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104 浸食された学園、聖なる魔女と悪魔教団 その1

 昼休み。

御剣山みつるぎやま、生徒会長がお呼びだ」

 非常に横柄そうな生徒会役員の少年に声をかけられる。

 背が高く、整った顔立ち。成績もよく、当然家柄もいい。

 生徒会に参加するには暗黙のルールがあるのだ。

「はい」

 今、ちょうど食事を終えたところだ。

 弁当をしまう。

「美沙様に会う前に口を漱ぎ、身だしなみを整えろ」

「ええ、少し待ってください」

「五分以内に生徒会室にくるのだ」

 トイレの洗面所に行く。

 不良生徒もいるが、翔一の顔を見ると、ぎょっとして洗面所を開けてくれた。

 鏡に映る顔には恐ろしい傷が刻まれている。

 不良にすらからまれなくなった。

 親友の京市きょういちも顔が怖いらしくよってこない。

「あいつには関わるなよ」「ああ」

 不良たちの小声。

 彼を恐れず話しかけるのは、源雪みなもと ゆきだけだ。

 しかし、彼女もクラスが違う。毎日彼のもとにくるわけでもない。

 ため息をついて、用事を済ますと、生徒会室に向かう。

 その部屋は三階にあり、一般生徒があまりこない場所である。

 部屋に入るには少し勇気が要った。

 扉の前で立ち止まる。

「ん?」

 奇麗な床に気持ち悪い虫のようなものがいた。

 ぴくぴくと蠢く赤い蛆虫。

 何となく摘み上げる。

(これは……)

「クマクマ!」

 チビクマが一匹、精霊界から出てくる。そして、その蛆をパクっと食べてしまった。

「そんなの食べられるの?」

「キューキュー」

 満足そうなチビクマ。

「……大丈夫みたいだけど、この蛆は普通の生き物じゃないのかな。……チビ君は精霊界に戻って」

 疑問に思いつつも、一旦そのことは忘れる。

 扉をノックした。


 この学校の生徒会室はホテルの一室のように豪華な調度の部屋だった。

 大金持ちのOBが寄付したのだろう。

 やわらかいカーペットを踏みしめて、待っていた人々と顔を合わせる。

 中央に座るのは聖美沙ひじり みさ。足を組んで資料を見ている。

 その両側に、左から、数人の役員。妹の聖倫ひじり りん。副会長、沙良恵愛さら めい。聖美沙の後ろには背の高い少年。

(こいつ!)

 ひじり家で攻撃してきた人物だった。彼の剣をへし折る結果になったが、間違いなく、お互い腹を立てているのだ。

 思わず、彼と目を合わせる。

 少年はかなり厳しい視線を翔一と絡ませた。

(……この学校の生徒だったんだ。ここで高身長イケメンなんて珍しくないから気が付かなかった)

