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105 浸食された学園、聖なる魔女と悪魔教団 その2

 魔女二人と別れ、視聴覚室を出る。

 廊下の窓から見える校庭は夕焼けで赤い。

(?)

 見ていると、いきなり、少し暗さが増した。

(……なんだろう。嫌な予感がする)

 ふと、廊下の奥、暗い場所を見ると、とんがり帽子をかぶったローブの女性。白髪の老女が立っている。

「あ、あなたは」

 彼女は聖家で出会ったあの老婦人だった。

 翔一は思わず駆け寄る。

 よく見ると、廊下の端に姿見の大きな鏡があり、そこに映っているのだ。

 振り返っても彼女はいない。

 老女は笑顔で鏡の中にいた。

 手招きしている。

 勇気を出して歩いて行くと、鏡の世界に入ってしまった。

「あ、熊になったクマ」

 前と同じく子熊に戻されてしまった。

「勇者様、ごきげんよう」

「お婆さん。こんにちわ」

 手招きされて鏡の世界の教室に入る。そこは例の応接間だった。

「あれれ、ここは?」

「人と話すのに、あまりにそっけないですから。学校の部屋というのは」

 促され、椅子に座る。

 彼女は隣に座る。

「先日は申し訳ないことをしました。まさか、私の子孫があんなわからずやだったとは……」

 首を振る老女。

「……もう終わったことですから。気にしないで、お婆さん」

 彼らが悪いわけではないが、話し合いの余地もなかったのは事実だ。

「雄造には聖家の宿業の一つを熊様に解決してもらったとメッセージを送ったのですが。あの子は自分の家系への自負が強すぎて他者の助けが気に入らないのよ」

「……ヒーローを解任されただけですから。正義は偉い人に認めてもらわなくてもできる。今はそう思っています」

「すみません、勇者様」

「……」

 少し無言になる。

 あのメイドが二人やってきて、紅茶を置いた。

「自慢の紅茶。召し上がれ」

「ありがとうクマ」

 紅茶をすする。芳醇な香りが鼻腔に広がった。

「お詫びといっては何ですか、これをお持ちください」

 金属の物品をいくつか机の上に出す。

 直径四十センチほどの金属の円盤と小さな金のロザリオが十個ほど。

「魔力がありますクマ」

「これは鏡の小盾、ロザリオは大事な人を守るもので。神に祈念して祝福しました」

 霊視すると、どれも強力な物品だった。

 白きオーラを発している。

「ありがとう。でも、僕は神様の信者じゃないけど」

「お気になさらず。勇者様の目指す先と神の教えは同じ場所。神様は勇者様が好きなのかも、そう感じます」

 うなずいて翔一はそれらを受け取る。

 盾は腕に装着するもののようだ。手に持って使うこともできる。

「それは魔と呪詛を跳ね返します。勇者様には今更なものかもしれないですが」

「そんなことないクマです。ありがとう、お婆さん」

 クマっと頭を下げる。

 席を立つ老女。翔一も立つ。

「勇者様。今危機が迫っています。こんなことを頼める立場ではないのですが、聖の一族を助けてやってください。頑固な愚か者ばかりだけど、私にはかわいい子供たちなのです」

「ええ、目の前で困っている人を見捨てたりしませんクマ」

「ありがとう。勇者様。ありがとう」

 笑顔になる老女。

 はっと気が付くと、鏡の盾とロザリオの束を持って、学校の鏡の前に立っていた。

「なんだ、それ。熊の男が熊になってる」

 振り向くと湘南しょうなんキトラが笑顔でやってくる。


緋月ひづきさんはどうしましたクマ」

「妹は学校の様子がおかしいといってどこかに行った」

「何かあったクマ?」

「閉じ込められたらしい。学校が結界されている」

 なぜか笑顔で答える湘南キトラ。

「どういうことクマ」

「さあ」

 彼女はどこか他人事で、面白いものがないか、常にキョロキョロしている。

「僕も調べてみるよ。これあげるクマ」

 キトラにロザリオを一つ渡す。

「なんだこれ。でも貰う」

 ほとんど疑いもせずに首にかけるキトラ。

 そして、鼻歌を歌いながらキトラはどこかに向かって歩いて行く。

(ダナさんを三割増しぐらいで野生部分を増やしたような人だ。雰囲気は悪人ではない、オーラも歪んではいないね)

 キトラは綺麗な緑色のオーラを持つ。そして、魔術物品をいくつも身に着けているようだ。

 翔一は他の人が心配になって電話をかける。

 京市きょういちは出ない。

(仕方がないかな……そうだ、その姉ちゃん……っと、今日はモデル仕事で東京だ)

