屈で言えば送れる。

 だから盲点であり、これまで気づかなかった。


 声だけを送ろうなんて、一度も試したことがなかったんだ」


 なるほど。

 まあ、盲点は盲点なのか。


 正直。

 音が送れるより、物質が送れる方がすごいと思うのだが。


「……あ、だから」


「伝書水魚」なら物質だ。

 わずかな水とともに音を届けられないか、ということか。


 あるいは、別の何かか。

 ほかに方法があるのか。


 何にせよ。

 やはり、面白いことになりそうだ。





「――済まない、待たせたね」


 手が離せないと言っていたロジーがやってきた。


 自分の足で。

 補助筋帯ベルトはちゃんと機能しているようだ。


「問題ない。まだ概要を話している最中だ。


 それよりロジー、時間はできそうか?」


「ええ。大急ぎで終わらせました」


「それは重畳。

 アイオン、あとは任せろ」


「あ、はい。それじゃ私はここで……」


「えっ!?」


 アイオンが立ち上がる。

 座ったロジーと入れ替わるようにして。


 これにはクノンが驚いた。


「アイオンさんどこへ!? 僕を置いてどこへ!?」


「あ、ロジー先生が都合悪いかもってことでね。

 もし都合が悪かったら、このまま私が参加する予定だったんだけど……」


 さっき話した通りだ。

 この開発に、同じ属性は二人いらない。


 で。


 ロジーが参加できるかどうか微妙だった。


 もし参加できないなら。

 もしもの時は、アイオンが参加する予定だったらしい。


「……」


 真相を知ったクノンは思った。


「ロジー先生もお忙しいでしょう?

 ここはアイオンさんに任せるというのは……?」


 一応、提案してみた。


 たぶんきっと無理だろうとは思いながら。


「私の弟子が拘わっているからね。あまり人任せにはできないよ」


 彼の弟子と言えば、カイユだ。


 そうだ、

 今主導で開発しているのは彼女である。


「……そうですか……」


 やはり無理だったか。


 アイオンの退席。


 これにはクノンもがっかりだった。





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― 新着の感想 ―
いっそ、対象との闇の空間に糸電話を通せばいいのではとおもったけど、空間を繋げたままにはできないんかな? それだと、リアルタイムな通話はできないよな
声は空気の波だから空気を他の物質と同じく、元素の集合体だと認識すれば声も送れそうなものだけどね
飛行の魔道具の実験でグレイちゃんが使った瞬間移動が闇の魔術だと思う。 グレイちゃんと本体が地面に着いた時、風圧や風圧などによる機体の軋みの音は描写されてなかった。音は空気の振動だから、空気というか気体…
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