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139 クマの罠、集う悪 その2

 森の中の小さな広場。


 にらみ合う三者。

 血膿を流す裸の吸血鬼。

 六人のヤクザ者。

 そして、セラフィムシスターズの少女ジュディス。

「吸血野郎は俺が、お前たちは小娘を撃て」

 小声でヤクザの兄貴分、加納かのうが指示を出す。

「ばればれだぞ」

 泥まみれの男がそういうが、

 加納はいきなり男に突撃した。

「ぬん!」

 横なぎにされる刀。

 胴をきれいにとらえたかのように見えたが、

 ガシ!

 男の体から飛び出したあばら骨が刀を噛んで、斬撃を止める。

「なに!」 

 キュリキュリ

 という音をさせながら、刀を引っ張り抜く。

 しかし、その動作には大きな隙があった。

 男は拳から爪のようなほねをにょきっと出すと、加納の首を薙ぐ。

 加納は慌てて転がり、躱したが、左の肩口をざっくりと斬られた。

「ち!」

「フフ。旨そうな匂いをさせてくれる」

 加納の血が付いた骨の爪を舐める吸血鬼。

「しかし、俺が吸いたいのは、やっぱりこっちだな」

 そういいながら、全身から骨の棘を出して、ジュディスに向かって跳んだ。


 銃を向けるヤクザたち。

 少女は一見かわいらしいが、目を見るとそのような者ではなく、まるで野生の肉食獣のようだったのだ。

 男たちは内心怯えながらも汗に濡れる銃を握る。

「ぬん!」

 加納が跳んだ瞬間、

「撃て!」

 弟分の筆頭が叫んだが、実際に引き金を引いたの彼だけだった。

 他は躊躇したのだ。

 しかし、銃弾は

 ブシュ!

 っと消える。

「私の超能力は物体を破壊する。あんたたちの銃弾なんて効かないわ」

 少女が上から目線で見るときっかけが出たのか、一斉に男たちは引き金を引いた。

 パン、パン!

 拳銃とショットガンの乾いた音が響く。

 しかし、少女は悪意のある笑顔で微動だにしていない。

 弾はすべて消えたのだ。

「それだけ? じゃあ、今度は私が行くわ」

 手にエネルギーを矯める。

「まずいぞ!」

 しかし、それは発射されなかった。

「きゃあ!」

 全身から骨の棘を生やし、膿をまき散らしながら吸血鬼が迫ってきたのだ。

 吸血鬼はガッと少女の腕をつかむと骨を伸ばす。

 ジュディスは棘にエネルギーをぶつけた。 

 ガ!

