129 爆誕、正義クママント その2
その日の放課後。
帰宅するその足で祈祷所に向かう翔一。
夕方の祈祷所はいつもと変わらなかった。
子熊になって、玄関を開ける。
「おう、翔一君じゃないか。今日は何の用だ」
土壁源庵が掃除でもしているのか、うろうろしていた。
「『何の用だ』じゃないクマですよ、源庵先生ニュース見ましたクマ」
「お、見たのか。すごくかっこよかっただろ、私の活躍」
「……あれは日本防衛会議から絶対聴収されますクマ」
「フ、それは心配するな。私は二級。多少の裁量は許されるのだ。四級とは違う」
「ぐ、いい返せないクマだけど、先生たちは暫定ですよ」
黒い子熊、ダーク翔一もやってくる。
「見たぜ、俺も。あんたあんなに呪力強かったのか」
「普段は弱い奴らに合わせてちまちましたことしかやってないからな。私が本気出せばあんな感じだ」
「俺もやってみようかな」
「絶対、やめるクマ」
「なんだよ、けち臭いなぁ」
「素の精霊力は私、翔一殿、宿精殿の順になる。この土壁源庵は精霊術特化だから。やはり、ハイブリッドの君たちとは違うのだ」
「確かに、俺は妖術が半分くらいだから。強力なのは翔一が手助けしてくれないと無理だ」
「素の力だと、先生が一番だと思うクマだけど、ちょっとあれは敵勢力に目を付けられるかもですよ」
「呪力で見ると、翔一君が一番だがな。特化した分、精霊術だけは私の方が上なのだ」
「坂東力士だったか、祖霊のコネもあるよな」
「フ。要は人徳だ」
「自分の宿精は行方不明だけどな」
「ぐ。そ、そんなことない、ぞ」
そのような話をしていると電話が鳴る。
「はい、治癒クマーですクマ。ええ、『正義クママント』ですか……確かに、彼は『祈祷師ゼロ』のメンバーですクマ。……ええ、伺います」
「上の方から何かいってきたのかね」
源庵が聞く。
「クママントに関して、説明してほしいっていってますクマ」
「別にいいけど、私のカッコよさにしびれたかな」
「たぶん違うと思うクマ」
「面白そうじゃの、妾もいく」
大絹姫が嬉しそうに寄ってきた。
「いいけど。風金剛さんもきてほしいって」
「彼は……そういうのはやめたほうがいい。敵を倒すのと武術の修行以外は本当に無関心だから」
「そういえば、坂東力士の皆さんとはどういうお知り合いクマですか」
「彼らは江戸初期の在野ヒーローだった。確か、邪悪な忍者軍団と戦って相打ちになり、子孫たちのことを心配していたという。私は当時、超祖霊として彼らに力を貸していたのだ」
「その忍者は壊滅したクマですね」
「どうやら、転生せずに思いが残っている時点でそうではないらしい」
「そうですか……」
剣の手入れをして、無言で聞いていた球磨川風月斎が立ち上がる。
「風金剛殿は拙者たちと武術の修行をすることになっている。そして、天城氏が剣の修業にくるので、暫くは手が離せぬ」
「天城さんくるんだ。あの人の剣術も先生直伝クマですね」
「彼は研究熱心で、既に他の師匠筋にも学んでいるという。拙者も見分が広くなろう」
「僕も教えてもらいたいクマ、でも、審問もあるので……」
「翔一殿にはいずれ、その成果を伝授いたそう」
「ありがとうございます。先生」
翔一は頭を下げて自宅に帰った。
翌日。
防衛会議の会議室にそれなりの人数がいた。
いつものモニター越しに暗黒司令。同じく、聖雄造。住良木裕一郎と二宮礼子。黒いローブの女。年配のシスター。そして、吸血鬼のファビウス・カヴァーディールとヴェラ・ジョーダン。
「よくきてくれた治癒クマー君、知っている顔もいると思うが紹介しよう……」
翔一が知らないのは、黒いローブの女とシスター。
