123 暴力団と熊 その1
繁華街を歩く高校生集団。
美しい男女の集団でありオシャレでもある。
長い手足、美しい顔。
誰もがはっと振り返るような高校生たちだった。
そして、彼らの後ろを雰囲気の合わない少年がついて歩いている。
彼は小柄で傷だらけの少年、御剣山翔一。
「ねえ美雪。今度はどこに行くの」
「新しくオープンしたクレープ屋よ。あれが絶品なの」
笑顔の美しい少女、御剣山園が声をかけたのは、彼女の親友、安達美雪。
彼女たちの横には背の高い少年が二人。
少し髪を染めて、白いシャツを着崩している。
細い鎖のネックレスや、銀色の大きな腕時計を嵌めている。
彼らの所持品はブランドものだが、翔一は特に興味もない。
少年二人は雰囲気の合わない翔一を極力無視しようとしているようだ。
クレープ店に入って、注文して待つ。
ゆったりしたソファーと椅子に座る五人。
「こちらが平野稜君と細川大作君よ」
姉の園が紹介してくれる。
平野は背が高く細身の少年。肌が白く口元が若干卑しい。モデルをしている。
細川は同じく背は高く平野よりやや肩幅が広い。美男子だが、目つきが妙に暗い。サッカーをしている。
(どちらもあまり好きな感じじゃないなぁ)
霊視する。
オーラは小さく、歪んでいる。
こっそり、弱い者いじめでもしてそうな雰囲気だった。
(しかし、それほど悪って程でもないね。性格悪い普通の人)
「彼が翔一君だよね」
「ええ」
細川に答える園。
「この子凄いのよ。あの空山健太のところに殴り込みに行ったんだって」
美雪がどこから聞いたのか、そんなことをいう。
「え、本当かよ」
「こんな、小柄な子が? あいつ、喧嘩自慢だぜ」
平野と細川はにわかには信じがたいというような顔をする。
「たぶん、人違いです」
一応、否定しておく。
「本当のことをいいなさいよ。あいつの友達に聞いたのよ」
美雪が少し怒りながらいう。
あの喧嘩ではほとんど見られなかったはずだ。
(もしかしたら、お父さんが芸能界で言い触らしているのかな。それが色々な人に伝わって……)
彼の父、天羽英二は少し見栄っ張りなところがある。自分の息子の武勇伝を黙っているようにも見えない。
「にしても、本当にすごい傷だらけだね。君、何をしてそんなことに」
細川に聞かれる。
彼の方が会話を好むようだ。
「わかりません、記憶にないのです」
いつも通り、白を切る。
「ねえ、それより、サッカーの部活はどうなの」
「今度大会に出ることになったよ……」
美雪と細川は部活の話題で盛り上がるようだ。
五人で座っているが、会話しているのは主に二人だった。
「翔ちゃん、二人、どんな感じ」
小声で園に聞かれる。
「普通だよ」
「何よ、真面目に答えなさい」
翔一が姉に呼ばれたのは、友達の恋人候補である少年の見極めを頼まれたのだ。
彼女は翔一の霊能力を知っている。
オカルト的パワーで人物鑑定をしてほしいとのこと。
翔一はそんなことはできないので断ったが、どうしてもと頼みこまれ、渋々うなずいたのだ。
「ねえ、翔ちゃんって、占いできるのよ。何か占ってほしいことない」
「お姉ちゃん」
「いいじゃない」
「じゃあ、少しだけ」
占いと聞いて、美雪が目を輝かせる。
少年二人は疑わしそうな眼をした。
「私、何を占ってもらおうかしら」
「ここでは狭いから無理かなぁ」
「クレープ食べたら、公園に行きましょう。あそこに広いテーブルとベンチあるから」
姉の言葉で次の行き場所が決まる。
大きなテーブルの上に鹿の皮を広げ、宝石の入った袋を出す。
「思ったより立派な道具だ」
平野がつぶやく。
「じゃあ、あたしの運勢。これから一年」
「はい」
