非道の街 上(黒死病 - ペスト)
ハンガリー、ブタペストが舞台です。
世界で最悪な伝染病は黒死病。少なくとも義務教育で僕は教わった。戦争を除く人類史上最高の死者数。欧州の1/4がこの病で亡くなった。致死率の高さ、発生からの時間共に最悪だ。
街に―――着いたんだと思う。
多くの人の気配が。
いや弱っている生物の気配が関知される。
私はほぼ眼が見えない。
日の明かりで建物の輪郭が分かるだけだ。
今日は曇っている。それは解る。
だが人の様子がはっきりと見えない。
だからこそ魔力を上げる様に位置を探る。
暗闇にロウソクの火が灯るように。
しかしそれはどれも消えかけていた―――
「シュリンプ。視界の共有を」
「・・いや。とても見れないですよ?聖女様。。」
「いいから速く!遠くからでも、此れだけの死臭がするのです!貴方の視界を共有しなさい!命令です!」
少し前から煙の匂いはした。
初めは皆ざわついていたが今は皆無言だ。
死臭だけでなく、耐え難い匂いがする。
自然ではなく人間の出す独特の臭い。
・・この辺りの戦争はもうとっくに止まっている。
私達が来る事を知り、帝国は街に兵隊を派遣したのか?それでもこんな生臭い匂いはしない‼
シュリンプがあえて手を繋がらない事は珍しい。
あの子は今まで移動で常に隣で手を握ってくれていた。魔力共有で私に景色が見れる様に気を使って。
―へえ〜綺麗な山ですよ。
―あ、羊!毛刈り終わったのかな?山羊みたいです。
―おお。立派な橋です!落ちないように。
所々助けてくれた。
本当に感謝をしている。
何気ない日常の風景が。
この旅では輝いて見えた。
数分経っただろうか。
覚悟した様にゆっくりと手を握りしめて。
―――視界が 目蓋が開く
―――街の前にある大きな湖、バラトン湖だろうか。そこには幾つも狼煙が、対岸にも。春の雑草を集めて燃やしているのだろうか。
幾つも燃え後に残るもの。。黒い人骨の山であった
肌には豆粒状の丘疹を持つもので溢れ
手足は黒くまた動く様子はない
後ろ姿が普通と思えば喉から胸にかけ爛れ
天然痘が破れ描くように血が流れていた
化けものが死体を運び燃やす光景に衝動を覚えた
――それでも人と分かるのは大事な人達だからこそ。
彼らは嘆き、呻き、悲しみ、死体を大切そうに。足を引きずり、口元から血を流したとしても。顔は崩れ、倒れても。大事な人を葬る。子供も女も老人でさえ。
姿形は違えど同じ人間なのだ・・
私は思わず吐き出した。
『ぐぇっ! ぐっう。。ぐぇぐぇ!おぇ・・』
涙目になりながら、心底神を恨む。
その様子を気にするでもなく。
神の子は振り返り十字軍に声をかけた。
「十字軍よ!口当てを付け鎧で守れ!白魔術士よ!仮面をつけ手袋を!今より街に向かう。騎士は邪魔をし近づくものは切り捨てろ!」
「そ、それではあまりにも。。」
ルシアが心配そうに口を開く。
「傷口、体液、血より感染する!既に重症者は救えない!皆ああ成りたくないなら我が言葉を信じよ!我は『神の子』シューリヘトである!」
「「ははっ!!」」
「また、小動物からも同様感染る。ネズミには気をつけろ!全部切れ伏せるのだ!清潔に保て!」
それぞれ十字軍は準備をしていく。私達は特殊なフードなのであまり変わりがないが。。
何故この子は。。なんという強さか。
シューリヘトは行動指揮を取り街へと向かう。
湖で水死体が多かったのは。。これの所為か。大きな井戸に山程の死体が、また・・ネズミによって食い荒らされていた。
井戸周辺は血と泥。そして臓腑が散りばめられ蝿も集っていた。信じられ無いことに。。「み・ず・・み・」埋もれ・・生きているのか・・・
あぁ・・なんと惨い・・・うっうぅぅ………
「ぬぉおお!唸れ水球!!」バッシャーン!!
