Wandering Dream Chaser
東京湾上空。
初夏の陽気に包まれたそこは、その穏やかな気候とは裏腹に激しい戦闘が繰り広げられていた。
「これで……12体ッ!」
「しっかり数えてんじゃん?」
「性分よ!」
撃ち抜かれたトルーパーが僅かな爆風と共に四散していくのを捉え、カウントする。
戦闘中故に言い争いにも見える語気で、しかし内容は単にじゃれているようなもの。
こう言っている間にも恵が駆る騎士風のドレス「シルバーブレイズ」の肩、張り出た形となる大型のシールド発生装置はウォーロックの射撃を容易く弾く。
それにカウンターを見舞うよう、振り向きざまにトリガーを引けば小型の弩砲にも見えるそれは三叉の光条を放つ。
一本ならば回避も出来ただろうか、左右の逃げ道を塞がれたウォーロックは着弾によって砲口を爆発させ、そのまま崩れ落ちて行く。
「ヒュウ、ナイス撃墜!」
「この程度、まだまだよ」
「ま、なにせ数めっちゃ多いからな……」
少し遠くを見れば、そこには黒い暗雲のように敵が群がっているのがわかる。
コンジュラーによって生み出された小型・中型バリアントの群れだ。
その中からウォリアーが突出してくる、硬い装甲が厄介な敵ではあるものの、対処法はいくらでもあった。
「灯里、千聖! 敵中型にパターンAで行くよ!」
「オッケー!」
「任せな……!」
気合十分の号令にそれぞれが目の色を切り替えれば、3人とも加速をかけウォリアーとの距離を詰めていく。
「先ず、動きを止める……!」
一番手はアタシ、速度と機動性重視な軽装ドレス「サイレントストーム」の上から纏った青い電磁迷彩コートを風になびかせながら、専用にカスタムされたスナイパーライフルを構える。
一般的なモデルに比べ射程を犠牲にしつつも、威力とリロードを強化したそれは、しかし他の火器からすれば射程外となる距離からでもウォリアーの装甲を穿つ。
流石は近接戦闘に長けたバリアント、傷を負った事や衝撃によって怯むのは一瞬だ。
「お次に火力で釘付けェーっ!」
だが、そんな一瞬が歴戦のメイデン相手では致命的となる。
灯里が纏う流線型ながら大型で重厚さを感じさせるドレス「メガリスドラゴン」がその身に纏った火器を構えれば、
敵とすれ違いそのまま円の動きで周回するような軌道から、次々に射撃が放たれていく。
硝煙や噴射煙を空に残しながら飛来していくそれは、弾速の違いもあり順に着弾していく。
同種モデルに対し取り回しは悪いが衝撃力の高いリボルバーの弾丸、標準的なバズーカによる爆風、そしてミサイルによる爆風も重なり大きなダメージを負った上に完全に視界まで塞がれている。
ウォリアーはその状態でも闇雲に触腕を振るっているようだが、もう遅い。
「最後は一点突破で決める──ッ!」
触腕による最後の抵抗を易々とすり抜け、恵が騎士剣めいた高出力ブレードを振るえば、ウォリアーをそれまでの攻撃に晒されていた装甲ごと容易に両断する。
大型バリアントすら屠ってきた、この3人がチームを組んでからのお決まりのコンビネーションが完璧に決まったのだ。
「良い調子! それでも、まだ敵は多いわ!」
だが、ハイタッチにはまだ早い。
爆煙が晴れる頃には既に敵が射程内に迫っている。
各々が得物を構え、次の群れに対応していくのだった。
●
「流石、手早いというかサクサクズバーッて感じの連携……」
「エトワールではまずアレが出来るように叩き込まれるんだよね……懐かしいなぁ」
そうやって目線はエトワールの三人娘に向けながらも、FCSの力を借りたライフル射撃が正確にウォーロックを墜としていく。
厳密には多少の正確さを犠牲にとにかく反応速度を上げるチューンを行なっているが、感覚で補正出来る範囲だ。
「……ところで八子さん、何か勝つ算段とかあるんですか?」
「んー? コンジュラーなら6人で火力ぶつければなんとかなるんじゃないかな?」
「じゃなくて、エトワールとの勝負ですよ!」
そう言われても特にプランなど無い。
どの任務においても全力で任務にあたり、そして安全に帰ってくる事が全てだ。
それを言葉にするならば──
「……頑張ろう!」
「うあぁー! マジめにノープランですか!」
「まぁ、別に負けても減るものはないしね。 むしろ装備の充実した向こうがやる気出してくれるなら、こっちの負担も減って嬉しいかな」
なんて言っていると、通信回線に割り込みが入る。
『こちらエトワール、今の全部聞こえてるのよ!』
「ひぃぃ、ごめんなさいごめんなさい!」
そんな事を言われたって玲花も気にしなければいいのに、と言われてもおそらく臆病なのは生来のものだろう。
などと考えながらも、突進してきたトルーパーを紙一重の距離で避ければ、ライフルを腰に提げる流れで下ろした腕を振り上げつつブレード展開。
一刀両断にすると共にもう一匹の突進も小さな円を書くように回避し、振り下ろす。
「ホントに気にせず戦ってらぁ……やっちゃんのこの妙な所図太いのはなんなの……?」
『余裕なのか何も考えてないのか、わからないのが怖いのよね……』
「あ、恵さん達もそう思ってるんですね……」
酷い言い草である。
──敵の一団に急加速から飛び込む。
これでも色々と気にしているのだ。
──バリアント同士で撃ち合うのを避けたがる性質を利用し、こちらを狙うまでに空いた一瞬の間にブレードを構える。
