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121 四級ヒーローの宿命 その2

 怨霊を追って、三人は十分ほど走った。

「あ、兄貴。敵は車、こちらは徒歩ですよ。タクシーでも使いませんか」

「……」

 安藤と大沢が走りながら話す。

 大沢が素直にタクシーを使うといえないのは所持金が少ないのだ。

「僕のおこずかい使ってほしいクマです」

 治癒クマーが財布を出そうとすると、

「ガキがんなこと心配するな。これもチビどもを助けるためだ、安藤、金を使え」

「は、はい!」

 大通りに出て、タクシーを拾った。

「運転手さん、あの薄い人影見えるクマ?」

 タクシーを探している間に、ダーク翔一がかすかな光精霊を怨霊にまとわせたのだ。

 誰の目にも見える不気味な存在。

「ひ! あ、あれは何ですか。というか、しゃべる小さい熊?」

 初老の運転手が驚いている。

「僕たちはヒーローです。あの幽霊が誘拐された子供の居場所まで案内してくれるクマ。すぐに出して!」

「おっさん、頼むぜ。あれは不気味だけど……と、とにかくだ。あれを見失ったら子供がさらわれてどこか遠くに行ってしまうんだ!」

 大沢も大声を出した。

「わかりました、そういうことなら。頑張ります」

 運転手はすぐにアクセルを踏んだ。


 霊体は時速三十キロ程度で動いている。彼の最大速度なのだ。

「おせーな。何とかならんのかよ」

 大沢がぶつぶついう。

「走って行って、敵の目の前でへとへとよりはいいと思いますよ」

 安藤はハンカチで汗を拭いていた。

「旦那方、ヒーローとおっしゃるなら、身分証見せてくださいな」

 三人は四級の徽章を見せる。

「防衛会議の重要任務中ならタクシー協会は支援してますから。料金は必要ありませんぜ」

「それはありがたい」

「支援なくても、私は取りませんけどね」

 そういうと、運転手は熟練した運転を続ける。


 やがて、かなり寂しい商店街に出た。

「ここらあたりは何十年も前からシャッター街です。老人すら、ほとんどいません」

 運転手がきょろきょろしながらゆっくり進んだ。

「やばい、いやな雰囲気だ」

 大沢が懐からバトンを取り出す。

 会議が四級用に支給しているスタンバトンだった。

「おじさん、もういいよ止めて。子供たちの匂いがしたクマ」

 窓をかすかに開けてもらって、翔一がうなずく。

「私、戻って商店街の入り口で待ってます。緊急で脱出するなら乗せますよ」

 商店街は東西に細長い。タクシーは東側から入ってきた。

「危険がありますクマ」

「おっさん……しかし、これは好意を受けたほうがいいかもしれんな。子供を助けるためだ。何があるかわからん」

「しかし、敵は……」

 翔一が何かいいかけたが、

「私には失うものなんてないんです。もう年齢もこんなのですから。正義を手伝える機会に、おめおめ一人だけ逃げられませんよ」

 初老のタクシー運転手が決然とした顔で告げる。

「……」

「おっさん、恩に着るぜ」 

 大沢はがっしりした手で運転手と握手すると、車を降りた。

 車はすぐに商店街の入り口に戻る。


「僕は小さいから、隠密が得意です。お二人は十歩離れてついてきてください」

「わかった」

 翔一は商店街の障害物や雑草などの陰に隠れながら、匂いの方角に向かう。

 隠密精霊も張った。

 空き地になっている場所も多く、寂れた雰囲気だった。

「確かに、あいつ、よく見てないと見失いそうだぜ」

「泥棒させたら相当優秀ですね」

「安藤、犯罪発想は捨てろ」

「あ、すんません」

 距離を開け、バトンをもってついていく二人。

 やがて、いくつもの建物が取り壊されて更地になり、そのまま放置された広い草むらにたどり着く。

 草の丈は低い。

 一か月ほど前に管理者が草刈りでもしたという雰囲気である。

「身を低くして、敵がいます」

 雑草の陰から見ると、草むらの奥に大きな廃屋があり、そこの前に五人の人間が所在なさげに立っている。