井戸が吹っ飛ぶ、いや10m程の水球で囲まれ小動物は溺れ死に。死体はとび散った。
「廻れ!水球よ!風の神エウロスの風よ巻き上げろ!」
水球が大きく回転をしていく。
井戸の周りは綺麗に吹き飛び。
廻りの家壁ごと風景が一新した。
残ったのは綺麗な井戸だけが残った。
そこには苦しむ人の姿ももういない。井戸の水は溢れるばかりに溜まっている。
「聖女様。井戸に癒やしをお願いします」
「はい。十二人の天使サリエルの月の霊力を此処に―――癒やしを与え給え」
空より光の柱が立つ。
水は更に輝きを放った。
シューリヘトは大きく息を呑む。
『皆、よく聞け!我は十字軍、神の子シューリヘト!この井戸は神の祝福にあり!動けるものは手当を行う!ハンガリーの民よ、動けるなら光の柱に集まれし!』
驚いた、大きな声ではない。が、頭の中に聞こえた。多分皆同じ感じを得たのだろう。皆が驚いていた。
「さぁ。白魔術士隊出番だ。行けるな?ルシア。近くは気をつけつつ。確実に治すぞ?」
「はい。皆も言われた通りの手順にて。魔力不足はトランポ隊へ。騎士達は混乱なく案内を。生きる意思があれば全員救いますよ!」
「「ははっ!」」
シューリヘトはその時も騎士へ警備と確保できる場所の打ち合わせを。彼には過去、何があったのだろうか?
………そして彼は。ずっと私の手を繋いでくれてた。
でも一度も笑っていない。厳しい顔だ。
一切余裕は無い。これからどれだけ厳しいのか伝わる。
□□□
昨年春。戦時に巻き込まれたからと執務の父は、西フランクより親族を頼り家族で引っ越した。田舎とは思うけど。嫌いな町ではない。
夏になると僕たちみたいな疎開も増えてくる。
・・孤児じゃないだけ幸せだ。
戦争はそういうもの。
――雨期の時。初めは一匹のネズミから始まったんだ。
家の前にネズミの死骸が。誰かのいたずらか?
学校に行って聞いて見ても誰も知らないって。
それから。街にネズミを多く見つける事になった。
屋根裏や下水だけでなく。道の真ん中、噴水の中、学校の教室まで。
「おい。ネズミ何匹見つけれるか勝負しようぜ?」
「いいけど汚いからなぁ〜薪拾い終わらせてからしよ」
トリゴと共に他愛もない話しをして森に向かう。今年は飛蝗の所為でほとんど麦がやられたから、パンが硬えよな、とか。美味いもん森で探そうぜ。。なんだ。。この量は・・
森の入った手前。。何千ものネズミの死骸が。
それは腐っているものや、硬直しているもの。破裂しているものも。。
カラスだけがつまんで。こちらを睨む。
「「カー!カー!カー!」」
怖くなってすぐに神官に話す。
「ネズミの死骸なんて珍しくないよ。死体で遊ぶと罰が当たるからね?大人しく帰りなさい」
それ以上は僕らに言えない。
数が数なので門兵に伝えてくれると聞き家に戻った。
どうもあの死骸が脳裏に焼き付いて。。しばらく僕は寝込む事になる。ただの風邪が。救ってくれた。
五日後。熱は冷めたと思う。
「お母さん?あれ誰もいないのかな。。」
家はやけにシンとしていた。家の中には誰もいない。
お腹が空いたのでキッチンで黒いパンを炙り窓を見ていた。
朝時だからか、誰も歩いていない。
と。黒い影が道を横切る。
「? なんだろ?」
家には鍵がしてあった。珍しいな。
一応用心に松明を持って出る。この辺りは時々狼が出るんだ。
街角を恐る恐る覗いて見ると。。
あれ?人が何人か倒れている?怪我かな。
黒い影は。。いた。あれは、ネズミの群れだ!