なにせ一年前は敵の機先を制するように動いていれば匣が殲滅してくれていて、それを守る事に集中すれば良かった。
──強くバーニアを噴かせ、回転しながら何体も巻き込むように切り裂く。
今はそうはいかない、美樹が纏うレオは火力高めのセッティングで、匣のクロヒメと方向性こそ似通っているものの火力も技量も段違い。
──まだ生きている個体の砲撃を、身体を右に捻って回避しながら砲口にライフルのエネルギー弾をねじ込む。
同じように頼るわけにはいかないとなると、自分が倒していったほうが早い……のだが。
──小隊単位の敵を殲滅したのを確認、離脱する。
「そうすると間違いなくエネルギー無くなってダウンするんだよなぁ……」
なまじ敵が小型や中型で、サクサクと動けてしまう分エネルギー残量には気を使っているのだ。
今だってピーピー言い出したので、まだこちらのほうで撃墜を狙える個体がいるというのに後続の美樹と玲花にパスする。
勝負の事は申し訳ないが二の次、まず全員で生きて無事に、あとなるべく楽に帰ってくる事が最優先である。
「なのに、みんなヒドい事言うよねぇ」
「やっちゃん、すげェーけど程々にね……?」
「はーい、玲花あたりが空中補給とか出来たらもっと楽なんだけどなぁ」
「なんですかその戦闘力低めなユニットには雑に補給装置持たせておけ的なノリ!?」
「やっちゃんそこまで言ってないと思うよ?」
軽口を叩きながらも戦闘自体は本気だ。
基本的にボクは単独で働いたほうが動きやすいとして、その食い漏らしを玲花がトリスメギストスの電撃で止め、美樹が砲火を浴びせて堕とすという流れが板に付いている。
牽制を無駄弾と言うのは戦術的に避けたいが、非命中弾を垂れ流す事が無ければ、それだけ継戦能力が上がるという事は紛れも無い事実だ。
「美樹も玲花もいい感じ、特に美樹と灯里さんの火力がコンジュラーには必要だろうからなるべく節約で行こうね!」
『マジ? ごめん私初耳なんだけど』
『灯里は後でお説教!』
言っている間にメイガスを含む群れとぶち当たる。
蛸足めいた砲腕は先行していたこちらを捉えている……が、そんなものに落とされるようなボクではない。
「玲花、美樹! メイガスは頼むね!」
メイガスは砲撃型の中では大火力というより狙撃に秀でた個体だ。
だがこちらのエネルギーは多少余裕が出来てきた、故に空を一度、二度、三度四度と蹴りながら加速し稲妻めいた軌道で高速弾を避けつつ肉薄、そのまま先ほどと同じように群れの中へと飛び込んだ。
「上側からトリスメギストス行きます!」
「ん、見えてる! そのままお願い!」
玲花が飛ばしたトリスメギストス・ユニットがパラボラアンテナの形状を取ると、メイガスを囲っていたバリアント達のうち上部にいる個体目掛け電撃が浴びせかける。
それらに散らされたせいか、メイガスには影響しなかったものの楽をするには十分すぎる数が感電し動きを止められている。
「そういやこれ、実体ブレードで斬ったらボクも感電するのかな……」
「あ、それアタシも気になってた」
そんなやりとりをしながらも、まずは電撃の影響を受けていない、動ける個体から斬り裂いていく。
普段は省燃費モードだがモノに接触する瞬間に出力を増すように調整したブレードは、刃渡りなどの目測を誤る危険性こそあるが燃費の改善に成功。
結果として8体もの小型バリアントを4次元軌道を駆使し致命に至らしめてなお、エネルギー残量はリミットからまだ遠くを示していた。
「仕掛けます!」
「任せた!」
こちらを狙い砲腕をうねらせながら高速弾による攻撃を繰り返すメイガス。
無駄である。
常に動き続けて、一定の軌道を取らないのはメイデンの常識だ。
そもそも近距離においてメイガスの反応が間に合っているかもわからない。
「必殺、思考盗聴弾!」
「れいれいはそれでいいわけ?」
そうしてじゃれている間にトリスメギストスから弾頭が放たれる。
情報を奪取するユニットだ。
確かに電波を介するためアルミホイルに弱いのは玲花の言った元ネタ通りだろうか。
それを打ち込まれたメイガスの思考データが玲花のドレス・ヘルメスによって解析され通信を介して共有される。
「動きがわかればこっちのもの!」
こちらとしては「やっぱり反応追いついてないんだ、ププッ」くらいの認識でしかないが、美樹にとってはあるとないとではかなり違うらしい。
その情報を元に位置を先読みし射角を調整。
1発目から確実に当たるように弾丸の雨を浴びせかけていけば、十数秒間で送られてくる思考データがノイズに変わる。
思考を維持できなくなる……死んだのだ。
「よーし、やるじゃんアタシ達!」
「これならエトワールさんにも負けてないかもですよ!」
そう言われて、気になったので片手でライフルを連射して群れの残党を片付けながら、頭部ユニットを操作しデータへアクセスする。
「んー……エトワールのほうが撃墜カウント、1.5倍くらいあるって」
「え、マジ? もう八丈島着くけど!?」
「こ、コンジュラー落としたら100万ポイントとかになりません?」
『旧時代のクイズ番組か!』
気の抜けた言葉の応酬とは裏腹に、敵の群れは固まり八丈島の上空に集まりつつある。
その只中、中心部に座す工場型バリアント・コンジュラーを破壊するために乗り込んでいくのだった。
光射す世界に棲まう場所無く、渇かず飢えず無に還ったので初投稿です