美雪の言葉にうなずいて、ざらざらと宝石をぶちまける。
「ええっと、大体いいです。恋人もできます。思い通りの進路に行けます」
機械的に読み解く。
「やったー。やっぱりね。私運がいいの」
目をくりくりさせる美少女。
「ぼくはいいよ」
細川は断るが、
「細川君と平野君の恋愛運をお願い」
「勝手に決めるなよ、美雪」
平野が不満げにいう。
「重要でしょ、いつも彼女が欲しいって私にいってくるじゃない」
「友達を紹介してくれたらいいんだよ」
「いいからやって」
細川と平野を見るが、強く断るわけでもないらしい。
「では、まず細川さん」
ふたたび、宝石をぶちまける。
「どう?」
「……うーん、あまりよくない……」
子熊形態なら無邪気に全部いってしまうだろう。しかし、人間形態の時は稚気が抑えられて分別が働く。
悪い結果を素直にいうべきか迷った。
「いいなさいよ」
園が興味津々で促す。
「逆に興味がわいたよ、いいからいってくれないか」
細川もそういった。
「じゃあいうよ、ここが愛情とか家庭の場所だけど、そこにいくつも石がある。恋愛が一つでは足りないということ」
「ぷぷ。じゃあ、浮気男ってことね」
美雪が笑いをこらえながらいう。
むっとする細川。
「もっと悪いこといってよ。こいつ調子乗ってるから」
平野も初めて笑顔になった。
「ええっと、黒い珠が赤い珠とすごく近い。恋愛を占ったからそれ関係で災いがすぐにくる」
「もういいよ! いい加減なこというな!」
細川は怒りだした。
「占いじゃない。本気にならないで」
園にたしなめられて、苛立ちを無理やり抑えている。
「じゃあ、僕も占ってよ」
平野に促されて、気が進まないが機械的に占いをする。
「わくわく」
美雪は大喜びだ。
「人の運勢で喜びすぎだろ」
「平野さんは……恋愛はほとんどダメというか、愛されているけど、興味がないのか、それどころじゃなくなるのかな」
「やっぱりな、お前は女に冷淡すぎるぞ」
細川が突っ込む。
「そんなことない。僕は彼女が欲しくて仕方がないんだ。占いは外れているね」
「……そうです。占いなんて参考程度で思ってください」
翔一は彼らが本気にならないように言葉を継ぐ。
しかし、今までこの占いで外れたことがない。
あまり考えたくはなかったというのが本音だった。
「それじゃあ、次私占ってよ」
「お姉ちゃんはダメだよ」
「なんでよ、いうこと聞きなさい」
「おい、お前、御剣山だな」
背後から、いきなり、野太い声が聞こえてくる。
振り向くとがっしりした体格の男たちが立っていた。
どう見ても暴力団風の男たち。
(また、剣城会の人なのか……)
男たちの中に、大絹姫が酷い目に合わせたチンピラがいる。
人相の悪すぎる五人ほどに囲まれて、平野と細川は脅えて一歩下がり、安達美雪は園の後ろに隠れる。
逆に翔一は一歩前に出た。
「何か、前よりさらにひでぇ面構えになったな」
チンピラはやや、驚いているようだ。
「城島さんという人がいっていたでしょう。もう、関わり合いになるのはやめませんか」
「ち、叔父貴の名前だしゃ、怖気ずくとでも思ったのか」
ぐっと胸ぐらをつかまれる。
「殴って気が済むなら、やってください」
「やめて、警察呼ぶわよ!」
園が血相変えて大声を出す。
「いい度胸じゃん」「舐めてやがるぜガキのくせに」
こぶしを握る男。
五分刈りで凶悪な顔だった。
(やられておくか。殴りだけならいいや)
冷たい目で見つめ返す。
「おい! お前ら何やってる!」
五分刈りの後ろから声。
皆が見ると、背の高い男。
イタリア製スーツにイタリア製ブーツ。イタリア製のサングラス。
伊達な男だった。
「藤堂の兄貴……」
「藤堂さん」
