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133 魔となる人 その3

 翌日。


 治癒クマー翔一は祈祷所にいた。

「ふむ。その久保田好美くぼた よしみという女が怪しいのだな」

 土器面をつけた熊のぬいぐるみ、土壁源庵つちかべ げんあんが資料をめくっていた。

 いつものメンバーが集まって、同じく資料を回し読みしている。

 大絹姫おおぎぬひめだけモフを楽しみたいのか、翔一の横に座っていた。

「はい、とても怪しいオーラ持ってるクマ。でも、それだけで悪党と決めつけるのは……」

「でも、あの緋月ひづきの姉ちゃんが襲われたんだろ。他に怪しいのがいないのならやっつけてしまえよ」

 ソファーに寝転びながら、そう提案する黒い子熊のぬいぐるみことダーク翔一。

「はっきり見たわけでもないし、それだけでは行動起こせないクマだよ」

「いつもの妖術やったらいいだろう。因果辿れば一発だ」

「相手は強力な術者。そういう安易な方法は効かぬかもしれぬぞよ。というか、逆に罠を張られたりするものじゃ」

 大絹姫の指摘。

「そう、僕もそれが怖かったので、魔術は使わなかったクマ。しかし、念のため、よく使うスタジオなどを浄化しておいたクマ」

「それだけではちょっと不安ぞよ」

「そうだね。……先生どうすればいいでしょうか」

「残念ながら、浄化だけでは本気の悪党は止められない。護符や防御魔術も気休めかもしれない」

「うーん、じゃあどうすれば」

「相手の出方がわからぬのであれば、実力者が警備するしかござらぬ」

 無言だった球磨川風月斎くまがわ ふうげつさいが声をあげる。

「僕が二十四時間警護してあげるしかないクマ」

「おいおい、お前学業もあるのにんなことやってる場合かよ。他のヒーローに頼めよ」

 宿精が突っ込みを入れる。

「やはり、彼らに頼むしかないか。坂東力士四天王、きてくれ」

 そういうと源庵は精霊界にゲートを開いて四天王を呼ぶ。

 四匹の子熊のぬいぐるみが歩いてくる。

「お呼びかな、源庵殿」

 筆頭の鋼金剛が答える。

「君たちに頼みがある。とある狙われている女性の警備を頼みたい」

 源庵は浅河遥香あさかわ はるかが邪悪な術者に狙われている可能性を語る。

「俺には向かない、呪術はできない」「私にも手に余りますな。私の術は大地に関することだけで」

 風金剛と土金剛は否定的だ。

「私は嫌な気配を感じている。どうやら奴らが動き出したようだ。すまぬが今は手助けできぬ」

 鋼金剛も断ってきた。

「僕がやる」

 若木金剛がずいっと前に出た。

「すまぬな、若木」

 鋼がうなずく。

「うむ。四天王が一人でも動いてくれるなら、大抵の術者には太刀打ちできない」

 源庵もうなずいた。 

わらわも行ってやるぞよ」

「ありがとう、若木さん、姫ちゃん。遥香さんにお守り人形として渡すから、普段は静かにしていてほしいクマ」

「わかった」「うむ、大事にするよういうのじゃぞ」

「じゃあ、二人は僕と撮影所まできてほしいクマ。そこで普通の人たちに託すから、動いちゃダメクマーだよ。普通の人はびっくりするからね」

「わかっておる。心配症じゃのう、熊殿は」

「一番心配なのは、あなたです!」

 ズバっと大絹姫を指さすダーク翔一。

「駄熊はだまらっしゃい」

「駄熊いうな」

「というか、お主はこぬのか、暇熊の分際で」

「誰が暇熊だ。俺は忙しいの」

「いつもゴロゴロしておるのでは」

 にぎやかな彼らを放置して、源庵に話しかける。

「先生、話は変わりますが、ヒーローの大神恭平おおがみ きょうへいさんが会いたいっていってるクマ」

「大神、ああ、シルバーファング。別に構わないが、どういった用件なんだ」

「聞いてませんが、アポが取りたいそうです」