黒いローブは二級上位ヒーローの魔女イヴァンカ。シスターはエクソシスト、ラナ・トンプソン。防衛会議の協力者だという。
「件の方はどこにいらっしゃるの、魂はきているみたいだけど」
イヴァンカは多少訛りのある日本語で話す。
金髪碧眼の美女。
(イギリスとかアメリカじゃないのかな。たぶん、東欧の人クマ)
翔一はそう思う。
「ほうほう、確かにそうそうたる御仁ばかりじゃの」
ひょこっと、翔一の背後からチビクマを抱いたドール、大絹姫が顔を出す。
「あら、かわいいわ。でも、魔物の類よね」
かわいいといいながら、怖い目をするシスター・ラナ。
「彼女は人形に取りついた幽霊で祖霊さんです、世の中が大変なのを心配して助力してくれているクマ。祈祷師ゼロのメンバーです」
幽霊というと、ざわざわした。
「フム、お初にお目にかかる」
暗黒司令は彼女と会ったことはない。
「フハハ、待たせたな諸君、私が正義クママントだ!」
マントと土器面付けた土壁源庵が宙に浮いて現れる。マントにエアーエレメンタルが受祚されているようだ。
「どこから出てきたんだ」
「異界から、治癒クマー君のオーラからです」
ファビウスとヴェラが小声でしゃべっている。
「土壁源庵殿ですな、お会いするのは二度目ですね」
暗黒司令が声をかける。祈祷師ゼロの身分が決まった時に一度だけ顔合わせしたことがあった。
「ち、ばれているなら仕方がないな。そう。クママントの正体は祈祷師の土壁源庵だったのです!」
といいながら、座る。
「バレバレですよ、先生。というか、動くぬいぐるみなんてそんなにいませんクマ」
「今日は土壁源庵殿に質問したいという術者関連の方を集めたのです。あの映像はかなり驚異的でしたからね」
暗黒司令はそういいながら、各人に促す。
「では私から聞こう。源庵殿の術は?」
白魔術師、聖雄造が最初に質問する。
「精霊術です」
「あなたはどのような存在なのですかな」
「治癒クマー君の祖霊です」
「祖霊? 異界の存在と思うが、なぜ、この世にあらわれたのです?」
「子孫の世界が心配だから。ここまで混沌の気が強くなっていることを憂慮したのです」
「ふむ。では、以前、彼が我が家から物を持ち出したことをご存知か」
聖雄造は治癒クマーを見る。
「あれは、あなたの家の宿業を治癒クマー君が代わりに背負ってあげたのだ。感謝してほしい」
「……どういうことかね。やはり、重要な秘宝を持ち出したのは認めるのだな」
「あれはあなたのものでも聖家のものでもない。重大な事件の末に生まれたものだ。あなたの娘が何の犠牲もなく助かったわけではないぞ!」
かッとする源庵。
意外と沸点が低い。
「先生! あまり詳しいことは……」
思わず、翔一は止めようとする。
「……倫のことか」
聖雄造は鋭い目になる。
翔一が彼の家から脱出した事件の後、病気がちの聖倫は呪詛を脱して健康な美少女になっているのだ。
雄造は当然喜んではいるが、内心、呪詛を自力で解決できなかったことが心に引っかかっていた。
土壁源庵は雄造の質問にムッとして、ぬいぐるみの短い腕を組んだ。
「いい争いはやめたまえ、詰問の場ではないぞ」
他の理事が場を収めようとする。
「正体は祖霊と仰るなら、精霊術は相当大昔の術となりますよね」
住良木裕一郎が質問する。
「はい、そうです」
「ならば、あなたはいつの時代の存在なんですか」
「土器とか石器とか作ってましたね。こう見えても、石槍術はほぼ無敵です」
「は、はぁ? と、とにかく、あの強力な精霊は昔は呼べたのですか」
「うーん、昔過ぎて思い出せないけれど、たぶん、無理だったと思う。今の時代は大昔より混沌の力に満ち溢れているよ」
「大クマー氏のことを教えてくれませんか。邪仙榊原を倒したという。クマ君の兄ですよね」