思わずほっとする。以前、模範囚の奉仕活動で一緒になった男、藤堂要だ。
勇敢で師匠の風月斎も褒めていたことを思い出す。
しかし、藤堂は一瞬悩むような顔をした。
(しまった。治癒クマーの姿じゃないとわからないよね)
「カタギをいじめてる場合かよ、仕事はどうした」
「ス、すんません兄貴。でも、こいつ、五菱の兄貴を貶めた御剣山ですぜ……」
「五菱兄貴のことは忘れろ。降格されて遠くに飛ばされたんだ。もう東京に帰ってくることはねぇよ」
「へ、へぇ」
胸倉を掴んだ手が外れる。
「悪かったな、坊や」
「……」
「あなたがえらい人なの。高校生に襲い掛かるなんてどんな教育しているのよ!」
園が激怒して藤堂にいい募る。
「それはすまなかったな。弟分たちにもしっかりいいつけておくぜ」
「わかれば、いいのよ」
誇り高くて美しい園に呆気にとられる藤堂とチンピラたち。
「この姉さんを怒らせるんじゃねぇぜ。帰るぞ」
「へえ」
男たちは肩で風を切って歩く藤堂について行く。
「翔一君って……」
安達美雪が何かいいたげだった。
「ごめんなさい。以前、トラブルになったことがあって」
「トラブルって、あいつらヤクザでしょ。大丈夫だったの?」
当然、園は非常に心配してくれる。
「心配しないで。偉い人が出てきて素人とかかわるなってことで無罪放免になったから」
「でも、目をつけられているわ」
「そのうち解決するよ」
園の懸念を躱しながら、占い道具を片付ける。
「ん? 黒い石がない」
思わず、キョロキョロする。
どう見てもない。
美雪と園も探してくれるが、なぜかなかった。
「男の子たちに聞いてみるわ。あいつら、ヤクザ見て逃げたのよ」
平野と細川の姿が見えない。
「おい、失礼なこというなよ」
細川が戻ってきた。
「あなた、どこ行ってたのよ」
美雪が問う。
「稜のやつが、仲間呼んでくるって」
(それなら、状況から考えて平野さんが持って行った?)
「もう遅いわよ。ヤクザはどこかに行ったわ」
「なんだよ、意味ないじゃん」
「大ちゃん。黒い石見ていない? 翔ちゃんの占い道具よ、見たでしょ」
園が聞く。
「ああ、あの石か。さあ、知らないよ。ヤクザがきたからそのことばっかり気にしていたから」
「じゃあ、もしかしたら……」
「あれは……危険だよ。すぐに回収しないと」
下手なことをいえば問題が大きくなるのはわかっていたが、呪力を持たない人間があれを持てばどうなるか。
翔一は心配だった。
「どういうこと。何があるの」
「……よくないものだよ。とにかく見つけないと」
美雪に聞かれても、詳しくはいえない。
「稜に連絡とってみるよ、君たちは公園を探してみて」
細川はそういうと、スマホを出す。木陰で連絡を取り始めた。
何度探しても、公園にはなかった。
霊視して反応がないのだから、明白ともいえる。
「よう、お困りのようだな。困ったときは妖術」
「うわ。ダーク君か。失せもの探し、因果辿ってくれないか。精霊界からこっそり頼む。しゃべる熊君が出てきたらみんながびっくりするから」
「任せとけ、その占い袋を貸せ」
翔一は宿精と小声で会話し、そっと袋を渡す。
虚空からモフ手が現れ、袋を消した。
「え! 今、黒っぽい猫の尻尾みたいなのが見えたわ」
安達美雪が目ざとく気が付く。
「な、何でもないよ」
「絶対、何か見えたわ」
美雪の追及をかわしていると、精霊界からおぞましき怨霊が姿を現す。
彼はキョロキョロしていたが、何かに気が付いたのか、ゆっくりと一方行に向かう。
「すごく、ぞっとしたわ。何かいた」
園は感がいいのか両腕を抱えるしぐさをする。
「もう暗くなってきたから、お姉ちゃんと美雪さんは帰って。僕は心当たりがあるからそちらに行くよ」