 掴んだ腕がひじから取れ、骨をまき散らして男は転がり、ジュディスもしりもちをつく。

 棘だらけの手が少女の手を握り、棘が貫いていた。

「つっ! よくも!」

「おい、その化け物を撃て!」

 加納が叫ぶ。

「おう!」

 ヤクザの拳銃とショットガンが火を噴く。

 吸血鬼は異常な体勢から跳ね起きると、森に飛び込む。

 しかし、

「なに!」

 吸血鬼の体は木々の中に入る直前に止められてしまった。

 くるくると回転して地面に立つ男。

 円形の広場から出ることはできず、ふわっとはじき返されたのだ。


「どうなってる。俺たちは出られないのか」

 加納。

「よくもやってくれたな。貴様ら、皆殺しにして血を吸いつくしてやるぞ」

 男は全身に小さな穴が開き、左手がなくなっていたが、ズル、ズルっと腕が生えてくる。

「銃なんて効かないわ。刀で行くのよ」

 ジュディスが叫ぶ。

 少女はぴくぴく動く敵の左手を引きはがして地面に投げ捨てた。

 彼女の右手首を中心にいくつか穴が開き、出血している。

「くそ!」

「刀とドスを出せ!」

 加納の声に刃物を抜く男たち。

 一瞬のにらみ合い。

「キヒヒ」

 どこからか笑い。

「おら! 死ね、怪物!」

 加納、必殺の上段。

 吸血鬼はひらりと躱す。

 同時に突撃するヤクザたち。

 誰かの一太刀を浴びる。

 ざっと斬られたが、

「舐めるなよ、一般人のくせに」

 異常な挙動でふわっと飛びあがる。

「させないわ! 死ね!」

 強力な怪光線が吸血鬼を捉えるように見えたが、空中でさらに向きを変えると、それも躱してしまう。

 そして、体重がないかのように、粘土像の上に立った。

「骨の雨」

 全身から、棘状の骨が現れ、一斉に噴射する。

 降り注ぐ骨の雨。

 ヤクザたちに避ける余地はなく、超能力者のジュディスも強力な力をもっていたが連発はできない。

 これが彼女の弱点だった。バリアを張って光線を連発するという芸当はできない。チャージ時間が必要なのだ。

 当然、生身の人間のヤクザたちは逃げる方法はない。遮蔽物もなかった。

 悪人たちは風前の灯。

「死ね! 死んで俺に血を!」

 高らかに叫ぶ男。


「金剛符」

 重々しい声が響く。

 人々を貫くと思われた棘は空中で何かにはじき返されて、地面に落ちた。

「何者!」「誰だ!」「……」

 広場は結界になっていた。

 その結界の外、四方からモフという足音がする。

 見ると子熊のぬいぐるみが三体。

 そして、一人の着物を着た男。長身長髪、着物の下に現代的なピッタリした黒いボディスーツを着用している。

「何なの。ぬいぐるみよね。長髪の男……」

「我ら、坂東力士四天王。土壁源庵つちかべ げんあん殿が呪術、悪党ホイホイとやらを監視しておった」

 重々しい声を響かせたクマのぬいぐるみが腕を組んで述べる。

 鋼金剛だった。

「悪党ホイホイだと。俺たちはゴキブリ扱いかよ!」

 加納が怖い顔をする。

「そうだ、邪念を持ったようなものが嵌る術だ。そして、お前たちでは我らすら倒せぬ」

 腕を組んだニヒルな雰囲気の長身の男。風金剛。

「しかし、その吸血男は勇者殿が直接倒すと申されている」

 剛力の雰囲気漂う子熊。土金剛。

「他は僕たちが相手するけど、お仕置きするだけだよ」

 一番冴えない感じの子熊。若木金剛。

「ふふ。勇者とは?」

 膿を流しながら吸血鬼が問う。

「……あまり自分としてはそういわれたくはないけど、大クマーこと僕が相手するクマだよ」

 森から、一頭の大型の熊が現れた。

 二足で歩き、手には燃える刀を持っている。

「出たな、熊怪物!」

「兄弟の仇だ!」

「よくもアシュレイ様を! セラフィムシスターズの怖さを教えてやるわ」

 一斉に武器を構える悪党たち。

「セラフィム……アシュレイを助けた女の子たちだね。なぜ、極悪に加担するクマ?」

「極悪じゃないわ。あの方こそ帝王になる方よ」

「君は洗脳されている」

「うるさいわね! 私たちこそ正義よ!」

「ごちゃごちゃうるさいぜ、勝負だ熊公」

 加納も刀を少し前かがみの正眼に構える。

 堂に入った構えだった。

「私もご主人様の仇を取らないとな。骨剣」

 右腕から骨を伸ばして剣にする吸血鬼。


 戦いはいきなり始まった。

 加納が先陣を切って大クマーに斬りかかる。

「キエエエエエエエ!」

 迷いのない斬撃が大熊を捉えるかのように見えたが、

「おい!」

 風金剛が間に入ると加納を投げ飛ばしていた。

 転がって泥だらけになるが、すぐに体勢を立て直して一歩引く。

 同時に骨の剣で大クマーに斬りかかる裸の男。

「ヒョウ!」 

 吸血鬼は異常な跳躍力で骨の剣を大熊にたたきつける。

 燃える剣が見えぬ速度で骨をいなす。

 吸血鬼は空中で回転すると大木の枝に立った。


「死ね!」

 ジュディスの破壊光線、しかし、

「金剛符。守護結界!」

 四天王筆頭鋼金剛の呪力で止まってしまう。


 尚、ヤクザの弟分たちは若木金剛のふるう大木を胸に受けて、地面に倒れじたばたしている。

「剣を抜くまでもないかなぁ」

 銃や刀を回収する子熊のぬいぐるみ。


 加納はかなり頑丈な男で、風金剛の関節技も必死に躱していた。

 しかし、投げ飛ばしまでは防げない。

 風金剛は恐ろしい速さだった。

 長髪の残像を残し動く。気が付いた時には背後にいた。

「なんてやつだ!」

「貴様が弱すぎるのだ」

「なんだと!」

 ブン! 振り下ろす刀。

 ジャキ!