「彼は特別な精霊界にいる。一言でいえばスーパーヒーロー」
「彼はどのような存在なのです?」
「でっかい熊ですな」
「真面目に答えなさいよ!」
秘書っぽい二宮が怒る。
彼女も非常に沸点が低い。
「二宮さん。落ち着いて……ちょっと関係ない話ですが。邪仙の榊原は死んだということになってますが、仙人ですからね。復活する可能性に関してはどうお考えですか」
「あいつは完膚なきまでに終わりました。私がやったわけではありませんが。委細は奴の兄貴分、方丈という人に聞いてください」
「方丈、方丈仙?」
「ええ、そうです」
「では、彼の武器『魔送喪魂剣』は仙人に渡したのですか? 治癒クマー君の話では信頼できる人に渡したということですが」
住良木の質問に隣にいる二宮が慌てている。
彼女が横から翔一を説得して手に入れたのだ。
「フム。それは答えられません。治癒クマー君はその方と約束したので誰にもいえないのです」
「信義を重んじると」
「術者であれば言葉には呪力が乗ります。特に約束したらそれは口約束でも重いのです」
「精霊術でも言霊の概念はあるのですね」
「近年の術ほどじゃありませんが、この時にきて気が付いた面もあります」
「えーっと、先生から見たら原始時代の術以外は全部最近の術になりますクマ」
補足を入れる治癒クマー。
若干の笑い。
「何千年も前の存在ならそうだろう」「千年前の術でも彼から見たら最近ですわね」
術者たちが小声で話し合う。
「フム……僕からは以上です」
何か思うところがあるのか、無言になる住良木。
「あなたの使う精霊とはどのようなものですの」
シスターラナが問う。
「世界に満ちた霊魂のことです」
「ならば、あなたにとって神とは?」
「異界の存在。精霊界とはまた違う。私は神界のことは最近になってから知ったのです。だから、質問されてもあまりわからないのが現状ですな」
「日本の神々をどう思いますか、我々の唯一神のことも」
「私はもっと弱い存在しか扱えません。遥か彼方の次元のことまではあずかり知りません」
「……」
彼女は神に関して彼の認識を叩きたかったのかもしれない。しかし、源庵はあくまで無知を強調したので、ラナはそれ以上は何もいわなかった。
「私が知りたいのはあなたの力よ。精霊を受祚だったかしら、魔法のアイテムを作るのと、映像で見たエレメンタルの召喚。そして、あの強力な剣」
イヴァンカがやや曖昧な聞き方をする。
(風金剛さんのことは聞かないんだ、ネットを詳しくチェックしている人か、会議の幹部以外知らないのかも)
翔一はふとそう思う。
姿勢を正して答える源庵。
「私の力はお察しの通りです。精霊は無数に存在し、私の力以下の物を呼べるということです。慣れているものは多少強めも呼べますが」
「あれで、多少なの。最強の超能力者に近いわ」
「まさか、それほどでは」
「じゃあ、あの剣は?」
「あれは精霊界に転がっていたのを、私が拾って使ってるだけです」
嘘ではないが、真面目に説明もしていない。
「見せて頂けないかしら、精霊も凄かったけど、あの剣が最も驚異的だわ」
「うーん、どうする弟子よ」
源庵は、少し翔一と相談する。
「隠すのもどうかと思いますけど、見せるのもどうかと思いますクマ。とんでもなく危険なものです」
「そうだよなぁ」
相談を終えると。
「あれは見世物にはできない品です。あれを見るのは敵が死ぬ時だけ。フ」
ニヒルな雰囲気を漂わせる源庵。
「あなた方は隠し事ばかりですな。本当に正義の味方なんですか」
聖雄造が批判する。
「失敬な、正義のために戦うのがクママントです。しかし、正義のためには正体含め隠すこともあるのですよ」
