表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/306

130 爆誕、正義クママント その3

 数日後、祈祷所。


「弁償四百万!?」

 驚いて叫ぶ土壁源庵つちかべ げんあん

「壊した車代と、駐車場の修理費クマです」

 届いた封筒を翔一が開いて読む。

「貯蓄からすれば支払い可能。だが、無駄な出費でござるな」

 そろばんをモフ手で弾く球磨川風月斎くまがわ ふうげつさい

 尚、『祈禱師ゼロ』の資金管理は彼がやっている。

「しかし、一応、今後は二級下位ヒーローとして出動要請あるかもしれないクマですよ。公認されましたから」

「公認すると何か違いがあるのか」

「えーっと、先生の立場は『祈祷師ゼロ』のメンバーですが、単独で依頼がくるかもしれません。それと、自己判断でヒーロー活動を行った場合も、事後で認定して経費などを持ってくれるということですクマ。そして、今までの活動で破壊した公園とかは、一応いいことやったから不問ということです」

「暗黒司令殿は懐が深いでござる。ヒーローを束ねるだけのことはある御仁だ」

「俺もカッコいい剣を精霊界で探してこようかなぁ」

 ソファーでゴロゴロしていた黒い子熊、ダーク翔一がつぶやく。

「絶対禁止クマ」

「いつもながらけちくせー」

「ダーク君は術者だから持ちなれない剣とか使わないほうがいいと思うクマ」

「そうそう、駄熊に戦いなんて無理じゃ」

 ふわふわと大絹姫おおぎむひめが宙を浮きながら突っ込みを入れにやってくる。

「何をいうか、俺は歴戦の勇士だぜ」

「毎日ポテチ食ってテレビ見てゴロゴロしておるお主。なまりきった体ではその辺の野ウサギにも勝てぬわ」

「あのなぁ、俺がどれだけFPSで敵を倒してきたかわかっているのか」

「では、わらわと勝負して勝ってみせるのじゃ。所詮は駄熊などわらわの敵ではないがの」

「いい度胸じゃねぇか、勝負だ!」

 いつの間にか二人は専用のゲームセットを購入しており、ネット対戦を始める。

「そんなの買ってたクマ」

「たいして高いものでもないから、二人はいつも暇をしている」 

 源庵が答える。

「『祈祷師ゼロ』は結構お金持ってるクマですよね」

「一千万程度でござる。今減って、六百万になり申したが」

 ちょっと憮然とした風月斎。

 数か月でそこまで貯めたのだ。驚く治癒クマー翔一。

「それでもお金持ちクマー」

「きれいな背広を着た銀行という金貸しに頼まれ、投資信託とやらに三百万預けておるでござる。運用益と利息が増えると申すので」

「運用もやっているクマー。さすが先生」

 風月斎は剣術だけではなく、経済感覚も優れているようだった。

「あーん、負けた! 悔しいのう」

「フフ。俺はFPSの天才だ」

 コントローラーを放り出して、翔一の背中にしがみつく大絹姫。

「熊殿、駄熊が酷いのじゃ。わらわをいじめる」

「ゲームで負けただけだろうが、俺は何もしてないぞ」

「こいつは『チート』とやらを導入しているに違いないぞよ。エイムが速すぎるのじゃ」

「おいおい、いいがかりはよせ。俺はチート反対派だからな」

「姫ちゃん、ゲームで負けたってなにも損はしてないクマだよ」

「しかし……悔しいのじゃ」

「それを乗り越えるのも成長クマ」

 返事の代わりに、ぎゅっと毛皮にしがみつく大絹姫。

 そのとき、着信音が鳴る。

「あ、電話クマ」

 出ると油上司だった。

「はい、治癒クマーです。……そうですか。先生に代わりますね」

 スマホを源庵に渡す。

「油が何の用だろう。はい源庵だ。……別に構わないが、陰陽師どもはどうしたのだ……弁償をチャラに。ならば持ってきてくれ」

 通話を切る源庵。

「今、拙者の耳に弁償がなくなると聞こえたようにござる」

 ぬいぐるみの耳をぴくぴくさせる風月斎。

「代わりに厄介ごとを押し付けられたぞ。あの真っ二つになった鎧。あれを陰陽師どもが受け取りを拒否したのだ」

住良木すめらぎさんは何もしてくれないクマ?」

 翔一は師の通話に聞き耳を立てるのは失礼と考えて、あえて聞かなかったのだ。

「奴の名前は出なかったが、たぶん、拒否したのだろう。どこも無理だということだ」

「魔女団はどうでしょう」

「雰囲気的にもっと無理かもな。とにかく責任があるのは事実だ。私は受け取ることにしたぞ」

「調伏するのじゃな」

 大絹姫が嬉しそうに聞く。

「そうだ。へばりつく悪霊を封じねばな」

「僕もお手伝いするクマ」

「翔一殿は学業がござろう」

「心配いらないよ。超祖霊を信じるのだ」

「超『ダメ』祖霊だろ。『ダメ』のつけ忘れはダメ」

 わざわざ、ゲームの手を止めて突っ込みを入れにくる黒い子熊だった。




 後日。

 鎧の残骸が祈祷所に搬入される期日。


 翔一は学校を終えると急いで向かった。

 しかし、

「あれれ? みんなどこに行ったクマ」

 祈祷所には誰もいなかったのだ。

「キューキュー」

 チビクマが一匹出迎えてくれる。

「先生とかみんなはどこに行ったクマ」

「キューキュー」

「風月斎先生は道場、他は精霊界……」

 翔一はゲートの呪術を発見すると、そこから彼らを追う。

 到着すると『海岸』だった。

 巨大な『鍋』が設置され何かがぐつぐつと煮立っている。

(神器の鍋……)