「私に会いたいのなら呪術的なことだろうな。何をしたいのか教えてくれないと困る。突然やってきて事前準備もなしに何かやるのは無駄に難易度が上がるぞ」

「わかりました、ちょっと電話してみます」

 ヒーロー端末で電話を掛ける翔一。

 すぐに、大神が出た。

「大神さん、源庵先生はいつでもいいそうです。でも、呪術的な御用件なら、事前準備もあるので何をするのか先に教えてほしいそうです」

「ん、そうか。土壁先生に代わってくれないか」

「はい」

「聞き耳は立てるなよ」

「わかりました、部屋から出ます」


 翔一は祈祷所の建物を出る。

 大絹姫と若木金剛、鋼金剛が出てきた。

 鋼金剛は若木に符の束を渡すと、建物に引っ込む。

「鋼さん、ありがとう」

 若木が礼を述べている。

「熊殿、どうするのじゃ」

「遥香さんに連絡するクマ」

 翔一は浅河遥香に連絡を取った。この連絡は個人のスマホである。

「あら、クマちゃんどうしたの」

「実は、ちょっと撮影所に気になることがあるから、ヒーローの偉い人から強力なお守り人形を貸してもらったクマです」

「お守り?」

「可愛い女の子のお人形さんと、クマさんのぬいぐるみクマ」

「クマさんがクマさんくれるのね」

「今日、タクシーでお持ちしますクマ。ヒヨコ監督さんにも一言お願いします」

「わかったわ。ありがとう。でも、気になることって何なの?」

 緋月の襲撃事件のことは魔女団以外には誰にもいっていない。

 緋月自身も秘匿を望んだのだ。

「オカルト絡みの事なので、専門家にお任せください。念のためにやることなのでご心配いらないクマ」

「そうなのね……とりあえず、監督にはいっておくけど」

「よろしくお願いしますクマ」

 何となく、誰もいないのに頭を下げる翔一。

 源庵から端末を受け取り、タクシーを呼んで撮影所まで行く。


 かなり遅い時間にはなったが、ヒヨコ監督の計らいで撮影所に入ることはできた。

「待ってたのよ。お人形さんを貸してくれるのよね」

 撮影は夜遅くまでやっていたのだろうか。

 スタッフも遥香もまだ普通に働いていた。

「遥香お姉ちゃん、夜遅くごめんなさい」

「いいの。ありがとう、心配してくれて」

「こちらのドールちゃんは大絹姫ちゃんです。こちらは若木クマ君。どちらもバスケットに入れて撮影所で持ち歩いてほしいクマ。撮影が終わるまでは家に持ち帰ってもいいと思うクマ」

 編んだ籠を渡す。

 やわらかい毛布が敷かれており、何となく単なる人形のように二体が入っていた。

「あら、どちらもすごく可愛いわ」

 笑顔になる遥香。

「あーちょっとぉ、待って、ください。差し入れの人形なんて変態が何か仕掛けてるかもしれませんから、チェックします」

 ヒヨコ監督が身なりの汚いADに指示をして、盗聴盗撮をチェックする装置を持ってこさせる。

「監督! クマちゃんがそんなことするわけないでしょ」

「念ためですよ。クマ君が誰かに騙されているかもしれません。それに、着替え動画とかばらまかれたくないでしょ」

 ヒヨコ監督は見た目以上に猜疑心の強い人物だった。

「そりゃ、そうだけど……」

「クマクマ」

 核に受祚物が入っている以外は普通の人形である。

「問題ないようです」

 電波などをチェックしていた身なりの汚いADがうなずく。

 ニヤッと、大絹姫が笑う。

「え、今、人形が笑わなかった」

 顔面蒼白になるヒヨコ監督。

「気のせいクマ。ヒヨコさん、疲れているのよ」

「可愛いわ。撮影も楽しくなりそう」

 笑顔の遥香。

「AD。装置片して。そろそろ遅いから撤収だよ」

「はい」

 監督が目をそらした瞬間、熊とお姫様がさっと居場所をチェンジする。

「ん。あれ? クマ君と女の子、場所、ぎゃ、逆、だった、よね?」 

 ガタガタ震えだすヒヨコ。

「違うクマ。元からこうだったクマ」

(姫ちゃん、遊ばないで!)