「心当たりって、変でしょ。今ここにあったものよ」
「いいから。あれには関わらないほうがいい」
翔一はそういうと、どこかに向かう。
見送る二人。
「変わった子ね」
「ええ、秘密を抱えているの」
「お姉ちゃんは何か知ってるわけ?」
「たぶん、だけど。異世界にいっていたのよ、あの子。そこで、とんでもない目に遭ってきた……」
「……なんだか笑えない冗談よ」
普段なら、きゃははと笑う少女だったが、暗くなっていく公園で恐怖が美雪を縛っていた。
「まいったなぁ」
細川がやってくる。
「大ちゃん」
「あれ、翔一君は?」
「心当たりがあるっていってどこかに行ったわ」
「そうか……それより、稜の奴、とんでもない奴に声かけたみたいだ。今、そいつに捕まってるのかも」
「どういうこと」
「OBの武部龍児って知ってるだろ」
「ええ、ヤクザの息子だとか。すごく威張り散らしてたわね」
入学当初のことを思い出す園と美雪。
「あいつのところに行ったらしい。相手がヤクザだから、対抗するにはそういうやつが必要だって」
「あの武部を簡単に動かせるわけないじゃない。稜、何考えてるのよ」
「今、武部って何やっているの」
園が聞く。
「質の悪い奴らのリーダー気取ってるわ。詐欺グループ率いて儲かってるって」
美雪は事情通である。
「葉っぱの密売、学生相手の金貸し、恐喝、電話使った特殊詐欺。そんなことをやってるって噂聞いたぜ。なんでそんなのと稜が知り合いなんだ?」
「稜のお姉さんが、武部の彼女だったの。でも、今は縁が切れているって聞いたから安心してたのに」
「初めて知ったよ」
「あいつ、一年の時、すごく調子に乗ってたでしょ。街でもそうよ。喧嘩吹っ掛けて、武部に頼ったりして」
「二年になってから知り合ったから、知らなかったよ」
「翔ちゃんが心配だわ、あの子一人でどんな所でも行ってしまうから」
三人は話し合っていたが結論が出ない。
「喧嘩の強い人がいたら何とかなるのに」
細川はスポーツマンだったが、喧嘩は苦手だった。
「一人心当たりがあるわ。剣術の先生。ヒーローもやってる」
「え、そんなすごい人と知り合いなの、園」
「でも、無理よね。遠い場所にいるから。私の家の近く」
「ちょっと遠すぎるわね」
苦笑する美雪。
思案するが、結局、今は何もできないということで解散になった。
暗い路地。
少年が倒れていた。
口から血を出し、目が腫れあがっている。
「平野さん」
小柄な少年がやってくる。
「……」
「誰にやられたんです」
「翔一君」
うつむく平野。
「占い道具から持って行った黒い宝石をどこにやったんです」
「……なぜ、わかった」
「あれは危険なものです」
「どうやって、僕を見つけたんだ」
「……」
「……」
二人は無言でにらみ合う。
「いいたくないのなら、いわなくてもいいですよ。僕は宝石を見つけます」
歩き出そうとする翔一。
「ぼ、僕を訴えるのか」
「しません。でも、馬鹿なことをしたと思います」
「僕は、怖かったんだ。いきなりヤクザがやってきて」
「普通の反応だと思います」
「君は胸ぐらをつかまれていた。怖くなかったのか」
「……」
「僕は怖い。だから……」
何かいいたげだったが、結局、無言になる。
「怖いのと石を盗む関係がわからないのですが」
「そ、それは、その、それを使ってあいつら、武部さんを動かそうと」
なぜか焦る平野。
「その武部という人に渡したのですね。その人のことを教えて下さい」
「武部龍児。ヤクザの息子だよ。君一人でどうにかなる相手じゃない。宝石は諦めるんだ」
翔一は何も答えず、彼を放置して去った。
2021/11/7 微修正




