【Day 0】
トリプルモニターの冷たい光だけが
壁紙の剥がれかけた狭い自室を照らしていた。
アレン・ヴァンス(24歳)は
ディスプレイに映し出された文字列を凝視したまま
一歩も動かなかった。
カタカタと不規則に刻まれる
ハードディスクの駆動音だけが
静まり返った部屋に響いている。
彼は自他ともに認めるギーク――
それも、重度のネットストーカー気質を
併せ持つ天才肌のハッカーだった。
現実の人間関係からはドロップアウトしていたが
ダークウェブの海を泳ぎ、世界中のセキュリティの
脆弱性を突くことにかけては
プロのエンジニアすら領駕する技術を持っている。
「……やっぱり、僕の計算は間違っていなかった」
アレンは前髪を無造作にかき上げ
乾いた目をさらに細めて画面を睨みつけた。
画面に表示されているのは、ノックス郡の
ローカル医療ネットワークから極秘裏に傍受した
未公開の「症例報告データ」だ。
ここ数日、原因不明の『激しい狂暴性を伴う急性疾患』の
グラフが、数理モデルの予測曲線を完全に無視して
垂直立ち上がりを見せている。
さらに、州軍の暗号通信プロトコルが数時間前から
『フェイルセーフ・コード』へと移行した。
これは、政府がこの地域を見捨て、隔離する前兆だった。
ゾンビパンデミック。
世界はあと1週間で完全に崩壊する。
アレンは深く息を吐き出すと、デスクトップに用意しておいた
『Xデー用サバイバル・マニフェスト.txt』を開いた。
彼にとって、これは映画の出来事でも
ただの妄想でもない。
徹底的な論理とデータが導き出した
「確定した未来」だった。




