吟遊詩人(ミンストレル)
徐々に章の終わりに近づきます。
ペトルは淡々と話を進めてくれた。
他貴族は下を向き俯いたり、苦虫を噛みついた表情をしていた。
五ノ月の半ば頃。昨年秋より東部地域で流行っている謎の伝染病が、春、東街オストラバで大感染していると報告があった。
詳細はわからない。が多くの人が亡くなったと。
原因も分からず、街としては東門を閉ざし、また旧スロバキア領よりの旅人を禁止した。旧ポーランドも同様だが、訪れる人は少なく街自体には混乱はない。
旧ポーランドは山に分け隔てられているし、壊滅都市エルグランドはポーランド領にある。時期は雨季に入ってから変化があった。
六月初旬。急に高熱を出す人が増え、ネズミなど小動物が増えて来た。
「?おかしいな。川ネズミでなくドブネズミが」
「どこかより迷い混んだんだろ」
数人奇妙な水疱や痒みを訴えるが、銀山でも昔から似たような症状があった。その経験もありプラハの白魔術協会は優秀であり、即座に対応を行う。
すぐに黒死病と判断し、隔離行う。
原因は大量発生したドブネズミだと。
六月中 緊急議会が開かれる。
重症者は2000を超え、1500人が亡くなった。
ネズミは増えて、被害は北区より東、南区と広がりを見せる。
何より一番頭を悩ますのは感染から死に至るまでの速さ。議会は大きな対応が打てず、時間だけが過ぎていた。
「もし♪宜しけば私がドブネズミを退治しましょうか」
「誰じゃお主は?」
議会の入口にまだら模様の貴服を来た青年が立っていた。
「私はフォグランプ。しがない吟遊詩人です。とある主人の命で来ました」
「其方。。ネズミを討伐できると?」
「勿論。見返りに十字軍と戦っていただけますか?主人は教皇が嫌いでして近づくのを嫌がっております」
「教皇に歯向かう事はできぬ。知っておろう。この街プラハは神に認められた街と」
「まぁそう言うと思いました。ネズミ退治はまぁしますか。その間よく考えておくように。私の神もまた慈悲深いですよ?」
――そう言って吟遊詩人は出ていった。ケルトの笛とリュートを背に担ぎ。
フォグランプの行った行為は街中を笛を吹き周るだけであった。が、音に吊られ、、ドブネズミはついて行く。そのままヴルタヴァ川に沈んでいく。。それは何万のネズミが一斉に死んだ。
数日後。隔離政策が報われ黒死病は沈静化され、街中にドブネズミの姿は見えなくなる。川の死骸も大雨と共にネズミは流され、住民の生活は戻って行く。
6月26日朝。
再びフォグランプは議会を訪れる。
門兵は伝えられた通り。通す事を拒みフォグランプは捨て台詞を吐きプラハの街から姿を消した。
その昼。フォグランプは学院に姿を現す。
同様にケルトの笛を吹きふらふらと街を歩く。
曲は不思議と耳に残り。良い音楽だと皆が聞き入る。
子供達は面白そうだとついて行った。
――気がつけば大行列になって。
しかし、その異様な風景を誰も咎める事はなく。
北門より去って行く。門兵も見守る様に送っていた。
4000人を越す子供達と共に・・
夕方になり何が起きたか皆気づき出した。
プラハの街は大混乱となり。
街から6ー15歳の子供達の姿が忽然と消えたのである。
◇◇◇
なるほど。昔イレーネに聞いた事がある。
人魚の魔法を聞いた時、歌声と。
確かにこの世界では魔力を帯びた力は様々に変化をさせる。カネラの歌声でさえも、アテネの様に惹きつける魔法とも言えるだろう。
ただ、子供を連れて行く魔法はあれど、街一つの子供を連れ出すのはどれだけ凄い魔法使いなのだ。
他の問題は子供の誘拐は目的でもない。
必要ならば初めより要求するはずだ。
北。。プラハは既にバイエルン帝国に最も近い場所だ。そのまま川を上がれば。。ドレステンにつく。しかし国境は帝国軍が死守しているはず。帝国関係者であれば違えど。。可能性は低い。
帝国なら軍で来て支配する。
こんなまどろっこしい事はしないはずだ。
もしくは北のスニエシュカ山を超え旧ポーランド関係者とすると。。
「誰か、スニエシュカ山を超え、またその周辺に何かあるか知らないかな?」
「旧ポーランド領に入るまでは特に。。あぁ手前にリベレツ小都市がありますね」
「リベレツには有力貴族か、施設などありますか?」
「織物工場はありますが。有名貴族と言えば。。プシェミスル分家の跡継ぎがいると聞きますが」
プシェミスル家と言えばこの教会を建てた人物の家系である。