 じっと突っ立って、無言であたりを見ていた。

 形としては、建物の裏口を守っている。建物は何かの店だったらしい。

 尚、その店の正面は表通りであり、小さな商店街を抜けた右手に出るようだ。

「あいつら、絶対おかしいですぜ。人間だったら、うろうろしたり、タバコ吸ったりするでしょう」

「わかってる。昆虫人間だろう」

「応援呼びませんか、兄貴」

「うむ」

「あ、大型の車がこちらに向かってくるクマ」

 かなり遠くだが、この辺りは喧噪も少なく、翔一の耳で拾うことができた。

「方角はわかるか」

「真北の方から。たぶん、あと五分ぐらいで着くと思います。商店街に入ってくるのかも」

 商店街には南北に交差する道もいくつかあった。

「まずいな、応援くるまでに、またどこかに行ってしまうぞ」

 大沢が少し焦った声を出す。

「単に通りすがりの車ってことはないですか?」

「希望的に考えるなよ、最悪を想定しろ」

 大沢が安藤を叱る。

「す、すんません」

「もうこうなったら、突撃しかないぜ。誘拐は一刻も争うのが常識だ。治癒クマー、あいつらを引き寄せられないか、俺たちが突入する」

 翔一は迷った。彼らが返り討ちにあう可能性もかなり高いからだ。しかし、

「わかりました、二手に分かれましょう。僕は南から敵を引き寄せますクマ。おじさんたちは北の生け垣に隠れて」

「よし、そうしよう。安藤、念のために会議に連絡入れておけ」

「はい」

 翔一はうなずくと、南側に行く。


「ダーク君」

「なんだよ」

「ぬいぐるみで動いてくれないか。あのトタン板を棒でたたいて、奴らがきたら逃げてほしい。僕はおじさんたちをサポートするよ」

 空き地にはがらくたが多い。

「お前が大クマーになってとっとと突撃したらいいだろう」

「いつも僕が助けていたら、ヒーローも数が増えないよ。それに、おじさんたちならやり遂げると思うんだ。前も活躍したからね」

「それはそうだが。……ま、お前の好きにやれよ」

「頼んだよ」

 翔一はこっそり大沢たちの後ろに戻る。


 配置についたところで、大きな音がガンガンと鳴り響いた。

 その音はすぐにやむが、見張たちには確実に聞こえた。

 気持ちの悪い人間たちは無言で音源に近づいていく。あまり賢くないようで、全員が向かった。

「行くぞ安藤」

「ヘイ、兄貴」

 二人はいつの間にか公認スーツを着用していた。というか、彼らは比較的ぴったりしたスーツの上にジャケットを羽織っていたのだ。

 スタンバトンを構えて、廃屋にこっそり入っていく。

「クマクマ」

 翔一も彼らをこっそりフォローしている。


 廃屋には簡単に入れた。

 昔は何らかの商店だったようだが、今は空の棚が並ぶだけの店舗となっている。

 しかし、意外と奇麗ではあった。

(人は住んでいないけど、まだ防音がしっかりしているクマ。外の音が聞こえなくなった)

 宿精の立てる音は屋内から聞こえなかったようだ。

 中にいる連中は外の動きに気が付いていない。

 大沢と安藤はカウンターの陰から様子をうかがう。

 男と女。覆面を付けた人間二人が、幼児二人を見張っている。

 子供は寝ているようだった。

(よかった、子供は無事)

「敵は二人いる。おまえは女、俺は男をやる」

 大沢にうなずく安藤。

 翔一は武器も持たない二人の男女に警戒して、対消滅精霊を待機させ、投石用の小石を準備する。

「いくぞ! おら!」 

 大沢がいきなり飛び出すと、男の額に見事バトンをたたきつけ、電撃を走らせる。

「ぐは!」

 男は一撃で悶絶。

「とりゃあ!」

 安藤も女にスティックでつこうとしたが、

「ち、なめんなよ!」

 女は左手の一撃で安藤のスティックを飛ばした。

 スティックは先端から半分くらいの場所で消失する。

(破壊の力?)

 さらに右こぶしで、慌てた安藤の腹に破壊の魔力をたたきこもうとした女だが、精霊でその力は打ち消した。

(やらせないクマ!)