 源雪みなもと ゆきにかける。

「翔一君?」

 かわいい雪の声。

 後ろの物音からバス停にいるように思える。

「無事だったんだ。お家に帰る途中クマ?」

「ええそうよ。今、クマちゃんなのね。学校にいるの?」

「うん。ところで京市君は見た? 菜奈ななちゃんは?」

「京市君は見てないわ。菜奈は隣にいるわよ」

「わかった、探してみるよ」

「何かあったの」

「気にしないで、雪ちゃんお家に帰るクマー」

「……さっきから、変な音が。クマちゃんの後ろに誰かいるの? 何か聞こえるわ」

 翔一は雪の声と彼女がいる場所の音に気を取られていた。

 逆に雪は翔一の背後の音に耳を澄ましていたのだ。

 はっと振り向く。

 そこには、黒い大きな何かがいた。階段の陰に潜んでいたのだ。

 目が光る。

 翔一は思わず鏡の盾をかざした。

「クマァ!」

 何かの魔力が反射される。

 黒い怪物は脱兎のように階段を下りて消えた。

(鱗と棘?)

「クマちゃん! 大丈夫? 何かが逃げたような音が」

「大丈夫クマ。学校はちょっと危ないかも。僕が何とかするから今日はそのまま帰って」

「菜奈、一人で帰って。私、学校見てくるから。……クマちゃん。今から行くわ」

「ダメダメ。きてはダメクマーだよ」

 しかし、電話は切れてしまう。


「あ」

 そして、スマホ自体もその会話を待っていたかのように切れてしまった。 

 魔の力が満ちると、機械は力を失う。

 いつものことではあるが、つながりを失った不安はどこかにあった。

「ダーク君」

 呼んだがこない。

 壁の時計を見ると、

(ダーク君のお昼寝時間クマ。呼んでもすぐにはこないよね、これは)

 尚、時計は止まっている。スマホと同じ時に止まったのなら、ほぼ今の時間を示しているだろう。

 きょろきょろする、学校にはあまり物音がない。

(でも、まだ残っている生徒はいる時刻。それに、先生たちはかなりいるはず。チビクマたちを出して皆の居場所を……)

 しかし、チビクマは一体しかいなかった。

 いつもはダーク翔一から借りている。

「キューキュー」

「とりあえず、学校を探索するクマ。生徒や先生を見たらすぐに報告に戻ること。怪物とは戦わないで隠れるように、逃げてもいい」

「キューキュー」

「隠密精霊を纏わせて、ロザリオ持つクマ」

 紐を短くしてチビクマにかける。

「キューキュー」

「じゃあ、探すクマ」

 チビクマはどこかに飛んでいく。

「今、人がいそうなのは職員室と生徒会室。どちらに先に行くべきか……簡単占い」

 赤い珠と黒い珠だけ出して、鹿皮の上に転がす。

「生徒会室。意外クマ」

 翔一はクマクマいいながら生徒会室に向かった。


 生徒会室をそっと覗く子熊。

 ほとんど人はいなかったが、聖倫ひじり りんと先ほどの横柄な生徒会役員がいた。

 手に竹刀を持っている。

「倫様。ご心配には及びません。僕があなたを守ります」

「ありがとう小田原おだわら君」

 聖美沙ひじり みさとニルソン修一はいない。

 異変を感じたのだろう。

 調べに出たようだ。

(あ、何かきたクマ)

 生徒会室の奥は生徒会の資料室になっている。

 そこに入る扉には小さなすりガラスの窓がついているが、それが黒い影を映す。

 倫は気が付いて身構えるが、小田原は気が付かない。

「倫様。いえ、倫ちゃん。あなたは美しい」

「?」

「前から二人になりたかったんですよ」

 倫に身を寄せる小田原。

「お、小田原君。そんなこといってる場合じゃないわ、見て!」

 彼の背後を指す、

 ガチャ。

 黒い影が扉を開けて出てこようとする。

 鱗の皮膚、尖った爪。

 痩せてひょろっとした体。角と牙。

(廊下で見たやつよりはかなり小さいクマ。デーモンの仲間?)

 背中に羽は生えていない。

 シュウルルルウウ!

 不気味な声を出す。

 振り向いた小田原、怪物と目が合う。

(!)

「ギョヘ!」

 小田原は精神に衝撃を受けてクタッと座り込む。

「お、小田原君! きゃ! 嫌! こないで!」

 迫りくる怪物。

 長い爪の手を伸ばす。

 しかし、遮るように大型のチビクマが間に割り込んだ。

「クマクマ!」

 ボムっと、白い毛が爆発するように伸び、次の瞬間には百二十センチくらいの白っぽい子熊が立っていた。

(へぇ。あのチビクマすごい) 