 容貌から白人とのハーフであると推測される。

「御剣山翔一君。御足労感謝します」

 聖美沙の全く感謝を感じさせない声。

「……」

 彼に切られた体を、少しさする。やはり、心に怒りが少し残っていた。

「生徒会の皆のことは知ってるわよね」

「はい」

「しかし、こちらは紹介するわ。ニルソン修一しゅういち。私の親戚。私の家で一度会ったことがあるわよね」

「……」

 お互い、隙を何となく探っている。

「間違いない。彼が聖家で暴れた少年だよ」

 ニルソン修一が美沙に告げる。

「暴れていません」

「修一様に口答えするな、御剣山!」

 先ほどの横柄な少年に注意されるが、無視する。

「質問にも答えず、逃げ回った」

「ほとんど問答無用で斬りかかってきたと思いますが」

「僕は侵入者に対処しただけだ」

「聖さんの家に勝手に入ったことは謝罪しますが、故意ではありません」

「やめて。彼を断罪するために呼んだのではないの。もう、彼は罰を受けています」

「罰って、何なの」

 倫が心配そうに聞く。

「これに関しては詮索しないで」

「治癒クマーちゃんよね。たぶん」

 倫が微かにつぶやく。

 小声過ぎて、翔一以外には聞こえなかっただろう。

 ヒーローの正体を探る行為は違法である。引退してもそれは同じだった。一度公認ヒーローになって活動を行えば、悪党から恨まれる。政府もそれは危惧しているのだ。

「今日はどのような御用件なのです? 僕を晒しものにするのが目的ではないですよね」

「あなたに聞きたいことが多いからきてもらったの。あなたは不穏すぎる存在。生徒会としても看過できないわ」

「……」

「美沙様の質問に答えろ、御剣山」

 横柄な少年が告げる。


「まず、あなたは一年間失踪していたわ。どこにいたの」

 美沙に問われる。このような場所で正面から聞かれたことは初めてだった。

「記憶にないので、わかりません」

「なぜ、全身傷だらけだったの」

「わかりません」

「……あなた、大和田のことは覚えている?」

「……」

「最後の目撃証言では、あなたの家に大和田が入ったそうよ。そして、そのまま行方不明。彼はどこに行ったの」

「わかりません」

「大和田?」「?」

 大和田のことを覚えているのは聖美沙だけだったようだ。彼女の問いの意味を周りは誰もわからない。直接攻撃を受けた沙良ですら覚えていないようだ。

「彼のことは公式の書類からも消えているわ。一体何をしたの。まるで最初からそのような人間はいなかったように……直後に証言した人の記憶からも、今は消えているのよ」

 美沙の質問に当惑して無言になる人々。

「僕は何もしていません」

「じゃあ、私の家にきたことを聞くわ。なぜ家に入ったの」

「お父さんにもお答えしましたが、落とし物を届けようとしただけです」

「ええ、聞いているわ。外国人の女性に引き入れられたと。開かずの応接間に入ったこと。そして、一時間後にあなたは血まみれでホールに現れた」

「……」

「何かと戦った。我が家に潜む何らかと」

「……」

「なぜ、何も答えない!」

 ニルソンがイライラして大声を上げる。

「じゃあ、我が家から何を持って行ったの」

「聖さんのお家からは何も持って行っていません」

「父の話では何かを持っていたわ」

「僕も見た。壺のようなものだ」

「……」

 無言の翔一。気まずい空気が流れる。

「僕も聞こう。君の剣術は何という。あのかまえは。そして、あの武器は? 燃える剣だ」

「……」

「それにも答えないつもりか!」

 激昂する青年。

 胸倉を掴まれる。

 剣の名手らしく、非常な膂力だった。

 バリっとシャツが破れる。

 胸に走る無数の傷跡が見えた。

「ひ!」

 あまりにひどい傷に、怯える生徒会の生徒たち。

「僕を殴って気が済むなら、やってください」

 翔一は一切顔色を変えず、ニルソンに告げる。

 しばらくにらみ合っていたが、

「やめて、修一さん」

「くそ」

 聖美沙に止められるニルソン。美沙の声には彼への親密さがあった。

「……」

「最後に。倫が元気になったのはあなたのおかげなの? そして、あの小さな子熊は何?」

 聖美沙の質問に驚く人々。

 倫も驚いていた。

「あ、あの、翔一君。そうなの? それに、モフちゃんのこと。お姉ちゃん知ってたのね」 

「倫様がお元気になられたのは……まさか」

 人々の注目が翔一にむけられる。しかし、

「お答えできません」

 翔一の回答に人々はため息をつく。

「……」

「もういいわ。ありがとう。御剣山君」

 翔一は頭を下げて、生徒会室を出た。


 扉を閉めた後、いくつかの声が聞こえる。

「何なんだ、あいつは! 生徒会の権威を舐めている」「とんでもなく胡散臭い奴だ」「不法侵入は事実。学校から追放しましょう」

 複数の声。

「ダメよそんなの!」

 倫が大声を出す。

「私が彼を監視するわ。皆は心配しないで」

「美沙、あいつには気をつけろ」

 聖美沙とニルソン修一の声。

(秘密ばかりじゃ、信頼されないよね。わかってはいるけど……)

 ふうっと、ため息をつき、生徒会室を後にする。

 


 

 午後の授業が一限おわり、休憩時間になる。

「あなた、生徒会に絞られたんでしょ。何をいわれたの?」 

 にやにやして細身長身の美少女、緋月零ひづき れいがやってくる。

(僕に、普通に接してくれる人はもう一人いた)

「大したことじゃない」

「秘密主義は嫌われるわよ」

「気軽にいえないことが多すぎる」

「私にならいってもいいわよ。聞いてあげる。口も堅いわ」

「魔女団だったよね。組織の人には組織の都合があるから。緋月さんは嫌いじゃないけど、その組織はよくわからないから信用できないよ」

「よくわからない存在はあなたの方じゃない。でも、いいわ、魔女団のこと教えてあげる」

「無理にいわなくても」

「いいから聞いて」

「じゃあ、魔女団の発祥は?」

「発祥は東欧某国の田舎ね。百年前ほどにあった寒村でもう地図にも載っていない。現代では廃墟になったらしいわ」

「じゃあ、歴史と魔女団の目的」

「大女祭様の教えに従って、魔女の才能のある少女が教団を結成した。それが始まりよ。悲惨な戦争がいくつも起きて、そのたびに、死が蔓延したの。そして、怪物魔物も……」

「もしかして、その、大女祭ってガ……」

 翔一は心当たりがあったが、途中でやめてしまう。

「魔女たちは団結して地域を聖なる力で満たして守ったわ。でも、新しい政府はそういうのが嫌いだったの。私たちの始祖はそこを去って、アメリカに移住。聖魔女としてアメリカを中心にヨーロッパに広まったわ。一部は日本にもきた」