「ぐ、やべ!」

 思わず吹っ飛ぶ安藤だが、結果は、やや体力のある女に殴られただけだった。

「なに? 効かない!」

「がら空きだぜ、ねーちゃん」

 肩口に大沢のスティックがめり込む。電撃を流される女。

「はう! あがが!」

 殴りの痛みと電撃のショックで崩れ倒れる女。

「この女超能力者ですよ、兄貴。スタンバトン見てください!」

「ああ、不意打ちできてよかったぜ。でも男もそうなのか」

「うわ、こいつ顔面が」

 男は顔面がバリバリと割れ始める。

 人間の皮膚の下から、黒光りする外骨格が見えた。

「往生際が悪いぜ、死ね怪物!」

 大沢はスタンスティックを渾身の力で敵の顔面に突っ込んだ。

 バチバチという音ともに肉の焦げる臭い。

 昆虫人間はしばらく痙攣していたが、人間から半脱皮状態で動かなくなる。

「ち、スティックは壊れたな。安藤、子供を抱えてすぐに逃げろ、俺はこの女を縛って、隠しておく。運がよかったら捕虜にできるはずだ」

 女は脱皮しないので、昆虫人間ではないらしい。

「わかりました。ちびっこちゃんたちおじさんが助けるよ!」

 安藤は両手に子供を抱えて廃屋を出ようとする。

 しかし、反対側、表通りの出入り口や窓は木の板などで封印されているようだった。

「表側は塞いであります。取り除かないと……」

「ちょっと待てよ、今手伝う」

 大沢は放棄された家電のコードで女を縛り、ハンカチでさるぐつわする。

 安藤は木材が打ち付けられた窓を壊して、そこから出ようと作業していた。

(あ、大型車が止まった。近くだ。それに外の奴らも戻ってくる……)

「おじさんなめるなよ。解体のバイトで朝飯前だ」

 眠らされている子供たちに話しかけながら、窓を破った安藤。

 彼が一人で外に出ると。

「よし、子供を抱えてタクシーまで走れ」

 作業を終えた大沢が、子供を安藤に渡した。

「兄貴は?」

「治癒クマに連絡したらすぐに追う」


 翔一は帰ってきた見張たちを倒すために空き地に戻っていた。

 スマホが鳴ったので取る。

「治癒クマ、こちらはうまくいった。子供を確保したぞ、すぐに撤収だ」

「もう少し奴らを引き付けるクマ。おじさんたちは車で逃げてください」

「おい、お前ひとりおいていけないぜ」

「僕は隠密得意だから、一人で逃げられるクマです。隠れる場所はいっぱいあります」

「……そうか、お前もヒーロー。任せた。しかし、無理はするなよ」

「はい!」

 スマホを切る。

 目の前に迫る昆虫人間たち。

 すでに、顔面は割れて不気味な顔が露出していた。

 翔一は無言で『念焔剣』を構える。


「治癒クマーさんはいいんすか、兄貴」

「あいつは隠密が得意だ。隠れて逃げるってよ。俺たちは子供をタクシーに運ぶぞ」

「しかし」

「あいつもヒーロー。危険は承知の上だ」

 何度か振り返った安藤だが、両脇に子供を抱える身。子熊を助けに戻るとはいわなかった。

 人通りのほとんどない道を全力で駆ける。

「商店街の中は昆虫人間がいます。外を回りましょう」

「ち、抜け道とかないのか」

 この辺りは町並みが古く、家がひしめいている。

「ぎっちり建物が並んで、かなり遠回りしないと……」

 商店街から西に抜けた道だが、南にぐるっと迂回しないとタクシーまで行けない。

 全力で走る二人。

 汗まみれだが、顔を拭く余裕すらなかった。

 ボフ! 