 怪物が一歩引く前に、子熊は爪で一閃する。

 爪が怪物の胸を裂き、吹き飛ばす。

 壁に激突して、怪物は動かなくなった。

 怪物は倒されると、ブワっと存在が異世界にのまれて消えていく。

「なんなの、これ」

 恐怖に震えながら、倫はその存在が消えるのを見つめた。

 チビクマは小さくなって肩に止まる。

「う、うう。一体何があったんだ」

 小田原は首を振って、よろよろと立ち上がった。

「お、小田原君」

「あ、うわ!」

 見ると、資料室からさらに数匹の怪物が姿を見せていた。

 翔一はガラっと廊下側の扉を開ける。

「逃げるクマ! こっち!」

「く、熊?」

「いいから、早く!」

 慌てて生徒会室から飛び出す二人。

 扉を閉めて、油性マジックで呪文を描く。

 封印精霊を宿す。

 宿ったと同時に鈎爪でバンバン扉を叩く小デーモンたち。

「ふう。間に合ったクマ」

「あ、君は。怪物か!」 

 竹刀を構える小田原。

「元ヒーローの治癒クマーちゃんよ、ヒーロー通信見てないの?」

 倫に指摘され、渋々竹刀を収める。

「他に人は見てないクマ?」

「お姉ちゃんと修一さんは様子を見に行ったわ。他の人はもう学校から出たと思うけど」

「とにかく離れるクマ、どこか安全な場所に行こう」

「先生たちはどうしたんだろう」

 不安顔の小田原。

「職員室に行くクマ」

 三人で向かう。

 職員たちが怪物と戦えるとは思えないが、助けに向かう必要がある。

「ところで、どうして、元ヒーローが学校にいるんです」

「偶然通りすがりクマ」

「嘘でしょ、それ、絶対」

「ヒーローとはそういうものクマー」

 小田原の質問をはぐらかす翔一だった。


 翔一はこっそり二人に隠密精霊を憑依させた。

 倫は不思議そうな顔をしたが、小田原は全く気が付かない。

 途中、先ほどのを大型化させた怪物とすれ違ったが、教室などに入ってやり過ごす。

「見つからずに行くのは思ったより難しいクマだね。一階は怪物多いクマ」

 丸い耳をぴくぴくさせる。職員室は一階だ。

「何なんだあいつら」

 小田原の顔は恐怖のあまり蒼白だった。

 職員室に向かう通路には大型のデーモンが道をふさいで動かない。何かに興味を惹かれているのか。

「異界のデーモンクマだと思う」

「デーモン。そんなのがなんで学校に」

「誰かが呼んだクマ」

「クマちゃん、心当たりある?」

「ない、クマ。そうだ占ってみよう」

「のんびりやってる場合かよ!」

「小田原君、情報もなく動く方が危険よ」

 翔一はざらざらと占い袋の宝石を鹿皮に撒く。

「何かわかった?」

「僕たちが赤い石、魔物は黒。僕たちは魔物に急所抑えられているクマ。魔物は天空にいて地にいる僕たちはかなり不利だ。骨や小石が魔物側にいる。これは囚われている状態を示す」

「……」

「状況から考えて、職員室にいる先生たちは魔物につかまったクマかも」

「閉じ込められているとか」

「もしそうなら、僕たちだけではどうしようもない。逃げ道を探そう」

 小田原の提案。

「逃げるにはどうしたらいいか……クマっと」

 ざらざらとさらにもう一度ぶちまける。

「ど、どうしたらいいんだクマ君」

「外から援軍くるクマ。やはり、魔は天空にいるから逆にこっそり逃げれば何とかなるクマ。方角的には校庭の方、裏門だと思うよ」

 裏門はデーモンが塞いでいる廊下とは別の方向。

 校舎中央付近の階段から中庭に出れば比較的安全に移動できるだろう。

「でも、それじゃあ、お姉ちゃんはどうなるの」

「倫さん、僕たちだけで逃げましょう」

「……」

「生徒会長さんの運命……出ました。あまりよくないクマ」

「小田原君は一人で逃げて。私、お姉ちゃん助ける」

「生徒会長の方角……南。物音が微かにする、三階クマ」

「私が行くわ」

「僕が行くよ。倫ちゃんは逃げるクマ」

「ボ、僕は三階に行くなんてまっぴらだ」

 怯えた小田原。

 翔一は彼を責めることはできないと思う。彼は背伸びしているが、普通の人なのだ。

「お二人には隠密精霊が憑依している。騒がなければ見つからないと思うクマ。そして、小田原さん。もし、途中で逃げ遅れている人を見たら一緒に連れて帰ってほしい。これあげるクマ」

 翔一はロザリオと木刀を渡した。

「……これは?」

「魔除けのロザリオと、聖性受祚した木刀クマ。効果はあるけど無理はダメだよ。相手は危険クマ」

 うなずいて木刀を受け取る小田原。ロザリオは二人に渡す。

「クマちゃん」

「僕は誰にも見つからない自信ある。倫さんは小田原君と行くんだ。お姉ちゃんのことは心配しないで」

「ありがとう、でも……」

「大丈夫、お姉ちゃんは二級上位ヒーロークマ。僕より強いんだよ。当然、君よりも。倫ちゃんが無理に校舎をうろうろして危険な目に合うより、お姉ちゃんを信じて待つ方が賢明クマ」

「う、うん」

 二人はうなずくと静かに去る。

 翔一は二人をじっと見送った。




2021/9/19 11/06 微修正

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