また、裏でバイエルン帝国とのやり取りも無きにしろ分からず。既に300年前より歴史ある街ではある。
だがまだ足りない。何か。何かあるはずだ。。
「リベレツの事でしょうか?有名と言えば。。灰色の片腕ライトの出世地と聞きます。魔法を使う私達はそれで聞き覚えが」
「!!エーリス!それ本当か?」
「おお。そうであったな。すまん昔の事じゃて」
という事は。。
「壊滅都市エルグランドの場所を地図で詳しくお聞きして良いですか?」
指された場所はレグニツァを含めたポーランドのほぼ八割。隕石が落ちた様にクレーターが残るだけで今は草木も生えると説明を受ける。
「灰色のライトがエルグランドを壊した言葉を覚えている?」
「もちろん。『神の裁きを受けよ』と。すると天より星が落ちて来ました。ですか」
フォグランプ。。ライト。。吟遊詩人。。子供達。。そして神の裁き。か。
ぐるぐると頭が周り繋がって来る。
この世界にはきちんと法則がある。
バランスを取るように。また歴史に沿うように。
転生したのは僕だけ、世界を救うのは僕なんだなんて自惚れはない。聖女カネラは同じく転生者と確信している。
そしてこの世界には少なくとも転生者がまだいるはずだ。
灰色のライト。間違えなく彼は転生者だ。
”ハーメルンの笛吹き男”はこの世界にはまだ登場していない。
自演するほど歴史に詳しく。
細かな点はともかく忠実に実行している。
・・しかし。何故?黒死病から救ったのは事実だ。
敵なのか、味方なのか?
シューリヘトは遠くエルベ川の上流を見つめる。
子供達が連れ去られて五日。
季節は七ノ月に入って雨季も終わり初夏になっていた。
□□□
そのあと、大聖堂より宿泊場所を準備されたが、僕らは旅宿に泊まる事にした。気分の切り替えとカネラ率いる女性陣が風呂に入るといい聞かなかったからだ。
その夜カロミラより鳥につけた手紙が届く。
――ブタペストは落ち着きを取り戻し、復興へとアンドラーシュ二世が進めております。先日、ダ・カマ様率いる食糧隊も船で付き、街も活性して来ました。
周辺の諸国より援助も増えており、徐々ではありますが前に進めております。週を変えれば行動できますが如何いたしましょうか。
アルメイダ将軍は団を整え川を上がると――
――無理のない範囲で行動するように。
プラハ自体は黒死病の被害は逃れたので、白魔術士と数百の護衛はブタペストで駐屯する方向で相談してみてください。詳しくは明日『神の声』で
プラハの問題が終われば僕達もブタペスト経由で戻るはずです――
手紙のやり取りを終え、食堂で簡単な方向性を話合う。
「まずプラハに着いた事でこの十字軍の目的は達成されたと言って良い。皆ご苦労であった」
「残るは連れ去られた子供達の問題。関係なくと言えども後味が悪い。よって精鋭部隊を組み。。捜索にと思うが。。」
「帝国軍が動く可能性もあります。兵の大半はこの夏まではプラハの滞在許可を大司書より承ってます故」
「では我がジャコモ騎士団で捜索を。人数から山越えは難しいと思うが。シューリヘト、どう思う?」
「私も同意見です。とりあえずリベレツに行きますか。ジャコモ騎士長はプラハに残ってくださいね?」
「・・行きたいが。ここに責任者もいる。。相手も大軍で待受けてる訳でもはなかろう。100程警護につける、聖女も行くのだろ?」
ジャコモは東十字軍でも、僕ら子供達に気をきかせ配慮してくれていた。先頭を守り道を突き進め。亡者の戦いでも被害者が出なかった部隊。本人曰く神の加護があるんだろうと。
実際の戦闘では騎士団を巧みに操り。
騎士の指揮を保てたのも彼のお陰だと思う。
ジャコモ十字軍は彼が専属の騎士団につけた愛称だった。その力はとても心強くある。
東十字軍は正直此処までで被害が大きい。
数百を超える仲間の死体。重症者を置き進む強行軍。
病魔に侵される白魔術士。必死に救いを試みる修道士。
同僚を失う事で受ける悲しみはどれほどであろうか。
将たるジャコモ騎士長やアルメイダ将軍は誇りを守り進んで来た。
僕達だけでは難しかっただろう。
それは能力や祝福などではない。心に支柱がいるのだ。
皆が皆役割を全うして今がある。
そんな事を考えながら、久々の寝具に倒れ込むように眠りについた。
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