「それが君たちなんだね」

「ええ。普段は他のドルイド系の魔女あたりと混ざって正体を隠しているわ。もちろん、悪魔崇拝とか洗脳カルトとは距離をおいている。というか、そういう連中は敵よ」

「うん、それはいいことだよ。じゃあ、現在最も敵対してる組織は具体的に何?」

「悪魔の信者が敵ね。サタン、ルシファー、ベルゼブブ、日本だと『血膿の神』かしら。こういったものを信仰する連中、悪魔教団というわ。日本にも大勢いる」

「『血膿の神』……」

「聞いたことあるの?」

「……いいや、何も知らないよ。魔女団の人はどういった力が得意なの」

「魔術書の解析ね。そこから術を抽出して各々が得意技を持つ。だから、魔女たちはみんな違う術を覚えているわ。共通しているのは解析力だけよ」

「そうなんだ。でも、それじゃ、変な術とか悪い術を覚える人もいるんじゃないの」

「ご心配なく。仲間が術を悪事に使いだしたら大女祭様の天罰が下るのよ。後、小技に類するのは全員で教え合っているわ」

「へぇ、すごい」

「例えばこれよ」

 ポンっと、棘の精霊を出す。

「うわ、それテレビのスタジオで見たよ。ひっこめてくれないか」

「触って見なさいよ」

「遠慮します」

 翔一に触らせようとするが、完全に断られてがっかりする緋月。

「何よ、意気地なし」

「君、ちょっとサディスティックだろ」

「こんなに教えたんだから、あなたも何か教えなさいよ」

 棘の精霊を消しながら緋月は促す。

「そういわれても、それ、押し売りに近いだろ」

「なんでもいいから」

「じゃあ、僕は精霊術が使えて、ヒーローの『祈祷師ゼロ』は僕の師匠なんだ」

「ああ、あのぬいぐるみね。学校で目撃を聞いたわ。あなたが喋っていたって。で、それ以外は? 何か教えてくれないの?」

「大クマーは僕の兄という設定」

「設定って、何よ。兄じゃないの?」

「うーん、細かいことはいえない」

「じゃあ、他には」

 何か教えられないか考えるが、思いつかない。

 ふと精霊界を見るとポケットにがらくたが山積みだった。

「そうだ、代わりに君にいらないマジックアイテムあげるよ」

「なによ、それ。いらないものなの? 有用なものなら貰ってあげてもいいわ」

「放課後までにいくつか用意しておくから。授業ももうじき始まるだろ」

「ええ、待ってる」

 授業開始のチャイムが鳴った。


 放課後。

 待ち合わせの場所に向かう。

 人気のない視聴覚室に行くと二人の人物が待っていた。

 一人は緋月。もう一人は上級生の女。

 ヒョロっと背が高く色黒天然パーマ。顔立ちはそれなりに整っている。背の高い緋月より頭一つ高い。当然、翔一よりも大きい。

湘南しょうなんキトラよ。熊の男」

「御剣山です。学校でその呼び方はやめてほしい」

「姉様」

「ああ、そうしよう」

 緋月に促されるとうなずくキトラ。

「キトラ姉様は私の姉弟子なの。鑑定の専門家だからきてもらったのよ」

「約束だから、いくつか用意しました。欲しかったら全部持って行って」

 机に幾つか並べる。

 異世界の悪魔が持っていた炎の剣、出来の悪い護符、ダーク翔一が拾って、結局、触りもしない物品の数々。

「なんだ、これは」

 キトラが外骨格の不気味な銃を手に取る。

「それは昆虫人間の棘銃です。使えるかどうかわかりません」

 キトラは銃を構えると、いきなり壁に棘を発射する。

「うわ! 撃てるんですか!」

「精神同調すれば簡単だ」

「それって、昆虫人間と精神同調したってことですよね……」

 何となく、非人間的なキトラに一歩引く翔一。

「何これ?」

 紙の符を指さす緋月。難解な漢字の書かれた、瘴気の符。

「うわ、それはダメです! ……榊原の物まだあったんだ」

 思わず、指でつまんで回収する。

「かなり強力な魔力だったわ」

「面白そうだ、熊。それをくれ」

 魔女二人にいわれるが、首を振る。

「ダメダメ。今のは間違って出ただけです」

「ケチ熊」

 長い腕を組むキトラ。

「どういわれても、ダメ」

「まあいいわ。ただでくれるんだから」

「あるものは全部貰う」

 キトラが宣う。

 翔一は念のため霊視した。

(他に大したものはないか。魔力のこもった武器とか幸運の護符とかそんなのばかりだよね)

 キトラは物品を大きな風呂敷に包む。

 いくつか宝石や金貨が残っているが、魔力のない物品には興味がないのか目もくれない。

(強欲なのか無欲なのか)

 苦笑しながら普通の宝をしまう。

「私はこれでいいわ。これ、気に入った」

 武骨な炎の剣を片手で持つ緋月。異世界の怪物が使っていたもので、サイズも重さも標準的ブロードソード。軽いということは全くない。

「そんな重い物がいいのですか」

「魔女術の『怪力』か『悪魔憑依』を使えば全く問題ないわ」

 軽々と片手で振り回す少女。

(なかなかの腕前だね)

 二人は手に入れたものを熱心に調べ始めたので、翔一は部屋を後にする。




2021/9/18 微修正

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