 いきなり、割れたアスファルトの地面が爆発した。

「うわ!」

 安藤は驚きながらも、鋭い反射神経で回避する。

 大沢も安藤を守るように立つ。

「せっかく確保した子供たちを持って行かれては困りますね」

 大沢の前、高さ五メートルほどの場所に、白人の美少年が立っていた。

「てめえ。超能力者だな」

 大沢が電撃の切れたバトンを構える。

「フフ、あなたたちヒーローの仲間ですか? 初めて見ますけど、どのような能力があるんです」

 美少年は妖しい笑顔で男たちを見る。

 ふわっと降りて、地上に足をつかないすれすれの位置に浮く。

「てめえの知ったことかよ。安藤逃げろ!」

「しかし、兄貴!」

「こいつは俺が止める」

「無理ですよ、兄貴! こいつ見たことがあります、アシュレイ・バルフォアって有名な悪の超能力者ですぜ!」

 ヒーローは主だった悪党の特徴は覚えるように義務付けられている。

「いいから黙ってろ!」

 大沢は少年に殴りかかろうとしたが、動きがぴたりと止まる。

 同時に安藤は逃げ始めた。

「面倒な人たちだ」

 安藤は何らかの力につかまれ、足が止まる。

「う、わ、動けない!」

「あん、ど、う、何とか逃げろ」

 暴風にあった人間のような顔になりながら、大沢はかろうじて声を出した。

「うるさいですよ」

 ふわっと、飛ばされた大沢は電柱に激突する。

「ぐは」

 少年は大沢を振り向きもせず、安藤に迫った。

「相当、下位のヒーローですよね。何もできないみじめな人たち」

「うわ、く、くるな!」

「返してもらいますよ」

 しかし、子供たちに意識を振った少年にはかすかに隙があった。

 大沢が激痛を無視して突撃し、全力のこぶしを叩き込んだのだ。

「喰らえ!」

「まだ、動けるんですか!」

 少年はあきれたが、一瞬だけ遅かった。

 大沢のこぶしが少年の肩口を打つ。

「うわ!」

 少年の集中が切れる。

 呪縛が解けた。

 解放された安藤は人生で最も早く動いたというぐらいに、飛ぶように走り、街に消える。

「へへ、坊や、子供に逃げられちまったな」

「……」 

 異常な憎悪のこもった眼で大沢を見る少年。

 大沢は体が動かない。

「僕をコケにして、ただで済むと思わないですよね」

 ペっと、少年の顔に唾を吐きかける大沢。

 びちゃっと、唾が少年の頬にかかった。


 安藤は必死に走り、タクシーまでたどり着く。

「おっちゃん、南から怪物みたいなガキがくる。北回りで子供たちを! 警察に!」

「あなたも乗ってください、あとの二人は?」

「いいから、俺は兄貴を助けに行く」

「しかし」

「いいから行けって! 子供たちは頼んだぜ!」

 安藤の剣幕に押されて、運転手は北に向かう。

「兄貴を助けないと、本部に連絡も」

 走って戻りながら連絡を入れる。

「こちら本部。安藤さん、状況を!」

 女性オペレーターの声。

「子供たちはタクシーに任せた。俺は兄貴を助けに行く。兄貴は敵を一人で足止めしてるんだ!」

「無理はだめよ! 今援軍が向かっているわ」

「敵は超能力の少年だ! アシュレイ・バルフォアってやつだ!」

「そんな……無理よ! 援軍を待って!」

 しかし、安藤は通信を切ると現場に全力で戻った。

 

「白虎三段、雲耀剣!」

 オーラの炎を纏った剣で斬ると、昆虫人間たちはばたばた倒れた。

 人間よりは強い彼らだが、翔一の膂力と速度にかなうことはなく、毛筋ほどのけがを負わせることもできない。

「おじさんたち大丈夫かなぁ。もう、タクシーで逃げたと思うけど」

 大型車は商店街の北の方で動きが止まっている。

(無関係の車だったのかな? でもちょっと怪しいけど)

「やれやれ、今日はしっかり働いたぜ。おっさんどもはどうした」

 ダーク翔一が精霊界に戻ってくる。

「西側から子供を連れて逃げたクマ」

「大丈夫か、あいつらだけで」

「そうだね……念のためにおじさんたちをフォローするクマ」

 翔一は店舗に戻ると、破られた窓を乗り越え、大きな通りに出る。

 大沢の匂いを四足で走って追った。

「……え?!」

 二人の人影が遠くに見える。

 一人は少年、一人は大柄な男。

 少年はポケットに手を入れて宙に浮き、男は処刑を待つ罪人のように両手を広げて微動だにしない。

 男の周りには放射状に棒状の何かが浮かんでいた。

 全て先端が残酷に尖っている。

(精霊……も距離が!)

 一瞬の静止、そして、一斉に突き刺さった。

 ブシャ!

 男の体が血の煙に包まれる。

 ふらふらとしている男。

 男の体には何本もの鉄の手すりや、標識のパイプ、窓枠、そういった棒状のものが突き立っていた。

「う……ガは!」

 ドバっと吐血する男。

 ゆっくりとひざまずく。

(くそ! 遠すぎる!!!)

 翔一は全力で駆けた。

 しかし、間に合わない。


「子供たちはもらいます。逃げたみたいですけど。すぐに捕まえますよ」

 自分の作ったオブジェの様子に、ニンマリした美少年。

 ふわっと浮いた。

 しかし、

「え?」

 血まみれの手が、少年の足首をつかんでいた。

「に……」

 血まみれの男は何か伝えようとしていた。

「なんて根性だ。無能者だけどその気力だけは敬意を表しますね」

 少年がが棒をにらむと、ずぶずぶと男を貫通していく。

 血が噴き出し、先端が飛び出す。

 男の手は力を失う。

 足首を放す。


 笑顔で宙に浮く少年。




2021/10/31 微修正

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