 その周りをぬいぐるみの子熊たちが囲んでいる。

 土壁源庵、ダーク翔一、大絹姫。そして、坂東力士四天王の面々。

 鍋の中には件の鎧の残骸が入っている。

「先生、何をやってるクマです?」

「結局、きてしまったのか。あの鍋は煮込むことで魂のへばりつきを混沌の源物質に落とし込むことができる」

「へぇー凄いクマ」

 霊視すると様々な怨霊怨念が叫び声をあげながら鍋の魔力の前に屈し、どろどろと溶けていく。

 鍋には常世に続く海岸から摂取した海水と混沌の源物質が投入されているようだ。

「源物質に落とし込まれた魂は形を持ち、容易に扱えるのだ」

「どんなのが出るのか楽しみクマですね」

「おお、溶けてきたぞ!」

 土金剛の大声。

 見ると、金属の鎧ごとヌルッと溶けていく。

「凄い。金属の鎧が解けていくクマ!」

「なんか予定と違わないか」

 ダーク翔一の指摘。

「むむ。さすが神器の鍋だ。鎧ごと溶かしてしまうとは」

「でも、よく考えたら、冷えて固まった時点で怨霊の類が形を再構成するだけのように感じるクマ。別の何かになるかもしれませんが……」

「それもそうだな……よし! 聖性精霊を大量に投入するぞ!」

 いきなり思い付きで精霊を召喚する源庵。

「おいおい、大丈夫なのか? 聞いてないぞ、んなこと!」

 黒い子熊が慌てている。

 聖性精霊は清流の気だったりするので鍋が一気に冷えてしまった。

「どんどん薪をくべろ!」

 鋼金剛が慌てて薪を放り込み、黒い子熊がファイアーエレメンタルを呼んで火力を足す。

「おっさん、でかい精霊ぶっこみすぎだぞ!」

 黒い子熊が文句をつける。

「うわ、ものすごい水蒸気だ」

 若木金剛がそういいながら薪を大量に用意している。それを黙々と投入する他の力士たち。

 やがて、

「ふう、どうやら全部がきれいに溶けてしまったようだな」

 鍋は何事もなかったかのように穏やかに沸騰している。

 謎の金属と怨霊と聖性精霊が混合した液体は完全に混ざり合った。

「なんだか、もう、意思も何も感じぬのう」

 大絹姫がつぶやく。

「溶かして調伏すればよいと考えていたが、ここまでの呪力となると惜しいですな」

「武器にでもしたらどうだ」

 鋼金剛の言葉に風が答える。

「それもよい考えだ。源庵殿、我らはこれで武器を作りたいがよろしいかな」

「おお、好きにしてくれ」

 うなずく源庵。

 鋼金剛は紙の符にさらさらと剣を描く。そして、煮立つ鍋にそっと入れた。

 すると、剣の絵が形を持ち空中に浮かび上がる。

 古代の両刃の剣のような形だった。

「ふむ、これはいい。聖と邪、まさしく両刃の剣にふさわしい力」

 鋼金剛が剣をふるう。

 堂に入った剣技だった。

「ならば俺は鎖がいいな」

「私はまさかりで」

「僕は……刀がいいかな。短いので」

 各々の要望を聞いた鋼金剛が符を投入していく。

 浮かび上がる武器。 

 風金剛は鎖。土金剛は和風の大きな斧。若木金剛は小ぶりな刀。

 各自が武器を取った時点で、呪力は枯渇してしまったようだ。

「悪くはないが……生前の俺より体が小さいから、少し扱いにくい」

 鎖を振り回す風金剛。

 翔一の目から見て全く隙はないが、彼には少し不満なようだ。

「フン! 破邪無双鉞はじゃむそうえつと名付けよう。悪くない」

 土金剛は薪に用意した材木を硬さがないみたいに簡単に叩き割る。

「僕の刀も……うーん、かっこいい名前が思いつかないや」

 若木金剛も呪力の刀をふるう。

 彼の技は防御的なようだ。カウンター技をいくつか披露してくれた。

「あ、俺も武器作ってほしかったぞ。でっかい刀」

 黒い子熊の思い付き。

「駄熊では持ち上げることもできぬぞよ」

「余計なお世話だよ! あんたでも使えないだろうが」

 いい合いをする黒い子熊と大絹姫。

わらわにはドラゴンソードがあるゆえ」

「あ、あんたまだ呪われてるんじゃないか」

 ちょっと腰が引ける黒い子熊。


「フウ、これで片が付いたな」

 腕を組んで常世につながる遠い海を見つめる土壁源庵。