「だが、もうあの剣は敵にも味方にも知られてしまった。仲間である我らには見せても問題ないでしょう」
暗黒司令が意見する。
「うーん、どうしよう」
「見せても、誰もどうしようもないかもしれませんクマですね。それに、公開できることは可能ならすべきかもです」
「確かに」
邪竜は大クマーより巨大な怪物だった。
剣は片手用だったが、人類では両手でも持てるものではない。
広い地下駐車場で、見せることになった。
先ほどのメンバーと、ドローンのモニター越しの暗黒司令。
警備兵が二個小隊。
尚、油上司はいない。動物的保身本能が危険を察したのだろう。
「では、見せよう。出でよ、ドラゴンソード!」
ブオンという音と共に、虚空より巨大な剣が出現する。
メタリックな巨剣であり、よく見ると、怪物の骨を削り込んだものだとわかる。
あたりを圧するオーラ。
混沌の気配が一気に増す。
「何という瘴気なの!」
二宮が叫ぶ。
「これは、悪魔の武器です!」
シスターラナも叫んだ。
ロザリオをかざし、聖霊の名を呼ぶ。
「なんてすごいの。これは、本当に……」
イヴァンカは美しい目を大きく見開いている。
「これは一体、なんなのだ。骨。骨でできている。しかし、こんな金属のような骨を持った生き物など……」
聖雄造は必死に分析している。
手に持った六芒星の呪物が微かに輝いている。
「これが何かわかるか?」
「わかりません。一ついえることはこれでやられたら、吸血鬼でも消滅します」
「恐ろしい武器だ。しかし、邪悪の美とでもいうべき魅力がある」
ファビウスとヴェラはこっそり会話する。
「源庵殿。この剣は拾ったと仰ったが、由来はわかっているのですか」
暗黒司令が冷静に聞く。
さすがに、この場にいるもので冷静を保っているものは少ないのだ。
「ドラゴン系の武器だと思います。いやー、どこで拾ったのかは思い出せないですが」
「絶対、嘘でしょ。忘れるわけがない」
住良木が突っ込みを入れるが、周りは誰も聞いていなかった。
術者たちは嘆息したり、畏れたり、分析したりと忙しい。
人々は騒然とし、警備兵たちも動揺していた。
「ほうほう、確かにすごい力じゃの」
可愛い大絹姫が翔一のオーラから飛び出して興味津々といった様子で剣を見る。
「面白そうじゃ」
空気を読まない大絹姫がぴとっと剣の柄を触った。
「あ。姫ちゃん!」
翔一は止めようとする。
しかし、遅かった。
「フウ、フウ、なんという混沌の力じゃ。これなら何でもできるわい」
大絹姫は暗黒のオーラを燃え立たせると、剣を闇の腕で持ち上げる。
「あ、取られたぞ」
源庵。
「『取られたぞ』じゃないですよ!!」
住良木のつっこみ。
剣がいきなり飛ぶ。
ドゴォ!
駐車場の隅にあった乗用車が真っ二つになった。
「妾は無敵じゃ!」
「姫ちゃん落ち着くクマ! チビクマも心配してるクマ!」
慌てて、翔一が説得に走る。
「キューキュー」
心配そうなチビクマ。
「チビ、クマ?」
「そう、それに、お昼からイケメンヒーロー番組見るクマだよ」
「イケ、メン……」
翔一の必死の説得、姫の好物を思い出させて剣とのつながりを忘れさせようとする。
翔一が彼女の気を引いている間に、そろそろと回り込む源庵。
「そこだぁ!」
源庵は強力な聖性精霊を呼ぶ。
剣と姫のつながりにぶつけ、断ち切った。
「は? 妾何をしていたのじゃ?」
「キューキュー」
ひしっと抱き着くチビクマ。
「フハハ。ご心配無用。剣は無事クママントの制御下に戻りました。車は残念でしたが」
「俺の新車が……」
警備兵の一人がひざまずいている。
「何というか、クママントさんは仲間なのか災害なのか紙一重ですね」
住良木のつぶやきが聞こえた。
2022/4/9 微修正