 ビビり抜いているヒヨコを無視してバスケットの二体を遥香に託す。

 遥香は全く気が付いていない様子。

「じゃあ、僕は帰るクマ。気を付けてね。遥香お姉ちゃん」

 手を振って別れる。

 夜の撮影所を後にした。




 二週間後。

 例の低視聴率ドラマは盛り返して、面白くなったとネットでも話題だった。

 警備仕事で再び撮影所に足を運ぶ。

「そろそろ、撮影も終わりクマ」

 撮影は佳境に入っている。

 パトロールしようと思ったが、相棒のレッドムーンこと緋月がいない。

 スマホを見ると連絡があり遅れてくるようだった。

「ま、いいか。ちょっと一人でパトロールするクマ」

 一人、撮影所をうろつく。

 何となくみんな治癒クマーの存在に慣れてしまったので咎められることもない。

 一番心配な浅河遥香の控室に行く。

 扉は開けっ放しになっており、美しい女優がドールとクマのぬいぐるみにやわらかいタオルをかけていた。

 子供のように可愛がっている様子である。

「クマクマ、遥香お姉ちゃん」

「あら、治癒クマちゃん。今日もご苦労様」

 遥香の様子に異常はないようである。

 健康そうな肌艶であり、微笑を浮かべている。

「ありがとう、お姉ちゃんもお仕事頑張って」

「ウフフ。これあげるわ」

 小さな包み。

 チョコレートの匂いがした。

「ありがとうクマ」

 手を振って控室を後にする。

(とりあえず、今は何もないけど警戒は続けるクマ)

 子熊は広い撮影所を一人でうろうろした。




「あ、ここにいたんですか治癒クマーさん。監督がお呼びですよ」

 とある建物を曲がったところで身なりの汚いADに声をかけられる。

 翔一はうなずいて事務所に向かった。


 ヒヨコ監督が待っている。

「ありがとうクマ君。君が時々顔を出してくれるから、遥香ちゃんも上機嫌でね、現場の雰囲気もすごくよくなったんだ」

 監督はいつも通りヲタク臭い風貌。

 しきりに汗を拭いている。明らかに小太りであり、不健康極まる。

「物事が上手く行ってよかったクマです。でも、最後まで警備は続けるクマ」

 やはり、緋月への襲撃事件が心に引っかかっていた。

 あきらかに何らかの悪意が潜んでいるのだ。

「最後の撮影シーン、クランクアップまで見て行ってよ。よかったら、遥香ちゃんに花束を渡す役目をお願いするよ」

「僕は生粋の戦士で警備要員だから、そのようなことはできないクマ」

 モフ腕を組み、モフなで肩をいからせる。

「そういわず、そうだ、これあげるから」

 ヒヨコ監督はお菓子の入った袋をくれる。

「クンクン、蜂蜜風味のクッキークマ。……まあいいでしょう。これはヒーローのサービスクマ」

「じゃあ、頼んだよ!」

 監督と別れる。

 控室を出ると、廊下で学生服の緋月が待っていた。

「何もらったのよ」

「お菓子クマ」

「あんた、意外と簡単に買収できるわね」

「そ、そんなことないクマだよ。とにかく遥香さんに花束を渡すから、緋月さんもヒーロースーツになって」

「撮影があるなら、写真一枚でも特別料金貰えって防衛会議がいってたわよ」

「請求は事務方にしてもらうクマ」

 費用のことを話そうかとヒヨコを見ると、電話をしていた。

 動物の耳に会話が聞こえてくる。

「ああ、じゅんか。また、お前、キャンプなんてしているのか」

「兄さん、僕のキャンプ動画は大人気なんだよ。もっとすごい道具キャンプギアーを買いたいから金を貸してくれよ」

(相手の声に聞き覚えがあるクマ、まさか……マウンティングキャンパーヒヨコ!?)

「しかし、潤、就職はどうしたんだ、最近面接にも行ってないだろう」

「大丈夫、動画の再生数が上がればお金も返せるよ」

「返済なんていつでもいいから就職するんだ。……それにしても、高いものばかり買いすぎじゃないか」

「高級スノービーム製品はネットで転売したらほとんど損もないんだ。安物買った方が、結局、損なんだよ」

「いや、そういう問題じゃなくて……」

(ヒヨコ監督さん、マウンティングキャンパーヒヨコのお兄さんだったクマ。しかも、キャンパーヒヨコは無職……)

 思わぬ人生のめぐりあわせに絶句する治癒クマー翔一だった 




2022/10/12 微修正

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