 波は何事もないように穏やかな音を立てている。

「最初の話と全然違った結果だったぞ」

 大絹姫とのいい合いを中止してわざわざ突っ込みを入れにくる黒い子熊だった。




「そろそろ目障りになってきました」

「ええ、一応、そうね」

 薄暗い広い部屋。

 どこかのオフィスビルの一室だろうか。

 スーツを着た男性がモニター越しに誰かと会話している。

 部屋の調度は全て非常に高価なもので統一されている。

 当然のように、その男性も一部の隙もないような超高級品で身を固めていた。

 何十万もする黒い皮靴を履いた足を組む。

「アシュレイ君の様子はどうです」

「残念だけど、彼が元に戻ることはないわ」

 男が話している相手は年配の女性。

 顔は彼と同じく陰で見えない。

「では……」

「廃棄にはならないわ。宇宙人と協力して彼に改造を施すことになるの」

「そうですか……」

「セラフィムシスターズの方が問題ね。あの子たちにはアシュレイへの忠誠心を植え付けたから」

「なら、例の熊の怪物を彼女たちが……」

「あの怪物は触らなければいいと私は思っているの。普段から暴れているわけでもないのだから」

「しかし、放置もよくないですよ。オーガスタスも彼に倒されたのです」

「フウ、確かにあの損害は痛かったわ。でも、オーガスタスも無理に土地勘のない国に乗り込んだのは軽率だったわね」

「今までどのヒーローでも倒せなかった上級吸血鬼が倒された。これは本当に重大なことです」

「そうね……しかし、もう終わったこと。彼は扱いにくい駒でもあった」

「……」

「とにかくシスターズはもっと世界的な工作に使うつもりよ。一応、再洗脳は進めているわ」

「大熊のことは私に任せてください。強力な仲間が増えましたから」

「日本地域はあなたの管轄よね」

「そういう区切りは賢人会議でもやめようという話だったと思いますが」

「私は現実主義なの。ところで仲間とは?」

「四百年の時を超えて眠りから覚めた男たち」

「四百年? 面白そうね」

 女性の口がにやりと笑う。

「後ほど詳細をお届けしますよ」

「ええ、楽しみにしているわ」

 通信が切れる。

 男はコーヒーに手を伸ばす。少しすすると背後の暗闇に声をかける。

「聞いたかね」

「……」

 暗闇の中に数人の者たちが立っていた。

 一切物音を建てず、呼吸音すらない。

 しかし、異様な存在感と赤く光る眼がいくつも灯っている。

幡多はた、貴様の無駄な作戦で我の手下を一つ失った」

 しわがれた老人の声が発っせられる。

 スーツの男は幡多というらしい。

「触れ込みより弱かったのではないかね。あの鎧があの程度とは。装備研を脱出することもできないとは……」

「我の宿敵どもも蘇ってきたのだ。風金剛はそのうちの一人」

「あの『クママント』とやらもかね?」

「あの者は初めて見るが、因縁はある」

「とにかく、君たちには大熊退治だけではなく、様々なことをやってもらうつもりだ。時代への適応をすすめてくれ」

「よかろう。我らが必要とするものを用意するのだ」

「生贄だな……用意するのもかなりの手間だぞ」

「幡多、協力はしてやる。しかし、上様と我らを侮ることは許さん。覚えておけ」

 しわがれ声の後ろに立つ侍鎧を着た長身の男。その男が幡多に告げた。

「侮ってはいない。私は結果を望むだけだ」

 幡多の声に、微かに恐怖が混じる。

 鎧の男の殺気はけた違いだった。

「案ずるではない。我らは人を越えし者。我らは人外の化生。我らは天上の魔」

 しわがれ声がそう告げると、彼らの気配はなくなる。

「ふう」

 思わずため息をつく幡多。

「天魔衆……」

 幡多は机のカギを開けて厳重にしまってあるタバコを取り出す。

 そして、強く吸う。

「危険な手駒だ。しかし、奴らの実力は本物」

 暗い部屋で一人、思索をめぐらす男だった。




2022/4/9 微修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