「う、うぁああああ!く、来るな!」
松明を降ると近づいて来ない。。しかもネズミは共食いをし。。よく見れば黒い点は全てネズミの死骸だった。
うっ。。気持ち悪い。。ゆっくりと人に近づく。
「大丈夫ですか?ネズミですか?」
返事はなく。身体をひっくり返したら。。
ブツブツだらけの顔と。血が穴という穴から。。。滴り落ちて。既に息は無かった。
「うぅうあああああ!!誰か!誰か!しんでるよ!」
通りは広いが返事はなく。
僕は怖くなって家に戻り鍵を締め震えていた。
昼には濃霧が濃いくなり。窓から何も見えない。
たまにネズミの群が見境なく移動する以外は音もしない。
「お母さん。。お父さん。。ううぅ。。早く帰って来てよ。。」
――少年の呼びかけに答える事はなく。
それから一週間、誰も訪れる事は無かった。
・・首が痒い。赤くなり。
脇や肘裏につぶつぶが。。痒い。。もう二日も食べてないし。。僕は死ぬのかな。。母さん。。死んだのかな。僕も血が出て。。死ぬんだ。。
『皆、よく聞け!我は十字軍、神の子シューリヘト!この井戸は神の祝福にあり!動けるものは手当を行う!ハンガリーの民よ、動けるなら光の柱に集まれし!』
――確かに聞こえた。ゆっくりと窓を見る。。
あぁ、こんな曇っているから光がよく分かる。あっちの井戸だね。。
ゆっくりと。ゆっくりと松明を持ち歩き出す。
久しぶりに開けて出たら。。死体は無く。
骨と血だらけの黒い道があった。
匂いは酷く。すぐに嗅覚は麻痺をした。
多分つぶつぶが破れた体液の匂いだろう。
光の柱に向かうと大勢の人がいた。見慣れない騎士、フードを被った修道士、まるで野戦キャンプのようだ。
「!!よく来たね。カロミラ!水を持って来て。うん。軽症だね」
「お姉ちゃん。。悪魔なの?」
短杖で身体中を探り、長い魔女の鼻マスク。目の部分は大きくフードを被り革の手袋。。悪魔に見えてもしょうが無いわよね。
「十字軍の巫女!聖母様のお告げにより助けにきました。我が名ルシアの名に願う。大天使ラファエルの声よ。彼のもの悪しき穢れを。癒やし給へ!」
ふっ―――
身体の力が抜けるような。
足が宙に浮かぶような変な感覚。
「大丈夫そうね?はいお水。よく頑張ったわね。名前は?」
「シャルル。シャルル・ド・ノートルダム。。お姉さん。僕にもみんなを助けることできるかな?多分。。お父さんもお母さんも死んじゃった。。ううっ。。」
「当たり前でしょう!助ける気持ちがあれば神は導きます!」
気がつけばぶつぶつが無くなっていた。
痒みもない。涙が。。落ちて止まんない。
―――僕は助かったんだ 神に感謝を
「シューリヘト様!生存者は天使ラファエルの祈りで黒死病は治療可能!白魔術士よ!軽症者より救え!」
「「はい!」」
ルシアの一声により現場は動き出す。次第に人は集まってきて。少しではある。持たず亡くなる者も。ほんの僅かだ。それでも救われた人が泣き喜ぶ光景があった。
更に次の井戸に光の柱が立つ。シューリヘトだ。
この後シャルルは十字軍に同行する。
プラハでは必死に生存者を探し伝えて走り廻り。
九歳にも満たないユダヤ系シャルルは、ルシアに引き取られ修道院で病気について學ぶ事に。それからノートルダムの血族は薬、魔法、祝福を学んで行く事になり十字軍の行動に参加し白魔術士とし活躍した。
プロテスタントを。神の教えを忠実に守りぬく。
これより250年後。再び黒死病がプロヴァンス地域で流行する。その時、創作薬剤を持ち誰よりも先に訪れた医師がいた。
黒死病流行の酷さを説明し、患者の隔離などの公衆衛生対策を行ったペスト医師はミハエル・ド・ノートルダムと名乗った。
そう。シャルルの子孫に当たる。
ミハエルはまた晩年、神々の言葉を予言に残した。
まるでルシアのような正確な予言書を。
おっと申し訳ない。
フランスの発音で言わなければ分かりにくいのだ。
- ミシェル・ド・ノストラダムス -
詩集とし世界にその大予言を知らすのはまだ先の未来であった。
そう「ノストラダムスの大予言」と。
彼は元々黒死病医師の技師でもある。
後に血清ができ、黒死病は治らない病では無くなるが、進行が早く。その恐怖は欧州に根付いていた。
中世欧州では半数以上の民衆が亡くなったという。
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