 しかし、光る何かが刀をからめとった。

「鎖!?」

 刀は飛ばされ立木に刺さり、同時に加納は掴まれ投げられる。

「くそ! 動きが見えない!」

 風金剛の動きは人間の速度を超えていた。

 加納は二度三度と地にたたきつけられ、最後は意識が飛んでしまう。


 ジュディスと鋼金剛は睨み合いからの力のぶつけ合いを始める。

「怪光線!」

「臨・兵・闘・者・皆・陣……」

 いくら彼女が攻撃をたたきつけても、子熊の宙に浮く符は次々に無効化してしまう。

 ずいずいと迫ってくる。

「幼少の身でありながら、なかなかのお力。見事ではあります。しかし」

 ジュディスは目の前にきたぬいぐるみから逃げられないことを悟った。

「お覚悟!」

「くそ!」

 モフっと、短い手が少女のみぞおちを突く。

「ぐ」

 倒れる少女。

 鋼金剛の内力を胸に受けてジュディスは気絶した。


「グール、出でよ」

 骨の吸血鬼の声に、地面からゾンビのような怪物が這い出してきた。

「君は相当な奴だ、怪物だとしても。名前を教えるクマ」

「『死骨』エンケ」

「榊原と似た二つ名クマ」

「奴のもとで修業したことがある。日本語もその時覚えた」

「……」

 泥まみれの幽鬼の群れ。

 虚空からポールのようなものを取り出し、燃える剣に装着する。

「火炎なぎなた」

 一斉にとびかかってくるグールの群れ。

 しかし、縦横に振り回されるオーラの剣の前に紙きれのように真っ二つにされ、燃え上がる。

 飛び散る手足、胴体。

 グールはすぐに駆逐された。

 だが、簡単に倒せすぎたのかもしれない。混乱の中で大クマーは一瞬エンケの居場所を見失った。

「ぐ!」 

 大熊は左の太ももを刺されていた。 

 地面から骨の棘が生えていたのだ。

 飛びあがる大熊。

 大木の上に乗る。 

 地面から姿を現すエンケ。

「どうする。俺の地潜術。貴様でも見抜けまい」

 ズズっと大地に消える吸血鬼。

「痛かったクマー」

 大クマーはつぶやくが、人獣の魔力で傷は急速に治ってしまう。

「しかし、んん? どうしよう、モグラさんクマー」

 きょろきょろするが、熊の視力はあまり高くない。

 エンケは大地の中を動き回っているようだった。気配はするが確証が持てない。

「ほう、地に潜るとな」

 地面からそのような声が聞こえる。

「?」

 ボン! 

 いきなりエンケが地面から飛び出してきた。

 自分から出てきたのではなく、誰かに地中で殴り飛ばされたのだ。

「地金剛は土の達人。舐めてもらっては困るぞ」

 同時に地中から斧を持ったクマのぬいぐるみが飛び出してくる。

「ぐは!」

 転がる吸血鬼。顔面が殴りつぶされている。

 クマの持つ斧の柄に血がついているのでそれで殴ったのか。

「まあいいかな。悪者だし、倒せたら……龍昇大上段りゅうしょうだいじょうだん!」

 長柄を捨てて、跳ぶ大熊。

「骨防御!」

 全身の骨を柵のように出して身を守る。

 しかし、

 大熊の膂力、『念焔剣』のオーラの前には脆い物体でしかなかった。

 ズン!

 刀は頭頂から地面にまで至る。

「ぎゃあああああああ!」

 骨ごと唐竹割にされ、縦に真っ二つになるエンケ。

 存在ごと燃やされ、二つの体はボッと燃え上がる。

 そして、霧にもなれず、急速に塵と化していった。

「お邪魔しましたな勇者殿。だが、地に潜られては血がうずき」

「ありがとう、地金剛さん。助かりましたクマ」

 子熊のぬいぐるみに頭を下げる大クマー。




2022/10/19 微修正

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